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陥落

やはりあの蟹が帝国軍の切り札だったようだ。リザードマンたちの撤退と時を同じくして,正面を攻めていた帝国軍も退却していったのだ。今は再度の来襲に警戒をしつつも,戦場の後始末が行われている。

”風”のメンバーは食堂でくつろいでいた。再来襲に備えて警戒態勢のままではあるが待機状態である。

「しっかし…お前ら凄いな。まさかたった二人であの蟹をやっちまうとは」

短剣をいじりながらノエルが言う。

「シャルルが上手く注意を引き付けてくれていたしね。あれのおかげで,威力のある奥義を撃ち込めたのが大きかったわ」

「いや…結局俺は失敗しているんだ。あの最後の一撃が決まっていたら,取り返しのつかない事になるところだった…」

心が苦しい。せめて片方だけでもあの鋏を無力化できていたら。せめて宙にいなければ。考えれば考えるほど自分の過ちを責めてしまう。

「シャルル…」

「そういえばさー,最後のあれ,なんでああなったんだろうね」

フレイアの言葉にハッと我に返る。

「そうだ,結局どうなったんだ?俺は…見ていないんだ」

「それがのぅ…儂らには,嬢ちゃんの腕が鋏を受け止めて,それで弾き飛ばしたように見えたんじゃよ」

「そうそう。軽々と弾いたって感じだったよな。ありぇねぇ!って思っちまったぜ。本人的にはどうだったんだ?」

「夢中だったからよく分からないんだけど…そんなに衝撃を受けたようにも感じなかったかなぁ…」

エリィは思い出すような仕草を見せながら言う。

「…流星の努力が実ったのではないか?」

珍しくアラウドが口を開き,一同はそちらを見る。アラウドは,ボロボロに刃こぼれしあちこちにヒビの入った大剣を眺めていた。

「それで,壊れる寸前だった,ってことか…?」

「ふぅむ…確かに大男の大剣は通常の三倍の重量を持つ特注品じゃからのぅ…」

「でも,よくそんなもの振り回してあれだけの動きができたわよね…」

(よくそんなもの投げてよこしたな…)

それを口には出さず,夢中だったからな,と曖昧な笑いを返す。確かに思い返せば,剣と言うよりかはまるで大型の斧か何かを叩きつけているような感覚だった。あの鋏に押し負けなかったのはそういう裏付けがあったわけだ。

「ところで…あの蟹,結構普通に居るものなのか」

疑問を口にする。場の空気が幾分緊張する。

「また来るか?って事ならそいつは分からねぇな。あれだけのサイズの奴がそうそう居るとは思えねぇが,これで二度,俺達には想像もつかねぇ手を使われちまってる。しかも策の構えの中で,な…」

「でもさ,策っていうなら,アレ割と詰めの切り札じゃない?あそこから次の何かに行くとは考えにくいけどなー」

フレイアが言う。

「そうだな。正直俺にも,門を破ったあとの策が要るとは思えねぇ。だが…敵のその考えそのものが次の策の仕込みになるからな」

そのまま何となく,誰も口を開かないまま沈黙が流れる。

「な,なぁ…フレイア」

「ん?何シャルル」

「エリィの足に雷を乗せる魔法なんだが…他のものにも可能なのか?」

「どちらかというと古代語魔法の分野だけどね。武器や防具に魔力を乗っけて,一時的に性能を上げることは割とよくやるわ。例えば精霊とかみたいな,普通の武器じゃどうにもならない相手とやる時とかは重宝する」

「そうなのか…」

「じゃがそれはあくまで一時的なものじゃ。加えて,もともとの武具の性能をはるかに超える付与もできん」

ハーディが髭を触りながら乗ってくる。

「…詳しいんだな。ハーディも魔法を使えるのか?」

「儂の場合は装備品の知識じゃな。儂らドワーフ族は昔から鍛冶を得意としておるからのぅ」

「じゃぁ,ハーディに打ってもらうのもいいかも知れないな」

「お?お主なかなか嬉しい事言ってくれるのぅ。道具と時間さえあれば構わんぞい。じゃが…お主の技量ならば,業物を持っても良いのではないか?」

「業物…?」

「うむ。今は儂らもすっかりヌルくなっちまって無理なのじゃが,古代王国時代の鍛冶師たちは古代語を使っておったからのぅ。古代語を刻み込みながら鍛え上げる特殊な鍛錬法で,魔力を付与しておったのじゃよ」

「…ほぅ」

「それらのうち,まだ現存しておるものを業物と言っておるのじゃ。出まわっとる数は少ないしかなりの値もついておるが,優れたものを手に入れればかなり変わる筈じゃ」

「あー,やっぱり魔法の武具ってそういう理屈だったのね。今じゃ作れないわけだわ」

(…もしかして…)

