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王子様と村人D  作者: 十束万里
15/23

入寮、新たな友達。

 寮の部屋で授業の予習をしていると、モニターに連絡が入った。

 曰く、寮内の説明をするので一階玄関前に集まるようにとの事だった。


 部屋に鍵をかけて出ると、隣の部屋のドアが開いて人が出てきた。

 よく見ると同じクラスのあの庶民ぽい子。どうやら隣の部屋だったらしい。

 その子がこちらに気付き、会釈をしてきた。

 この時ビビッと来た。

この子は庶民こちらがわであると。そうと分かれば是非仲良くしなくては!

 そうは思ったものの、私はメテオのようなコミュ力お化けでは無い。そして積極性も無い。なんなら皆無である。

 あったら友達をつくるのにあんなに苦労なんてしてない。


 悲しい事に、今まで友達と呼べる存在なんて居なかった。

 人付き合い初心者である私は、声をかけようか、でも拒絶されたらどうしようとそんな事ばかり考えてしまう。

 一歩をなかなか踏み出せないで居ると、あの子は先に行ってしまった。残念。


 私もすぐに下に行くと、寮に居る生徒全六名と、四十代位の女性がいた。


 「皆さん集まりましたね。私はこの寮の寮監をしています、サーシャといいます。これから寮内を案内するので着いて来て下さい」


 サーシャと名乗った女性はどう見ても教師には見えなかったが、この学院の寮監を任されて居る程なのだから、きっとそれなりに強いのだろう。とても鍛えているようには見えないが。


 案内されたものをまとめると、玄関から入って右側には食堂、談話室が、左側には洗濯場と浴場があった。しかも大理石造りの、湯船付き。これはポイントが高い。元日本人としては最高だ。豪華すぎて落ち着かないと思うけど。


 そして再び玄関前に戻って来る。


 「ご飯は十九時、お風呂は二十時から二十二時までの間に入ってね。それと、二十時以降の外出はしない事。寮内で喧嘩や問題は起こさない事。問題を起こした生徒は罰としてお風呂掃除と寮周りの草むしりをしてもらいます。以上が大まかなルールです。質問がある子は後で個別に聞きに来てね。私の部屋は談話室の横にあるからいつでも来てね」


 サーシャの説明が終わると、もうご飯だからと皆で食堂へ移動する。

 寮監である彼女の仕事には食事の準備も含まれているらしい。全員で一列に並び、盛り付けられた器をトレーに乗せて行く。そして一つのテーブルに集まって食べるのだが、ここで一つ問題がある。

 そう、初対面の人間同士が集まっている空間は非常に気まずいもの。それも、隣の席が明らかに貴族ならなおさらである。


 そんな空気を壊してくれたのは最後に席についたサーシャだった。パンと手を叩き、いい笑顔で提案をして来た。


 「折角皆集まったから、食べ終わったら自己紹介でもしましょうか!」


 ご飯を食べ、片付けてそのまま談話室へ移動する。

 そして自己紹介が始まった。


 順番は部屋番号順になった。


 「二〇一号室のナターシャ・エミリオンですわ。九年間よろしくお願いしますわ」

 (縦ロールのお嬢様口調の子。良く言って気が強そう。悪く言えばプライドが高そう)


 「二〇二号室、メアリー・アルバです。よろしくお願いします」

 (クールなのか人見知りなのか。黒髪に眼鏡が印象的だ)


 「二〇三号室のリリア・ホワイトです。よろしくお願いします…」


 私が一番知りたかったクラスが同じで何処と無く庶民な感じがする子。でもファミリーネームがあるのでれっきとした貴族だった。しかし、深々と頭を下げているのを見る限り、この場にいる誰よりも仲良く出来そう。

 (表裏もなさそうだし…。何より良い子そうだし)


 リリアちゃんの事を考えていると、サーシャさんに促された。

 そういえば次は私の番だった。


 「二〇四号室のリズです。よろしくお願いします」


 そう言って下げた頭を上げると、ナターシャと名乗った子がこちらをガン見していた。

 (えっ、怖い…。私何かした?)

