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王子様と村人D  作者: 十束万里
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誕生。

 何も無い、真っ白な空間に、突如として現れた大きな扉。

西洋風の石で出来たそれに背を向けて、自称神様はこう言った。


 「この扉の向こうは異世界です。貴女が新しい生活を送る世界は、平和な世界かもしれないし、その逆もまた(しか)り。危険な事で溢れている所かもしれません。貴女が今までの人生で培ってきた常識はこれより先、全く通用しないかもしれません。何より、扉を潜り抜けたその時に命を落とす可能性も十分にあります。それでも、世界の扉を開きますか?」

「…うん。私、もう決めたから。今度こそ、意地でも幸せになってやる。覚悟はもう決まってる!」

「そうですか。分かりました。では、最後にもう一つ。これは、私からの贈り物です。どうか受け取って下さい」

「…何?」

「きっと役に立つと思います」


 そう言って、自称神様が手を差し出してきた。

よく分からなかったが、取り敢えず握り返しておく。握手をした途端、何かが流れ込んで来たような気がするが、神様の方から手を離された。


 「それでは、扉の前に。扉が開いたら、後ろを振り向かず、進んで下さい。真っ直ぐ、前を見て歩いて下さい。どんな世界に繋がるかは私にも分かりませんが、貴女の未来が明るい事をここから祈っています」

「ありがとう!行ってきます!」


 静かに、大きな扉が開く。扉の先は眩しい程の光に包まれていた。

 一歩を踏み出す前に、もう一度自称神様の方を向く。

何を思っているのかは分からないが、ただこちらを見て微笑んでいた。

 最後にその神様に笑いかけ、そして手違いで私を葬った上司の神に心の中で禿げろと思いながら、一歩、眩い光へと足を踏み入れた。



 世界への扉へと消えて行った少女に、これからどんな未来が待ち受けているのか想いを馳せながら、自称神様は願う。


 「あの子の未来に幸あれ。今度こそ、天寿を全う出来るように」


 (さて、あの子の居なくなった世界の後始末をしなくては)




 …とても長い事歩いたような気がする。言われた通り、前だけを見据えてただひたすら歩いた。

 もしかしたらまだ一分も経っていないかもしれないし、実際は思っているよりも長い時間歩き続けているかもしれない。

 景色が変わらないので感覚が狂いそうになっていた時だった。


 突然、足元に穴が空いた。右足を出した瞬間、あったはずの道が途絶え、無かったはずの穴が現れた。

 そして、為す術なくその穴に向かって、真っ逆さまに落ちて行った。




 真っ暗闇を一点の光へと向かって落ちて行き、気が付けば明るい場所へ出ていた。


 どこかで赤ん坊の泣き声が聞こえる。誰かが慌ただしく動き回っている。

 赤ん坊は泣き止まない。

 うるさいな、そう思っていると、暖かい何かに包まれ、抱き上げられた。


 「元気な女の子よ!良く頑張ったわね!」

「ありがとうございます…!」


 別の誰かに抱かれる。暖かい、人の温もりを感じ、とても落ち着く。

 いつの間にか赤ん坊は泣き止んでいた。


 ところでここは何処だと辺りを見渡そうとするが、何故か上手くいかない。

 頭を大きな手で撫でられている感覚がする。というか、目もよく開かない。指は多少は動く。まだあまり良く見えない目を一生懸命凝らして見てみると、とても小さい、ふっくらとしたもみじの手が見えた。


 (…まさか、さっきから泣いてた赤ちゃんって、私か!?)


  一瞬で頭の中が真っ白になった。


 その後の事はあまり良く覚えてないが、無事に母親と思われる女性と自宅らしき場所へ連れて行かれた。


 「ただいま〜!貴方!」

「…あぁ、おかえり」


 父親と思われる人との対面も果たした。


 どうやら、私は本当に二度目の人生を赤子からやり直すらしい。

 精神年齢的に辛いが、こうなったらとことんダラダラと過ごす心積りでいる。


 (そうじゃないとやってられない…)



 こうして、神の手違いによって一度目の人生に幕を降ろした少女は、二度目の人生を一からスタートさせた。

  両親から譲り受けた顔面と、神様に授かった何かを携えて。


  穏やかな陽気に包まれた、とある昼下がり。

元ボッチ少女は、セカンドライフを送りだす。

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