決断。
「…リズ、少し話がある」
夕食後、モニターから流れているニュースを観ていると、真面目な顔をした父がそう言ってきた。
この父はいつも真面目だが、更にそう思うのは、雰囲気と声の質が普段と違うからだろうか。
余談だが、この世界は日本よりも遥かに技術が進んでいる。
今観ていたモニターも、自分じゃ分からないような、超最先端技術を使って作られている物だと思う。何せ、向こう側がうっすら透けて見えている。
(科学技術と魔法を良いとこ取りした感じ…)
そんな事を考えながら、再び食卓に着く。
「…リズ、今からとても大切な話をする」
「今日の売上の事?昨日よりは上がってたと思うけど」
「…違う。リズの、これからの人生の事だ」
「人生?」
「…あぁ」
何だろうか。
もしかして捨てられるのだろうか。
いや、優しいこの人達に限ってそれは無いか?でも人は見た目で判断出来ないし。
そもそも、お金に困っている様な事は無いと思う。
そんな事を考えている内に、いつの間にか父の隣に洗い物を終えた母が座っていた。
「あのね、話っていうのは、リズがこれから行く学校の事なの」
「……学校??」
(この世界にも存在するのか、学校!!)
「そう。この国の子ども達は、十歳になったら学校に行くと、決まっているでしょう?それで、リズもあと一ヶ月もすれば十歳になるわよね?」
「うん」
「それでね、ほら。リズは他の子達よりも魔力が高いから、一般の学校に行くのはちょっと勿体ないって思ったの」
「…うん?」
両手を合わせて、ニッコリと笑っている母の顔を見返す。
ニコニコ、ニコニコ。
正直、嫌な予感しかしない。
(嫌な予感程良く当たる…)
ずっと笑ってる母からそっと目を逸らし、父を見る。
目が合った父が口を開いた。
「…リズ。アリストレア魔法学院というのがある。そこへ行ってみる気はないか?」
「アリストレア魔法学院?」
「…ああ。魔力の高い者だけが入学できる学校だ。試験は少し難しいらしいが、リズの魔力量ならば問題は無いだろう」
「学院の案内が来てるから、モニターで確認しておいてね。それを見て決めて頂戴」
「分かった…」
話が終わって、すぐにモニターで確認してみる。
リズ様へ、と書かれた案内表示されている。
(プライバシーとは一体…。この世界にはそういう概念がそもそも無いのかもしれない)
アリストレア魔法学院の表示をタップする。
アリストレア魔法学院。
魔力の高い者が集まり、高度な魔法を学ぶ為に、初代校長マクレインが創立。
条約に従い、初等部、中等部、高等部の各三年間、計九年間の全寮制となってます。
それぞれの得意な分野の魔法を最大まで伸ばし、苦手はしっかり克服出来るカリキュラム!
貴方もここに入れば一流の魔法使いになる事間違いなし!
「…うわぁ」
(胡散臭…。今どき、怪しい悪徳業者とか詐欺師なんかも使わないと思うんだけど)
しかし、最初の文章以外はまともな事が書かれていて、学内の雰囲気や座学、実技授業の様子なんかの画像もしっかりと載っていた。
写っている生徒の突き出された掌の先には魔法陣があり、そこから火が出ている。
(まさにファンタジーだ。魔法の世界って凄い!)
案内の最終項目に目を通す。
入学金、授業料、寮費。九年間合わせて、とんでもない額だった。
冷や汗が出た。
日本円でいくらなのか検討もつかない。
取り敢えず、数百万だとは思う。もしかしたら千行くかもしれない。多分。分からないけど。
金額のその下、入学試験で良い成績、即ち特待生になれば、入学金はタダ。授業料や寮費は半額以下になるとある。
神様の所為でチートレベルの魔力があるなら、特待生も夢ではないかもしれない。なんなら楽勝かもしれない。きっと。
それに、せっかく魔法がある異世界に生きているのだから、魔法をもっと使えるようになりたいという願望は勿論ある。
割と日常生活の中でも両親を含めて皆魔法使っているし。
やはりなんと言っても、自分はこの世界の事について知らない事だらけである。学力や一般常識が問われる普通の学校へ行くよりは、魔力さえ高ければ入れる学校の方が良いに決まっている。絶対。
この際、特待生になる事は決定事項なので、お金の事は一切気にしてないし、心配もしていない。
「…よし、そうと決まれば!」
ぐっと右手で拳を作り、決意を固めた。