誓約
「落ち着いたか?」
「うん…」
どのくらいそうしていただろうか。エリィはちょっと頬を染めながら離れ,椅子に座りなおす。シャルルは服を着ると,ベッドの上に壁に上体を預けて座る。
「龍戦士だってこと…どうして,黙っていたの…?」
「理由はいろいろあるんだが…まぁ…俺は前向きじゃないからな」
苦笑する。
「相変わらず理由は謎のままだが,俺は生きる気力がないんだよ。極論,何もかもどうでもいい。自分の事すらどうでもいいんだから,世界の事もどうでもいい。面倒事厄介事は御免なんだ」
「…じゃぁどうして,私にあんなに…」
「正直,はじめは面倒だったんだけどな。借りを作らない様に,きっちり清算するつもりだったんだ。お節介はやめてくれ,ほっといてくれ,って思ってた部分もある。だか…成り行きで,しがらみで,頼まれて…いつの間にか,本末が転倒してきた」
「…?」
「はじめは,痛くない苦しくないって死に方ができればそれで良かったんだ。あの入団試験の時は間違いなくそうだ。鎧を紅に染めたのも,もともとは敵を引き付けるためだった。だから…そうやって集めた敵には俺が当たる必要があったし,それに君をやらせるわけにはいかなかったんだ」
「…」
「が,いざ強敵の相手をするようになって…君を危険に晒したくない,と思うようになってきた」
「で,でもそれは…」
「分かってる」
反論しようとするエリィに頷いて見せる。
「君はそれを望んでいない。後ろに居ろなんて言ったりしたらむしろ積極的に前へ出る」
「う…それじゃ私が痛い子みたいに聞こえる…」
ふくれっ面になるエリィに苦笑する。
「はは…すまん。そんなつもりは無いんだ。だが…最近,それがかなり不安になってきた。俺は…まぁ曲がりなりにも龍戦士だ。その龍戦士が一撃で殺されるような強敵が出てきたとしたら…それは君を危険に晒す事になる。それが君にどうにかなるとは思えないし…それは本来,俺が居なければ遭わなくてもいい敵かもしれない。それはとばっちりもいいところだし,俺が君に迷惑をかける事になる」
「…それは…」
「特に怖くなったのは,先日のノーブルの話だ。龍戦士が惹かれ合うものだとすれば,遅かれ早かれ他の龍戦士が俺の前に現れることになる」
「!」
「それが俺なんかと違って恐ろしい力を持った敵だった場合…俺にもどうにもならないし,君にもどうにもならないだろう?だから…俺は龍戦士であることを隠し続けることに耐えられなくなった」
「…うん,分かった…あなたの言いたいことは分かったわ」
そこで突然,さばさばとした表情で言葉を挟むエリィ。
「…でも,それは私が覚悟を決めればいいって話よね?」
「…は?」
「もう知っちゃったし…私はそれでも構わない。迷惑じゃないわ,全然。だからそれはあなたがいなくなっていい理由にはならないし,私は納得しない」
「いや…君のその気持ちも,出発点は…」
「それも気にしない。あなたのせいじゃない。騙された私が悪いなんて言うつもりもないし,責任を取れなんて言ってあなたを縛ろうとも思わない。…私は…それで良かったと思ってる…から…」
最後だけはしかし,ややうつむいてゴニョゴニョと口ごもる。心をそっと撫でられる感覚。
「しかし…正体を明かしたからにはここにはいられない…」
「…どうして?」
「俺が龍戦士であることが知れれば…おそらく周りが,俺を放っておかなくなる。特に今は戦時だ。かなりの役割を期待されることになる」
「…ノーブルの言っていた,あの事…」
