目覚め、そして神様。
目が覚めたら、一面真っ白な空間に居ました。
「何処だろう、ここ」
右を向いても、左を向いても、白一色。方向感覚狂いそうなほど、真っ白。何故こんな所に居るのかも分からない。どうやって来たのかも、分からない。
眠る前、何してたっけ…?
「そうだ。私、確かお母さんと喧嘩して……」
数時間前。
「澪、貴女進路はどうするの?まさか高校も公立に行く気?小さい頃から貴女の習い事にいくら使ったと思ってるの?中学も受験に失敗して…。私も、私のお父さんとお母さんも皆私立に行ったのよ。貴女だけよ、みっともない。やっぱりあの人の子供ね。引き取るんじゃ無かったわ」
「…ごめんなさい。でも、私行きたい高校があるの」
「貴女の行きたい所なんて関係無いわ。私が選んだ所に行きなさい。今の貴女にはレベルが高いかもしれないけれど、昨日新しい優秀な家庭教師を見付けたから。今日から早速入ってもらったわ。ちゃんと教えてもらいなさい。いいわね?」
「…」
「返事は?本当に鈍臭いわね。人の話聞いてるの?これ以上イラつかせないで」
「…お母さんこそ人の話なんか全然聞いてくれない」
「…なんですって?」
「人の話聞かないのはお母さんの方じゃん!いつも一方的に話して、いつも自分勝手に決めて!私の意見なんか聞いてくれた事一度も無いじゃん!!」
「貴女の意思なんて必要無いのよ!貴女は私の言った通りにしていればいいの!いい加減にして頂戴!!」
母親が手を振り上げた直後、頬に痛みが走る。段々と熱を帯びていくに連れて、叩かれたのだと理解する。目の前を見ると、目を釣り上げこちらを睨む、母の姿。
「…もう沢山だわ。出ていって」
玄関扉の方を指差して尚もこちらを睨んでいる母を、頬の痛みのせいで出そうになる涙を堪えながら睨み返す。
「…分かった。出て行く。お母さんの顔なんか二度と見たくない!!」
自分の前に仁王立ちしている母だった人の横を通り、何も持たずに勢いのまま家を飛び出した。
家を出て、そのままの勢いで住宅街から一本、少し大きめの道に出た時。
誰かの叫ぶ声と、けたたましいクラクションの音、体に強い衝撃が走る。次いで、思い切り地面に叩きつけられ、視界が赤一色に染まった。
近くで誰かが救急車!と叫ぶ声や、大丈夫ですか!?と一生懸命声を掛けてくる人の声が聞こえていたが、次第に血の気が引いていくのが分かった。
直感で、死ぬのだと分かった。
脳が理解した瞬間、赤に染まっていた視界は、真っ黒になった。最期に脳裏に浮かんだのは、自分を甘やかしてくれていた亡くなった父親の顔だった。
現在。
「…人は死んだら三途の川に行くんじゃないんだ…。お父さんに会えると思ったんだけどなー」
取り敢えず今自分が居る場所が何処なのか把握する為に動き回ったり辺りを見渡してみるが、真っ白で何も情報を得ることが出来ない。
どうしようかと悩んでいると、突然肩を叩かれる。
驚いて振り返ると、そこには何処か困ったように笑う、銀髪の男の人が居ました。
「初めまして。貴女が藤堂澪さん?」
「…そうですけど。貴方は?」
「申し遅れました。私は、この空間を司る神様です」
「…」
拝啓、あの世のお父さん。
私は今、変な空間に自称神と名乗る、とても怪しい人と一緒に居ます。
…誰かこの状況を説明して下さい!!