 目を合わせると、ふんと鼻で笑って顔を思い切り逸らされた。それはもう、勢い良く。

 あれは目を付けられたな。直感でそう思った。


 これからの学院生活で行われるであろう事の対策を今までの経験を織り交ぜつつ練っていると、いつも間にか自己紹介は終わっていたらしい。

 しかし、私の優秀な耳はちゃんと聞いて、脳は処理していた。

 二〇五号室の子がエリザベス・ターナーで、二〇六号室の子がユリア・ストーン。

 感想、皆若くて可愛かったです。


 そんなおばさんくさい事を考えていたら周りには誰も居なかった。つまり置いていかれた。

 一人で寂しく階段を上がり、部屋まで行くと一号室のナターシャちゃんが私の部屋の前に腕を組んで仁王立ちしていた。

 (なんで居るの…)


 彼女はこちらに気がつくと、足早に近づき詰め寄って来た。


 「貴女、リズさんとおっしゃいましたわよね?」

「あ、はい。そうです…」

「一言、わたくし貴女に言いたいことがありますの」

「あっはい。なんでしょう…」


 返事をすると、眼光鋭くキッと睨みつけ、私の顔の前に綺麗に手入れをされた指を突きつけて来た。そして一言。


 「私、貴女の事嫌いですわ。庶民である貴女が私よりも成績が良かったなんて絶対に認めませんわ!きっと何かの間違いですわ!」

「ええ…そんな事言われても…」

「それに、この由緒正しい学院に庶民が居ると品位が下がりますわ!今すぐ出て行って下さる?」

「それは嫌ですねー…」

「なんですって!?貴女この私に口答えしますの!?私を誰だと思って!!」


 頭に血が上ったのか、彼女の手が振り上がった。

 寮生活初日で面倒な事になったなと思っていると、ガチャリと何処かの部屋のドアが開いた。

 その音に気付いた私達は音のした先を見た。

 ドアが開いていたのは二号室、メアリーちゃんの部屋だった。当の本人は袋を両手で抱えて部屋から出て来た。


 「ねぇ、煩いんだけれど。静かにしてくれないかしら。それともさっき言われたルールをもう忘れたの?」


 彼女の眼鏡の奥の瞳はとても冷たく、冷めきった目で私達、主にナターシャちゃんを睨み付けていた。


 「…それ、私に言っているのかしら?」

「他に誰が騒いでいるの?そこの彼女は落ち着いて対応していたでしょう。声を荒らげていたのは貴女一人だけよ。貴族の令嬢がみっともない」

「なっ…!」

「貴女みたいな人が居るから貴族への当たりが強いのよ。理解できるかしら。それと、簡単に手を上げるのは感心しないわ」


 眼鏡を押し上げ、尚も冷たい瞳でナターシャちゃんを睨んでいる。

 貴族の家の格など私には分からないが、あれだけ強気だったナターシャちゃんが言い返さないのを見る限り、メアリーちゃんの方が立場が上なのだろう。実際、見事に論破されたナターシャちゃんは悔しそうに下唇を噛んでいた。

 そんな様子を見ていたメアリーちゃんは唐突に、完全に蚊帳の外だったこちらを見た。

 思わずドキッとした。ビックリしたという意味であって、決して変な意味ではない。


 「ねえ、お風呂一緒に行かない?」

「えっ…!?」

「あら、ダメかしら?」


 突然の誘いに動揺していると、首を傾げて聞かれた。美少女で、それに加えて救世主であり、友達になり得る可能性がある子の誘いを断る理由は勿論無く、すぐに準備して来る返事をして速攻で部屋に戻った。


 寝間着などのお風呂セットを持って部屋を出ると、メアリーちゃんはちゃんと待っていてくれた。素直に嬉しかった。因みに、ナターシャちゃんの姿は無かった。


 浴場までお互い無言で歩く。

着いてドアを開けると脱衣所には既に一人、誰かの洋服が置いてあった。

 服を脱いで、メアリーちゃんと一緒に中へ入る。そこに居たのは、なんとリリアちゃんだった。気付いた彼女と会釈を交わし、シャワーの前に立つ。

 (この世界のお風呂が前世と同じで良かった!)