「そうだ…正直俺は,世の中の事はどうでもいい。というか,俺には荷が重い。しかし時代は英雄を求めている。他に適任が居なければ,役割が回ってくる事だってあるんだ」
「…」
「一番の困りごとは…。…正直,今ノーブルが居ないことにホッとしているが…伝説の龍戦士などに間違われることだった」
「あ…」
そこで女王からの依頼の件を思い出し,ハッとするエリィ。
「…違うの?」
「どうやら違うようだ。…しばらく,それとなく探っていたんだ。だが,その龍戦士と俺とはここへ来た時期にかなりのズレがある事が分かった」
「…そういえばそうね。でも…それなら別に…」
「いや…もし仮に,その伝説の龍戦士がもういないとすれば…身代わりにされる可能性は残っている。何せ…伝説の成就に血道を上げる奴らがたくさんいるからな。どうせ細かいところなんて何も書いていないんだろうし,極論すれば経緯なんてどうとでも誤魔化せる」
「…それは…そうね…」
「やる気のない発言で申し訳ないが,ほんと…世界の命運なんて勘弁してほしいんだ。トカゲにすらやられて二日も寝込む,なんちゃって龍戦士だからな」
「あっ…それは,その…」
さっきの発言を思い出し,気まずい表情になるエリィ。
「はは…実際その通りだから…。まぁとにかくそういうわけで世界なんて荷が重い。それに…見たことも無い女王様と結ばれるなんてのも,正直ごめんだしな」
「…美人だったらその気になるんじゃない?」
そこでちょっと不機嫌になるエリィ。
「…え?」
「アリシアの女王様よ?おしとやかで,すっごく美人って評判の」
「…おーい?」
「あ…」
そこでハッと我に返り,赤面。
「ご,ごめんなさい…」
「エリィ,もしかして君は…」
「え!?その,私は別に…っ」
「この間の,宮廷やらドレスやらって話を気にしてるのか?」
「え?あ…そっち…ううん,別にそんなわけじゃ…」
「大丈夫だって,着なくてもいいってのと似合わないってのは別だ。君にも似合うよ。間違いない」
「だ,だから違うってば…そもそも何よその根拠のない自信は…」
「それを見る機会がなさそうなのは…残念だけどな…」
「え…」
もじもじするエリィだったが,その言葉でハッと我に返る。
「正体を明かしたからには,もう今まで通りではいられない…そうだろう?」
「ま,待って!」
そう言って,じっと何事か考え込む。
「…?」
「ね…私…考えたんだけど…」
「ん?」
「内緒のままに,しておけばいいんじゃないの?」
「…は?」
「だから…あなたが龍戦士だってことは,このまま秘密にしておけば…」
「秘密にしておけって…もうばらしてるだろ?それに,瀕死の筈の怪我だってもう跡形もないんだ」
「わ,私が聞かなかったことにすれば秘密のままよ?怪我も,もうしばらく瀕死のふりをしていれば…」
「いや,それが申し訳ないからばらしたんだが…」
「申し訳なくない!私はそれでいい!」
「ちょ…」
そこでまた真剣な表情になると,エリィは距離を詰めてくる。
「ね…シャルル…正直に答えて頂戴」
「お…おう」
前にもこんなことがあったようななかったような…。しかし後ろはすぐ壁だ。
「私の事…迷惑?」
「いや…そんなことはない」
「本当?信じていいの?」
「あ,あぁ…間違いない」
「そのどもりは…何?」
「…大丈夫,間違いないよ」
「…じゃぁおかしいでしょ!」
「え!?」
「なんですぐ,居なくなるほうに話をもっていこうとするのよっ!?私はあなたに居てほしいのに,どうして…っ!?迷惑じゃないのに,居てほしいのにっ!居なくなるって,おかしいよっ!」
