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王子様と村人D  作者: 十束万里
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転生後の世界。

 アリストレア王国。

人口約五百万人が暮らす、大陸第二位の大国である。


 海に面して漁業が盛んなサウス地区。魚は勿論、貝なども採れる。養殖も行っている。海は滅多に荒れる事は無いらしいが、所謂魔の海域があるとか無いとか。


 自然豊かで、土壌にも恵まれたウェスト地区。この世界にお米が無いのが悔やまれるが、色とりどりの、様々な種類の野菜や果物が栽培されている。中にはこの国でしか採れない物もあるらしい。


 この国の中心地、王宮と王侯貴族が住む、ノース地区。王室御用達の高級品店が建ち並ぶ繁華街もある。


 そして、庶民が暮らし、学校があるイースト地区。ここには、漁業でも、農業でもなく、自分の店を構えて仕事をする人や、役所関係の仕事の人。もっと端の方に行くと、夜の街があったり、柄の悪い人達が居たり、その日食べていくのがやっとな感じの人達が身を寄せ合って暮らしていたり。


 因みに、学校をノース地区に建てなかったのは、庶民を自分達の領域に入らせたくないという頭の硬い貴族達が多かったからだとか。

 そもそも、何故貴族が家庭教師では無く、学校に通っているかと言うと、この国には他の国とは違う、ある制度があるからだ。


 昔は貴族のみが勉強をしていて、庶民の識字率はとても低く、学力も無かった。

 そして、その学力の低さが仇となった事件が起きた。

昔、まだこの国が他国と戦をしていた時代。

ウェスト地区の、役人も居ないような小さな農村へ敵国が攻めてきた事があった。しかし、村人はどこの国か、どのくらいの人数か、国に正確に伝える事が出来ず、国は判断が遅れた。

 その結果、ウェスト地区は半壊したという、苦い過去がある。


 その時の教訓を生かし、先代国王は、庶民にも勉強をさせるべきだと新たな制度を作った。


 それが「十歳の誕生日を迎えた者は、身分問わず学校へ行き、知識を得る事」だ。


 この制度と国王の命の元、イースト地区を開拓し、学校を次々に建てた。

一般庶民又は金銭的問題がある者が行く、学費の安い学校。

王侯貴族の子どもが行く学校。

 そして、この世界の誰しもが必ず有している魔力が高い者だけが入学できる魔法学校。




 魔法が使えるファンタジー世界に転生し、神様の好意という名の有り難迷惑なプレゼントの所為で生まれつき非常に高い、チートレベルの魔力を身に付けてしまった少女がここに。

 転生後、リズという名前を授かった只今九歳十一ヶ月の、精神年齢二十歳越えの少女がいる。


 俗に言う、見た目は子ども、というやつである。


 彼女が生まれた当初、パン屋を営むごく普通の夫婦の間に、ありえない程の魔力を持った娘が生まれたと、とても噂になった。


 しかし、人の噂も七十五日。

いつの間にかそんな噂話は消えていた。これで話好きな暇な貴族でも居たら面倒な事になっていただろうけれど。


 閑話休題。


 リズは思った。

魔力など平均値で良かったと。

無駄に目立つ人生は送りたくは無いと。


 明らかに魔力だけ自分達の遺伝では無いのに、新しい両親はそれは優しく、溢れんばかりの愛情を注いでくれた。


 その優しさが居た堪れないと僅か五歳にして思っていた時期もあったなぁ、とパンを焼いているオーブンの前に座り込んで、自分の膝に頬杖を付きながら思う。


 こうして、生まれ変わった世界の事についてオーブンの前を陣取って考えに耽る程度には、今のリズは暇だった。



 だから、この時は予想もしていなかったのだ。


 後一ヶ月もしない内に、自分の人生が転生前とは百八十度も違う物になる事を。

 ぼっちだったあの頃とは比べ物にならない程多くの友人に囲まれた日々を送る事を。

 自分が恋をする事を。


 この時はまだ、知らなかった。

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