結果発表。
私は今頭を抱えている。
もっと具体的に言うなら、椅子の上に正座して勉強机に両肘をついた状態で頭を抱えている。
それは何故か。
答えは、テスト結果が発表されたからである。
結果発表を確かに待ってた。特待生になるには、Sクラスで上位三位以内に入ってないといけないから、ドキドキしながら物凄く待ってた。
でも、これは流石にまずい気がする。
ギリギリ三位に入っていれば…、そう思ってました。
結果はクラス一位だった。
ちなみに、レオンハルトと同率一位だった。さらに付け足せば二位はメテオだった。
確かに、なんか良く分からないけどテストはスラスラ解けたし、何なら問題文を読んでると勝手に脳内に教科書が出て来て的確なページが自動で開かれててあれ、って思ったけど。
ページが開かれた上にそこに記載されている文章まで明確に思い出せて、さらにはその文章に紐づいた教師が言った言葉までもが正確に浮かび上がる始末。
何これどういう事、と思ったけどテストが優先だったからあの時は便利だなとしか思わなかったけど。
改めて考えると何あれどういう事なの。
確か世の中には瞬間記憶能力とかいうものがあったような気がする。
正式名称は分からないけどそんな感じだった、多分。それかな?
いや、確かに物心ついた時からどんなに小さな事でもまるで昨日の事のように思い出せるけど、まさか私にそんな能力があったとは。
神様設定盛りすぎじゃない?
記憶力抜群で魔力チートとかまるで何かの主人公じゃん。私には荷が重いんだけど。
いや、そんな事よりテスト結果よ。
王子と同率一位は目立ち過ぎだと思うの。
私ただでさえ庶民として目立ってるのに?これ以上目立つの??
胃が痛い。無理、しんどい。
まあ、どうするも何も結果が出てしまった以上は今更どうにも出来ないんだけれど。
頭を抱えて悶々としていると、部屋のドアがノックされ、外からメアリーの声が聞こえてきた。
ドアを開けた先に居たのは、真顔のメアリーでした。迫力があってちょっと怖い。
とりあえず中へ入ってもらうと、勝手知ったる。椅子に座って腕を組んでジッとこちらを見てくる。怖い。
「…どうしたの?」
「貴女、全教科満点ってどういう事よ。殿下はまだ分かるわ。でも貴女は今まで殿下の様にまともな教育は受けてきていないんでしょう」
「庶民だからね。そんなお金は無いよ」
「じゃあこの点数は何よ?」
「…あっ!カンニングしたとか思われてる!?」
「違うわよ!!」
「えっ、怖い」
「失礼ね!私はただ、どんな勉強をしたら全教科満点なんて取れるのか、その方法が知りたいだけよ。貴女がカンニングなんて馬鹿な真似するとは思ってないわ」
「どんな…って言われても、テスト中は頭の中に教科書が出て来てただけだから分からない」
「喧嘩売ってるの?」
「事実なんだけど…」
はぁ、と盛大にため息をついて額に手を当てるメアリーを見て、やっぱり私がおかしいんだなと再認識した。
自分でも何言ってるんだって思ったし、事実彼女にも何言ってるんだこいつって目で見られたし。
やっぱり神様設定盛りすぎだと思う。別にここまでしてくれなくても良かったと思うの。
生きにくくなるのは面倒だから嫌だな。
「何故頭の中に教科書が出て来るのよ…」
疲れ切った様子でメアリーが聞いて来たので、ありのままを包み隠さずに答えた。
「貴女のそれは立派な能力だと思うわ。見聞きしたもの全てを瞬時に記憶する、だなんてにわかには信じがたいけれどね」
「私もそう思う」
「なんで本人が信じてないのよ…」
「だって、今までは使い道が無かったから…」
「ここに来て初めて役に立ったのね」
「そうみたい」
メアリーは呆れているみたいだったけれど、本当にそうなのだ。
今まではどんなに細かい事を覚えていても、それを日常生活で使う機会なんて無かったから。
学校に通って、予習の為に教科書を見てると次の日の授業ではどのページに何が書いてあったかまで思い出せて、私ってこんなに記憶力良かったっけって不思議に思ってたくらいだし。
人によってはこの記憶力の良さは、単純に気味が悪いと思う人も居ると思うと今から憂鬱で仕方ない。
思わずため息をつくと、メアリーは額に当てていた手を元の腕を組んでいた位置に戻してこう告げた。
「まあ、貴女のその能力は黙っておいた方が賢明だと思うわ。貴女が信頼に値すると判断した者にのみ伝えるのも手だと思う」
「うん」