ある可能性に思い至り,考えを整理する。

「む?結構興味がわいたかの?流星の」

「あ,あぁそうだな。…なぁハーディ。その鍛錬法自体は今も分かっているのか?」

「一応残っとるが?」

「例えば…そうだな,古代語を操れる魔法使いとかに協力を仰いだりすれば…」

「無理よ。それができたらとっくにやってるわね」

そこでフレイアが割り込んで来る。

「…何故?」

「んーと…簡単に言うとね。今の魔法使いたちが使っている古代語魔法っていうのは,古代語の力そのものを使っているというよりは,その力の出し方を利用しているだけなのよ」

「?」

「たとえば…このグラス。これが古代語だと思ってちょうだい」

フレイアは卓の上にあった空のグラスを手に取る。

「古代語が日常的に使われていた時…さっきの古代王国時代ね。その時は,このグラスは言葉そのものの力で満たされていた。ところが,時代を経て,すっかりその力は失われてしまった。言葉が変わっていったのもそうだけど,使い方も忘れ去られてしまったわ」

「ふむ…」

「で,今の魔法使いたちが学んでいる古代語というのも,基本的にはこのグラスの形を覚えているだけで,中身はないわけ」

「なるほど…つまり,中身を何かで補ってやらなければ力は使えない…それも古代語魔法の制約というわけか」

「そういうこと。術者の精神力をつぎ込んで発動しないといけないから,魔法の武具みたいな半永久的な効果は無理なのよ」

「ま,手っ取り早く業物を手に入れるなら金を積むこったな。でもなけりゃ,攻略されてないダンジョンに入って見つけて来る。たとえば最も深き迷宮みたいな…」

「今の儂らにゃ,どっちも厳しいのぅ」

「ハハ,違ぇねぇ。まぁ…結構活躍してるし,報酬弾んでもらえばいけるんじゃねぇか?」

と,その時音も無くノエルの背後に立つ影。

「皆さん…」

「おわっ!?」

驚いて後ろを振り返ったノエルは相手を見てまた驚く。

「だ,誰だお前は!?…って,ノーブルかよ…」

ノーブルは仮面をつけていた。露出しているのは口の周りだけである。

「ど,どうしたのノーブル?…あー…」

その変なお面…と言いかけて事情を思い出すエリィ。ところがノーブルはじっとエリィを見たかと思うと,突然感極まった声をあげだす。

「う…ううっ…姫ぇ。申し訳ありません,申し訳ありません…っ」

それは号泣と言ってすら差し支えない状況だ。

「え…?え?え?ど,どうしたのよノーブル?」

「…何か悪いモンでも食ったんかお主?」

(…俺のせい?)

不安にかられるシャルル。フレイアの禁断症状の例もある。この男ならこっそり魔法で経緯を観察していたかも知れない。となればこの後自分が責められる展開に…。

「…あ…」

周囲の目も憚らずしばらく独り言と思しきつぶやきを発しながら慟哭していたノーブルだが,やがてハッと我に返る。仮面をずらして涙を拭き,コホンと咳ばらいをする。

「失礼いたしました。私としましたことが取り乱してしまいました」

「なんなんだいったい…」

呆れるノエル。

「ところで魔法男。良いのか?仮面をつけとるとはいえ,こんなところに姿を見せて…」

「ええ…残念ながら,悠長な事を言っていられなくなってしまいました…」

「む?…何かあったのか?」

「…アリシアの王城が,陥落しました…」

「な!?」

それは誰もが全く予想していない答えだった。フレイアが信じられないと言った表情で口を開く。

「ちょ,ちょっと待ってよ…ルトリアからアリシアへ入る唯一のルートがここで…だから私たちがここを…」

「残念ながら…そこを逆手に取られたようです。こちらの注意をここに引き付けて,再編の終了した騎士団がこちらへ向かおうと王城から離れた隙を衝いてきたということです。残っていたのは第三軍の三割ほど…」

「ここにリザードマンが現れたのと同じ手を使ったってわけかい…」

「アリシア王城には魔法防御網が張り巡らされていたんじゃ無かったの?」

「…大半は軍勢による攻撃に対するものです。少数による潜入には対応していませんでした。残る防御も,どんな手を使われたのかは分かりませんが作動しなかったようです」

「敵は少数なのか?ならば,騎士団が反転して奪還すれば…」

「それが…」

苦しそうに言葉を絞り出すノーブル。

「女王ユーリエ様が,敵の手に落ちたのです。いえ,敵の目的は最初からそれでした。敵は…ユーリエ様の命を担保に,第三軍に王城周囲での防衛をさせています」

「な…!?」

「王城内にアリシア兵が一兵たりとも入れば女王の命は無い…という通達です。仮に騎士団が王城へ戻ったとて,手の出しようがありません」

「…やってくれるじゃねぇか…」

「さらに問題があります…。彼らがどうやって現れたのかは分かりませんが,時を稼がれてしまえば王城側の敵軍が増えてしまうかも知れません。こちらへの攻勢もいよいよ激しさを増しましょう」