まくしたてる。そして,抑えきれず勢いのまま口走る。
「どうしてもどこかへ行っちゃうなら!どこでもいいから,私も連れて行って!」
「…え?」
「…あ…っ」
言ってしまってから驚愕の表情で口を押さえるエリィ。しかしもう後戻りはできないと思ったのか,言葉をつづける。
「…あなたが龍戦士かどうかなんて関係ない…。あなたはあなたよ…シャルル。私は…あなたと…離れたくない…離れたくないのよ!」
「エリィ…」
「お願いよ,シャルル…どこにもいかないで…私の側に居てよ。約束して…おいて行かないで…」
うつむいて言葉を絞り出すエリィ。
「…それは…約束できない…」
「!…何でっ!」
食い下がろうと顔を上げたエリィはしかし,目の前の相手が涙を流しているのに気づく。
「…え…?」
「無理なんだ…ノーブルが言っていた。アリシアに現れた龍戦士たちの中にも,事が終わった後に消息不明となった者がいると。元の世界に戻されたのか,また別の世界に飛ばされた可能性があると…」
「そんな…そんなの,ただの…」
「…あぁ。もちろん単なる推測だ。だが…それを聞く前から,俺にはなんとなくそんな不安があった」
「!」
「伝説の龍戦士たちでも抗う事のできなかった何かがそこにはある筈だ。俺にどうにかなるとは思えないし…それがいつ起こるのかもからない。明日かもしれない,もしかしたら間もなくかもしれないんだ」
「…っ」
「俺にとってこの世界は,いつどこで終わってもいい旅だった。思い出したわけではないが,おそらく,ここへ落ちてきた理由もそれが絡んでいるんだろう。だが…」
そこで微笑を浮かべる。
「成り行きに任せていたつもりが,深く踏み込み過ぎてしまったらしい。君にそこまで言わせてしまったこともそうなら,それを嬉しく思う今の自分もそうだ…」
しかし天を仰ぎ,目元を手で押さえる。
「だからこそ,俺は怖いんだ。龍戦士との戦いの最中に消えてしまったら。取り返しのつかない何かが起こってしまったら…怖いんだよ…」
「シャルル…」
「もっと早い段階で決断していれば…いや,いっそ俺が龍戦士でなかったら…」
そこでエリィの方へ向き直ると,精いっぱいの笑顔を作る。
「いや…ダメだな。一つでも違っていたら,こうはなっていなかった筈だ。お互い,こんな苦しい思いをすることもなかった筈だ。理屈で考えたら,間違いなくそっちの方が良かった筈だ」
「そんな…私は…」
「…だが…それでも俺は…君に会えて幸せだった…」
「!」
ボロボロと,見開かれたエリィの目から涙がこぼれる。
「…もうこれ以上を望んだら罰が当たる。だから…うわっ!?」
そこで再び,胸の中へ飛び込んでくるエリィ。
「お,おい…」
「行かないで…」
「い,いや,だから…」
「いつ居なくなるか分からないんだったら…それまで一緒に居て」
「な…」
「どうしようもなくなったら…しょうがないけど。我慢するけど…。自分から居なくなるなんて言わないで…」
「エリィ…」
◇
しばらくの沈黙。
「エリィ…」
頃合いを見計らって声をかける。
「なに…?」
「考えたんだけど,さ…」
「うん…」
「君を連れて行くのは,やっぱり無理だ」
「どうして!?」
「君に全てを捨てさせて,それで俺が消えてしまったら,俺が辛い。君がそれでいいと言ってくれても…いや,言ってくれるからこそ,それに応えられない自分が許せない…」
「じゃ,じゃぁどこにも行かないで…」
