いざ、学院へ。
「お帰りなさい!試験どうだった!?合格した!?」
「あ、うん。合格したよ」
(あれ、てっきり怒られると思ったんだけどな。試験官吹っ飛ばしたってまだ知らないのかな…?)
「おめでとうー!今日の夕飯は腕によりをかけて作るわ!」
「ありがとう、楽しみ!」
店を閉め、合格祝いという名の豪華な夕飯を食べ終え、ソファで寛いでいると、父に呼ばれた。
(遂に来たか!)
再び食卓の席へ着くと、いつもはニコニコしている母も今回ばかりは、とても真面目な顔をしていた。学校を受験してみたらと言った時の比じゃない程には。
「カイルさんから聞いたわ、試験場での事。一歩間違えたら大惨事だったわね。怖かった?」
「…びっくりした」
「そうよね。私も、まさかそこまでとは思ってなかったの。今回の事は、私達の責任でもあるわ。しっかりと魔力調整の仕方を教えて来なかったから」
「魔力調整?」
「そう。練習すればこの魔法にはこれくらいかなーって感じで魔力を自分で調整出来るようになるの。調整した量によって、威力が違ったりするからとても大事な事なんだけど…」
「…皆出来るの?」
「そうね、練習すれば!」
「…ただ、リズの場合は元々の魔力量が多いのと、来月にはもう学院に入学してしまうから、練習期間は限られてくる」
「でも、このまま出来なかったらまた今日みたいになるかもしれないよね」
「…そうね」
「じゃあやるしかないよね!どうやるの?」
「そういうのは私よりもカイルさんの方が良いわ!」
こうして、入学までの残りの期間、父カイルに魔力調整の仕方を教わる事になった。
私と同じ年齢の子どもが出来る程度には仕上げてからいかないと、このままではまずい。
どの世界でも、自分と違う人間は遠巻きにされがちだ。
つまり、強過ぎる力もまた、はぶられる対象になりかねない。
(子どもは純粋が故に、残酷だからなぁ…)
最初は皆仲良くしてくれるけど、少し違うと感じれば一方的に離れて行くから。
…この世界でも一人は嫌だ。
それからは、父による怒涛の魔力調整講座が始まった。
前世で母に隠れてやっていたゲームのレベル上げの様に、とても地味に、基本をコツコツと、たまに応用を交えて。
魔力発動までのイメージとしては、最初は小さなコップに徐々に水を入れていって、それを零さないようにする感じ。
もう零れる!って思った瞬間に魔法を使う。
何度か繰り返して、コントロール出来たらコップを大きくする様に。
そんな感じで一週間。
「…よし!」
いよいよ明日は、入学式だ。
式の後はそのまま寮に入るので、家に居るのは今日が最後になる。
少し前に必要な物は寮に送っておいたので、今日は明日持って行く荷物をまとめていた。
この世界には宅配は存在しない。
変わりに、転送ボックスなるものがある。どの家庭にも置いてある箱型の魔法道具で、その中に物を入れ、送り先を言うと数秒で送れるという、便利な代物。因みに、受け取りも可能である。
(宅配より便利だと思う)
明日は九時から式だから、八時には家を出ないと間に合わない。
貴族だったら馬車があるが、庶民は基本徒歩。
家から学院までは約一時間程度。これでも近い方だと思う。
(早起きしなくては)
明日から着る制服をハンガーに掛け、壁に吊るしておく。
前世で着ていた制服よりも可愛い。
白を基調にした制服はあまり見ないので、とても新鮮に感じる。
制服を見つめていると、ご飯よーと母の呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!」
リビングに行くと、父と母が待ち構えていた。
「リズ、これ私達から。入学祝いよ」
「ありがとう!開けて良い?」
「もちろんよ!」
リボンをほどき、ラッピングを剥がし、小さな箱を開けると、中には可愛らしいデザインの髪留めが入っていた。
所々に宝石が散りばめられた、素人目で見ても高価な物と分かる。
「…可愛い。でもこれ幾らしたの?」
「それ、私が家を出た時に付けてた物なの。娘が出来たら何時か渡そうと決めてたのよ!貰って頂戴。いざとなったら売ってお金に変えるのも良いしね!」
「売らない!大切にする!ありがとう、お母さん!」
「ふふ、どういたしまして。さっ、ご飯冷めない内に早く食べましょ!」
翌朝。
「…じゃあ、行ってきます!」
「体に気を付けてね。あまり無理はしちゃダメよ?嫌になったら辞めて帰ってきて良いからね?」
「…気を付けて。しっかり学んできなさい」
「うん!」
手を振る両親に背を向けて、学院へと一歩を踏み出す。
人生二回目の学院生活。
それが、薔薇色となる事を夢見て。僅かばかりの、希望を抱いて。
(目指せ、友達百人!!)