自己紹介。
この世界では王族から庶民まで誰しもが多かれ少なかれ必ず魔力を持って生まれてくる。
アリストレア王国も全国民が魔力を持っているが、高い魔力を有している者の多くは男性である。女性も少なからず居るが、その数は二割を下回る。
何故性別差があるのか明確な理由は分からないらしい。一部では、ある女神が多数の人間の男を殺した事により、怒った男神が女に呪いをかけたとかいう神話まで遡った噂まである。
なので、この国の高官や、この学院に居る生徒の殆どが男性なのだ。
「女の子って本当に珍しいからさ!だから驚いちゃったんだよねー。ごめんね!びっくりしたよね!」
「まあ、それなりには…」
先程、高級菓子を床に落とし、こちらを指差して叫んでいた赤髪の少年が明るい笑顔で、悪びれた様子もなく軽い口調で謝ってきた。
「メテオ、あまり悪いと思ってないでしょう。ごめんなさい、あまり気分を悪くしないで下さい。いつもこんな調子なんです」
「あ、はい。大丈夫です。そんなに気にして無いので」
「それなら良かった。貴女も、これをどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
そう言って、金髪おかっぱ頭が紅茶の入ったカップと、お菓子を私の前に置いてくれる。
紅茶の種類なんか全く分からないけれど、とてもいい香りがする。
お菓子を一口食べ、紅茶を飲む。そしてまたお菓子を食べる。
漸く一息ついた所で、赤髪また騒ぎ出した。
「ねー!いい加減名前教えてってば!僕はメテオ!メテオ・ロンバート!」
「…リズです」
「リズ!良い名前じゃん!あ、こっちはノアね!よろしく、リズ!」
「よろしくお願いします」
「敬語とか要らないんだけど。ね、ノア!」
「…リズさんはイースト地区の方なんですか?」
「そうですけど、何か?」
「いえ、なんでも。ノア・アーノルドです。メテオとは幼馴染なんです。よろしくお願いします」
そう言って、お互い頭を下げて挨拶をした。
校門前に並んでいる時から薄々気付いてはいたし、ある程度予想もしていたけれど、この学校は全体的に貴族が多く在籍している気がする。そして、おそらく新入生もまた、貴族ばかりだと思われる。
全校生徒の中で一体何人の人が庶民だろうか。
今日一日で、三人の貴族と知り合った(ただし、一人は喧嘩をした)けれど、庶民に友好的なのは今の時点でメテオだけだ。
なんでもと言った時のノアの目は笑ってなかったように見えた。多分、メテオと違ってちゃんと貴族なんだろう。
貴族とは、どの世界でも自分より身分が下の人間を見下す傾向にあるらしいから。
(あんまりよろしくする気はなさそう…)
人は見かけによらないし、目は口ほどに物を言うと、前世の先人達の教えである。
一見優しそうに見えても、実際は…なんて事はよくある話だ。もしかしたらノアも、優しくするのは貴族相手だけかもしれない。
(単に私の思い過ごしなら良いのだけど)
そんな事を悶々と考え込んでいると、またもメテオが空気を読まずに発言した。
「で、僕らが来た時からずっと喋って無いけど、君の名前は?教えて!」
私の隣に座っていたプラチナブロンドの髪の、妙に神々しく見える人に話しかけていた。
メテオの言う通り、先程から一言も話さず、ただひたすらお菓子を食べ、紅茶を飲んでいた。
そんな彼は、キラキラの目をして身を乗り出しているメテオをちらりと見て、一言。
「……レオンハルト・カーライル」
名乗ってすぐに目を逸らした少年を見て、メテオとノアは目を見開いて固まっていた。
そんなに変な空気の中で私が思っていた事はただ一つ。
(お菓子美味しい…)