「とりあえず…別の世界へ行きたいとは思っていないよ。元の世界へ戻りたいという気も無い」
ホッと安堵の表情を浮かべるエリィを見て心が痛む。
「だが…君を危険に晒す事にも耐えられそうにない。俺が原因ならなおさらだ…」
みるみる表情が曇り,また目が潤み始める。
「で…でも…っ」
「エリィ…正直に言うよ。俺は結局,この世界には何の愛着もない。だから…今の俺にとって,この世界で大事なのは君だけなんだ」
「…!」
「俺が君の側に居ることで君に危険を招き,それをどうすることもできなかったら…俺は…生きる価値が無い…」
「ひどい…」
「エリィ…?」
「酷いよっ!そんなの!さっきと同じだ!そんな事言われたらっ!あなたに居てほしい私が,あなたを困らせる悪者じゃないか!何で…何でよっ!」
(う…)
両手を握り,胸板を叩いてくるエリィ。内と外両方の痛みに顔をしかめる。
「ねぇ…お願いだよ!そんな酷い事言わないでよっ!私,覚悟してるから!後悔しないからっ!一緒にいてよぉ…」
「く…」
そこでふと,ある事を思い出す。最後の手段。声を絞り出す。
「本当に…それでいいのか…?」
「えっ…?」
「”風”の流儀どころの話じゃない…。もしかしたら…一生君を縛り,苦しめることになるかも知れないんだ…それでも…」
「何か…方法があるの?」
「…一つだけある…。君が覚悟を決めるというなら…俺も覚悟を決める」
まっすぐにエリィを見つめる。
「…分かったわ。それでいい」
その視線を受け止めて,即答。相手のあまりの思い切りに,自分で言っておいてうろたえる。
「…お,おい?話聞いていたのか?どんな方法かも聞かずに,そんな簡単に…」
「他に方法はないんでしょ?なら,それでいい。後悔しない。私は…あなたと居たい」
真摯な瞳。また心を撫でられる。
「…分かった。…ありがとう,エリィ。俺は…全てを懸けてその気持ちに報いる」
エリィを離し,ベッドから出る。壁に立てかけてあった剣を手に取って,鞘から抜きはらう。
「それを…どうするの?」
「エリィ…そこに立ってくれ」
「…?うん…」
エリィを立たせると,その前に片膝をつき,柄をエリィの方へ,切っ先を自分の胸へ向けて保持する。
「え…?これは…」
「これは…まぁ…騎士の礼だ。俺は…君の為に命を懸ける」
「えっ!?ちょ…ちょっと待ってシャルル,私は…」
うろたえるエリィ。しかしその時。
「姫…その礼を甘く見てはいけませんよ…」
「!?」
扉の方から声。驚いてそちらを見た二人は,半開きの扉の隙間に立つ仮面の魔術師を発見する。
「ノーブル!?」
「それにしても…礼儀として少し開けておくのは良いですが,大事な話をする時くらいは扉はしっかり閉めたほうが良いと思いますよ…?」
言いながら,音も無く隙間から部屋の中へ滑り込み,扉を閉める。
「い…いつからそこに…?」
「『酷いよっ!そんなの!』の辺りからでしょうか…出先から戻ってきてみたら姫の叫び声が聞こえて。出所をさぐってみたらこの扉が開いていたと…」
「そ…そうか…」
とりあえずホッとする。そういえばエリィが戻ってきたときに,閉めずにいてそのままだった。あんな所とかあんな所とか見られていた日には,別の意味で姿を消さねばならないところだった。
「で,ノーブル…甘く見てはいけないって,どういうこと?」
「…流星殿がとっている騎士の礼は,古文書の記述にそれを見る事のできる古式…はるかな昔に行われていたとされるおそるべきものなのですよ」
「えっ?」
(そ…そうなのか?)
