合否と、今世の両親。
「…試験当日に、学校から呼び出されたから何事かと思ったぞ」
「ごめんなさい。でも私もびっくりした…」
「…まぁ、何はともあれ、合格したんだ。早く帰って、母さんに知らせてあげなさい」
「うん、そうする」
結論から言えば、私を含めて全員が合格した。
ただ、私と他の三人の違いは決定的だった。何が違ったかのかといえば、このチートレベルの魔力だった。
まだ碌に魔法なんて使った事が無かった所為なのか、単純に魔力が高すぎたのか。メテオとノアは試験官の作ったバリアのようなものに攻撃を与えて、若干ヒビを入れていて、王子様はバリアを破壊した程度だったのに対し、私は指輪から放たれた火の魔法で、バリアを破壊し、更には試験官を訓練場の壁に叩きつけてしまったのだ。
試験の様子を別室で見ていた他の人が慌ててこちらに駆け寄り、指輪を渡すよう言われた。渡した後直ぐに周りに結界が二重に張られ、厳重な警備のもと、動かないよう厳命された。
それから大人達は慌ただしく動き回っていたが、具体的に何をしていたのかは分からない。
因みに、試験官は叩きつけられる直前に防御魔法を使っていたらしく、体は無傷だったが、持っていた杖は真っ二つだった。弁償するべきか否か…。
特に何も言われなかったので、多分弁償云々は無いと思う。…多分。
(家にそんな余裕無いし…。まぁ、パン屋にしては経済状況は割と良い方だとは思うけど、杖って高そうだし)
私の様な庶民は王子様や貴族の人達とは違って、馬車で帰るなんてことは当然無く、学院から無駄に長い帰路をただひたすら歩いていた。
その道中、父との会話は無く、お互い無言だ。元々あまり喋らない父だが、今回の試験時に私がやらかした事は学院側から聞かされている筈だ。
それなのに何も言わないのは、何故だろうか?
母と一緒に話し合うのか、それとも特に何とも思っていないのか。
ここで少し、この世界での私の両親の話をしようと思う。
まずは母から。
名前はアンナ・フレンチェ。由緒正しい、正真正銘、男爵家の元ご令嬢である。
父と結婚してからはフレンチェ家を捨てて庶民となった変わり者で、祖父に「二度と家の敷居を跨ぐな!!」とリアルに言われたそう。
因みに、母方の祖父母の顔は私も見たことが無い。
性格は明るく、好奇心旺盛。笑顔が可愛く、お客さんからの評判も良くて、今世の私の癒しである。
魔力はそこそこあるらしいが、魔法を使っているところをあまり見たことが無いので何とも言えない。
次に父。
名前はカイル。庶民の出たが、母と結婚する前は何処ぞの騎士団に所属してたとか、してないとか。魔力は割とあるみたいで、私の受験の為に魔法の基本などを教えてくれた。
騎士団時代はその魔力を生かして前線から後方支援まで幅広く活躍していたと、以前母が嬉々として語っていた。
性格は、真面目で優しく、寡黙な人。あまり喋らないので、仕事は主にパン作りと仕入れ。
コミュ障でも人見知りでも無いが、人と話すのは苦手な模様。
余談だが、母が父に一目惚れをして猛アタックし、なんか色々一悶着、二悶着くらいした末、漸く結婚に至ったそう。
とんでもない身分差婚である。
閑話休題。
つまり何が言いたいかというと、そこそこの魔力と、割とある魔力の間から産まれたとはいえ、並外れた、チート魔力を我が子が持っているのにも関わらず、何故こんなにも冷静なのかという事だ。
多分、普通の子どもは、試験官のバリアを突き破って吹っ飛ばしはしない。
にも関わらず、隣を歩く父は何も言わない。
(何でだろう…?)
「…どうした、入らないのか」
「えっ…あっ、入る!」
モヤモヤと考えている内に家に着いたらしい。
父が開けてくれたお店側のドアから家に入った私を待っていたのは、満面の笑みを浮かべた母だった。