「誰彼構わずに言いふらしても、中には悪意を持って近付いてくる輩も居るかもしれないしね」
「うん。分かってる」
「そう、なら良いけど」
そう言うと、メアリーは椅子から立ち上がってドアへ向かって歩きだした。
ドアノブに手をかけながら彼女は後でリリアにも伝えておきなさいよと言って、そのまま出て行った。
…学校行くの嫌だなぁ。
「貴女まさかカンニングしたんじゃないでしょうね?どうなの!?」
「…してないですけど」
「じゃあどうして貴女みたいな庶民が殿下と同じ点数を取れるのよ!!」
転生特典?があるからです。とは流石に言えない…。
おはようございます。
登校前に女子寮の廊下でナターシャに捕まり、テスト結果の事で絶賛文句を言われています、リズです。
私を見るなり凄い剣幕でズンズン近寄ってきたかと思えば壁際に追い詰められ、望んでいない壁ドンもどきをされています。誰か助けて。
よく見るとこの子、私より身長低かったんだ…。
上目遣いじゃなくて完全にメンチ切ってるようにしか見えないけど。
そんな現実逃避をしている間にもガミガミと捲し立てて何かを言ってるけど、似たような事しか言ってない。語彙力無いのかな。
「ちょっと、聞いてるの!!」
「聞いてます、聞いてます。でも本当にカンニングはしてないし、出来るような状況でも無かったでしょう?」
「…それは、そうだけど。でもおかしいじゃない!一万歩譲って良い点数が取れたとしても!満点なんて有り得ないわ!!」
凄い譲るじゃん…。
確かに私も満点は無いと思ったけど。
「今回は山が当たっただけで、運が良かっただけですよ、きっと」
「…ふん!そういう事にしておいてあげるわ!!次は絶対貴女より良い点取るから!覚悟なさい!!」
ブォン!と立派な縦ロールを翻してやっと立ち去って行く後ろ姿を見送って、ずっと傍に居たメアリーを見る。
顔を背けてプルプル震えているし、リリアはその隣でオロオロしてる。
「…見てたなら止めてくれても良いのに」
「ふふ…ごめんなさい。面白くて…負け犬みたいで……んふふっ」
「笑いが堪えきれて無いんですが??」
「だって…次は貴女より良い点取るらしいのよ?テストの難しさだって違うはずなのに。笑っちゃうわ」
「良い性格してるね…」
「ふふ、ありがとう」
笑いすぎて溜まった涙を拭ってようやく落ち着いたらしい。
いつもの冷静なメアリーに戻ったところで、遅刻してはいけないので寮から出る為歩き出す。
一昨日メアリーが部屋から出て行った後にリリアも来たので、全く同じ説明をしたところ、素直に凄いと言われてしまった。
ただ彼女も馬鹿では無いので、もしかしたら私がクラスメイトからやっかみを受けるかもしれないと思い立ったらしく、今日は一日出来る限り一緒に居てくれるらしい。
朝会った時にそう宣言され、今も頑張るねと両手で握り拳を作ってふんすと意気込んでいる。
リリアは今日も可愛い。
校舎に向かう道中、男子生徒からチラチラ見られてはいたものの変に絡まれる事は無かった。
校舎へ入って、メアリーとの別れ際に彼女に肩を叩かれ激励を受けた。
リリアはより一層くっ付いて離れなくなった。どうやら護衛のつもりらしい。可愛い。
いよいよ、自分達のクラスの前まで来てしまった。
思わずリリアと二人、大きく深呼吸をする。
目を合わせ、頷き合い、何も無いことを祈りながらドアに手をかける。
意を決して教室に入った途端に浴びる視線。
ナターシャに捕まったせいでいつもより遅い時間に登校したのが災いして、既にクラスには多くの人が居た。思い切り目立ってしまった。
取り敢えず席に着こうと足を前に出そうとすると、クラスメイトのほぼ全員が一斉に立ち上がり、こっちに向かって来てリリア共々取り囲まれてしまった。
そして口々に喋り出す。
皆が一気に話すせいで何を言っているのかは定かでは無いが、所々凄い、とか天才だとかは聞こえる。
勢いが凄すぎて口を挟む暇も無いし、案の定リリアはわたわたして可愛いだけで役には立ちそうもない。
ただ、悪い感情で話している人は見当たらず、皆純粋に子供らしく凄いと褒めてくれているようだった。
少なくとも、私が見える範囲にナターシャのように敵意を向けてくる人は居なかった。
勉強が出来る子達は人格者でもあったらしい。何にせよ、これから九年間苦楽を共にして行く仲間達は皆良い子なようで安心した。
それはそうとして、この状況はどうやって打破したら良いのだろうか?