驚く。自分としては,つい先ほど思い出した”紅き流星”のやっていたものを真似ただけなのだが。
(…待てよ…)
自分が鎧を紅に染めた時,ノーブルは確かに”紅き流星”と言った。何かつながりがあるのだろうか。それとも全くの偶然に過ぎないのだろうか。偶然だとすればノーブルにあらぬ事を言われては困るので,適当なところで止めなければならない。逆に何かつながりがあるのならば,新しい情報が手に入るかもしれない。
「おそろしいって…何がおそろしいの?」
「その礼は,かつて人と竜の距離が近く,ともに戦場を駆けていた頃の…竜騎兵団と呼ばれる最強の騎兵団に所属した竜騎士たちの間で行われていたものです」
(…いきなりまったくかすりもしない別の話だが…。まぁ今のところ実害もないし放っておくか…)
「彼らが剣を捧げるのは生涯に一人だけです。そして,そこには命がけの掟があります。まず…一度取った礼は,決して引っ込める事はありません」
「えっ!?」
「彼らにその礼を取られた場合,それを受けるか,断るかの二つしか道は残っていないのですよ」
「で,でも…断るって選択肢があるなら,引っ込める事になるんじゃ…?」
「そこがおそろしい所ですよ姫。…断る場合の作法は…その剣の柄を,その状態のまま力いっぱい押し込むのです」
「!?」
驚いて剣を見るエリィ。
「それって…つまり…その騎士を…殺し…」
「そうです。竜騎士が剣を捧げるということは,その全てを捧げるということです。ある特殊な場合を除けば,生き死にもその相手の望みのままだ,という覚悟を持って行われるのです。受け取ってもらえないという事は,それはすなわち生きる価値が無いから死ね,と言われたと同じ事なのです」
「…その通りだ」
「…」
口元を手で覆い,おろおろするエリィ。しかし追い打ちをかけるようにノーブルは続ける。
「掟はまだあります」
「えっ!?」
「こちらは逆に,受け取ってもらえた場合の話ですが…竜騎士は,捧げた相手を命懸けで守ります。もし万一…その相手を守れなかった場合…」
「まさか…」
「ご想像の通りでしょう…その竜騎士は己の命を絶ちます。命と誇りを懸けて守るべき相手を失っては,生きる価値などあろうはずもありません」
「…その通りだ」
「…」
「まさに命がけ,生半可な覚悟ではできない礼だからこそ,その礼を尽くされることは当代最高の栄誉とされていたのですがね。竜騎兵団の消滅とともに長く失われてしまっていた様式だったのですよ…姫」
「ね…ねぇノーブル?さっき…ある特殊な場合,って言ってたわよね?それってどんな場合なの…?」
「…おそらく,姫の期待とは全く逆方向だと思いますが…」
ノーブルは苦笑する。
「竜騎士の礼は,捧げるのも一人なら受けるのも一人,と決まっているのです。…当然,ひとくちに竜騎士といっても力の優劣はありますよね?」
「まぁ…」
「一度捧げられた剣はその竜騎士が死ぬまでは戻せません。そこで…己の力の無さを認めた竜騎士は…」
「もしかして…」
「そうです。より強い騎士からの礼を可能とするために,身を引く…自決する事だけは自分の意思で行って良いとされているわけです」
(…それは知らなかった…ということはやはりただの偶然…?)
撤回させておくべきだろうか,と思うが,まぁまだ実害は無いからいいか,と思い直す。
「まぁ…二人目からは引っ込めさせてもいいんですがね」
「え!?どうして?」
「自分の為に命を落とした竜騎士を生涯ただ一人の騎士として認めた場合…ですね。その場合だけは,二人目以降を断ることができたのです」
「…」
(それも知らなかったが…そこはちょっとだけ訂正しておくか…)
「さて…姫,どうなさいますか?受ける場合には柄の部分にかるく接吻をして,流星殿の利き手側が柄になるように横へ向けて返します。断る場合は…」
「できるわけないでしょっ!?」
「…これは,失礼しました」
にこにこと笑っているかのような口元のノーブル。エリィはぐぐぐ,としばらく苦い表情をするが,ふぅ,と溜息をつく。
「しょ,しょうがないよね…それでシャルルが居てくれるんなら,お姫様をやるくらい…」
「んっ?…いや,別にそれは求めていないが…?」
「えっ?」
「君は君の思うとおりに好きにやればいい。俺が全てを懸けて君を守る,というだけの話だ。守れなければ,俺だけが生きている価値も無いし…力が及ばないなら身を引く。それだけだよ」
「シャルル…」
「それが…君の覚悟に対する俺の覚悟だ」
「分かった…」
ひとつひとつ確かめるように手順を踏み,エリィは剣を返す。
「姫…大変な相手に見込まれましたな」
「うん…」
ノーブルは相変わらず口元に笑みを浮かべながら,しかし予想もしないことを口走った。
「私も感無量です…何せ,龍戦士の剣を捧げられるなどユーリエ様並みの幸せですからね」




