事の発端、そして決意。
「突然で申し訳ありませんが、実はあまり時間がありません。手短に、今の状況を説明致します」
目の前の、自称神様の銀髪の男の人が言うには、私はどうやら死んだらしい、という事だった。
車に轢かれたことは思い出したし、何よりあの尋常じゃない痛みは確かに本物だった。多分、あの叩きつけられた感覚だと、病院に救急搬送されていたとしても間に合わなかったと思う。
本当、最期まで親不孝者だったなと思うが、あの母親の顔をもう見なくて済むのかと思うと、少しだけ清々する。
感傷に浸っていると、自称神様が衝撃的な事を口にした。
「本当であれば、ここに来るのは貴女ではなく、別の方だったのです」
「…は?」
「私はその方を迎えに来た筈なのですが…」
要約すると、今日死んでここに来るはずだった別の人を迎えに来る為にこの空間に来たは良いけど、そこに居たのは予定してた人間じゃなくて、私が居たとか。
そして慌てて上司に確認を取ったところ。
「あー…それなんだけどね。ごめんねー!間違えちゃった!手元が狂っちゃってね…悪気は無いんだよ!本当だよ、彼女にも謝っておいて!宜しく!」
そう言って連絡が途切れたとの事。
悪気があったら最悪極まりないし、謝っておいてじゃないし。自分で来いよ!
「…貴方の上司の事とかどうでも良いんだけど。ていうか、人間の生死って手元が狂っただけで決まるものなの?何それおかしくない?」
「申し訳ありません…。こちらの不手際で…」
「いや、別に貴方のせいじゃ無いでしょ。それに、死んだ事自体は別にどうでもいいんだよね。心残りとか無いし、何よりあんな親の言う事を聞き続けるのも疲れてたし。あの感じなら私が死んだところで悲しまないだろうし」
「そのような事は…」
「それより、私はこれからどうすれば良いの?」
「それなんですが」
曰く、私を死なせてしまったお詫びとして。
「新しい世界で、新たな生活を一から始めさせてあげれば良いんじゃない?」
そう失敗した上司から言われたらしい。
「勿論、貴女が望まなければ普段通り、死者として一度貴女を天界へ連れて行くだけなのですが…望まれれば私は世界への扉を開かせて頂きます」
「世界への扉?」
「はい。こことは別の、所謂異世界へ続く扉の事です」
「へぇ、そんなのあるんだ…」
今まで本当に申し訳なさそうに事の顛末を話してくれた自称神様の話を聞いて、思った。
もし異世界に行けば、碌でもない親とは違う、優しい、温かい家族に巡り会えるかもしれない。
もし異世界に行けば、今まで出来なかった友達が出来るかもしれない。
もし異世界に行けば、今度こそ幸せな生活が送れるかもしれない。
もしかしたらを考えたら、幸せな未来しか描けなかった。笑っている未来しか思い浮かばなかった。
想像だけでも、とても幸せだけど、それが現実になるのなら。
そう考えたら、答えは一つだった。
「世界への扉ってやつ、ちょっと開いてくれません?」