 欲を言えば、椅子が欲しいところだが。しかしやはりお風呂の文化が進んでいるのは素晴らしいと改めて感動しながらシャワーを浴びていると、隣から声をかけられた。


 「ねえ、これの使い方教えてくれないかしら」

「え、はい。良いですけど…」

「ありがとう。家ではメイドがやってくれていたから使い方が分からなかったのよ。貴女を誘って正解だったわ」


 どうやらお嬢様は自分でシャワーを使わないらしい。それどころか、自分で体を洗わないし、着替えも全てメイドさん達がやってくれるとか。本人はされるがままで、ずっと立っているだけで全部終わると言っていた。

 (楽だろうけど…)

 私なら絶対に嫌だと思う。

人に何もかもやってもらうのは気が引けるし、何より恥ずかしい。


 成り行きで、リリアちゃんも一緒に湯船に浸かる。

 この世界に来てから初めての湯船だ。一般家庭にはシャワーしかないので、とても嬉しい。

 (気持ちいい…。やっぱりお湯に浸からないとダメだよなあ…)

 一人でほっこりしていると、メアリーちゃんがリリアちゃんに話かけていた。


 「貴女はアレの使い方が分かっていたわね。普段から自分でやっていたのかしら?」

「はい…。私の家は庶民上がりなので、貴族といっても末端の方で…。家もあまり裕福では無いですし…」

「確かに、ホワイトなんて聞いた事がないわね」

「メアリー様のお家から見たら私の家なんて大した事無いですよ」

「家もそんなにいい所じゃ無いわよ。過去の栄光に縋っているだけだもの。見栄を張るだけ無駄だわ」

「そんな事は…!」


 私の隣で美少女同士の会話が始まっているが、内容が酷い。

 無駄だと吐き捨てた時のメアリーちゃんの目がとにかく怖かったし、リリアちゃんの恐縮している姿も年相応とは言い難いし、この子達本当に十歳かと疑うレベルだ。本当は私と同じように中身はおばさんなのでは…。

 隣の会話に聞き耳を立てながら遠い目をしていると、メアリーちゃんが話を振ってくれた。

 ちゃんと私の存在を覚えてくれていたらしい。


 「リズさん、貴女リリアさんと同じクラスなのでしょう?Sクラスだったわね」

「何で知ってるんですか?」

「何でって、入学式の時に壇上に上がっていたじゃない」

「あ…そう言えばそんな事もあったっけ」


 そう呟くと、呆れた目で見られた。解せない。


 「貴女達一体どんな試験でどんな事をしたらSクラスに入れるのよ…」

「特別な事はしてないと思うんだけど…。リリアちゃ…さんは試験どうでした?」

 (危ない…危うく本人の許可無くちゃん付けで呼ぶところだった…)


 「私も特別な事は何もしてないよ…。一次試験が終わって、別室に通されて、二次試験を受けただけ…」

「うん、私もリリアちゃ…さんと同じ」

「あの…リズちゃん、無理にさん付けじゃなくて良いよ。私も庶民みたいなものだし、実際つい最近まではそうだったし…。それに、折角同じクラスになれたんだから仲良くしたいな」


 そう言ってこちらを見て微笑んでくれるリリアちゃんは控えめに言って天使だと思う。

 やばい、なんか変態みたいになってきた…。


 「ありがとう!リリアちゃん、これからよろしくね!」

「うん!よろしくね、リズちゃん!」


お互いに笑い合っていると、メアリーちゃんが咳払いをした。

 慌てて彼女の方に向くと、少し赤い顔をして私達二人を見ていた。

 そして、若干伏し目がちに口を開いた。


 「…良ければ、私とも仲良くしてくれないかしら?」

「…メアリーちゃんが良いなら勿論。でも私庶民だからメアリーちゃんには何もメリット無いよ?」

「むしろ、貴女が庶民だから仲良くなりたいのよ。貴族同士の腹の探り合いは疲れたの」

「そういうことなら是非!」

「と言うかリズさん、貴女リリアさんの事は躊躇って、どうして私の事は最初からちゃんなのよ」

「ごめんなさい!無意識だった!」

「…まあ良いわ。二人とも、これからよろしく」

「よろしく!」



 お風呂から出て、自分の部屋へと戻って来た。

 脱衣所で寝間着のリボンが結べなかったり、ドライヤーの使い方が分からないメアリーちゃんに使い方を教えたけれど、ワタワタしてる彼女はとても可愛かった。


 明日必要な教材を時間割を見ながらアイテムボックスに入っているカバンに詰め込んでいく。あっという間にパンパンになったカバンをボックス内に閉まって、ふかふかのベッドへ潜る。

 やはり無意識に気を張って疲れが溜まっていたのであろう。すぐにウトウトし始めた。

 明日からの学院生活に思いを馳せながら、ゆっくりと眠りに着いた。

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