「完全に挟まれちまうな…」

「騎士団は今後の方針について協議中です。ここへもほどなく報せが来るでしょう…。ここで踏みとどまるか,あるいはエリティアまで後退するか…協議となると思います」

「第三軍はどうするんじゃ?このままでは…」

「王城から撤退する分には追撃は行わない,とも通達があったようです。ただしあくまで,ここを攻撃している友軍が到着するまでの間だ,いつ来るかは向こうに聞いてくれと…。騎士団が後退を選択すれば,第三軍も退くことになるでしょうね」

伝令のアリシア騎士が到着したのか,表がざわざわと騒がしくなる。

「…しかし,随分鮮やかな手並みだな。指揮官は誰なんだ?」

シャルルの問いに,ノーブルは口惜し気に答える。

「…魔大帝ラズールの片腕,漆黒将ヴァニティ…」

「!それじゃ,将軍直々に少数で潜り込んで来たってのかよ…!」

呆気にとられるノエル。

(ヴァニティか…凄い奴だ…)

シャルルはなんとなく,ヴァニティと近いうちに相まみえることになるような気がした。

砦の中は騒然としている。上は上で今後の行動を協議しているらしかったが,傭兵たちにはもっと直接的な問題があった。自分たちに給金を払う国が無くなってしまったということである。

前金を受け取っていることと契約が完遂されていないことからそれほど大きな不満とはならないものの,現実問題としては何度か敵を撃退し,現時点での契約解除でもいくらか報酬を得ていいはずである。

ところがそのアリシアはもう無い。砦へやってくる騎士団を暫定政権と見てそちらに要求するということもありえるが,現実的ではない。砦の防衛に出ようとしていた軍団の持ち合わせなど知れたものだろう。

だがそれにもまして問題なのは,これ以上の戦闘がただ働きになる可能性が極めて高いということであった。どの時点で引いておくべきかを,各々が突き付けられていたのだ。

しかし現時点でもっともただ働きとなりそうな男,シャルルにとってそれはどうでもいいことだった。

「エリィ,ちょっといいか?」

何があってもすぐ対応できるようにと,荷物をまとめておくために”風”は解散して各々の部屋へ引っ込んでいた。

「どうしたの?」

扉が開き,エリィが顔をのぞかせる。

「ちょっと確認したいことがあったんだ。…鎧に書かせてもらったあの文字,どうなっている…?」

「それが…消えちゃってるのよ。きれいに」

気まずそうに答える。

「そうか…もし良かったら…なんだが。また書かせてもらっていいかな?」

「え?…わざわざそのために来てくれたの?…ありがとう」

招きに応じて部屋へ入る。

「ごめんなさいね,気を遣わせてしまって…」

「なぁに,さっきは君ばっかり危険な目に遭わせてしまったからな。このくらいはさせてくれ」

「シャルルだって,結構危なかったと思うけど?」

「いや全然。君の書いてくれたおまじないはまだしっかり残っているからな。大したことはなかったって事だ」

「…もぅ」

「あ…」

そこでふと思いつく。

「どうしたの?」

「あつかましいお願いなんだが…もし消えてしまったり,新調したりしたときは…」

「ん…いいよ,私で良ければ」

「ありがとう」

「ん…」

我ながら随分と気楽に話せるようになったもんだ,と半ば感心しながら文字を書き終える。頼むぞ…とまたその字を撫で,秘密にしておくことを約束して部屋を出た。

「ノーブル,居るか?」

次にハーディの部屋の扉を叩く。あまり人目につくのもなんだからと,ノーブルはそこに滞在していた。

「うおっ!?…とと,すまん」

扉の中からのぞいた仮面に驚く。

「おや,流星殿…どうしました?」

「さっきの話の中で,ちょっと気になったことがあってな…余裕のあるうちに確認しておこうかと思ったんだ」

正確には一方的な独り言だが,と心の中で付け加える。ノーブルを連れて自分の部屋へ戻り,椅子をすすめると,シャルルはベッドに腰を下ろした。

「で,確認したいことと言うのは?」

「ん…あぁその前に…」

手短にこれまでの経緯を話す。後で尾ひれの着いた話をされてはかなわない。何度か敵を退ける中でエリィがへそを曲げてしまったこと,それを解決すべく話をするなかでお互いがお互いの好きにやると決まってしまったこと,それによって結果的にエリィが危機的状況となってしまったことを話す。

「…というわけでノーブル。すまないが,意向に添うことはできないかも知れない」

「…分かりました…極論すれば,流星殿にあれこれ強制をするなというのも姫のご意思。ならば私にもどうこう言う資格はありませんし,それがいかなる結果を招こうともそれで流星殿を責めるのは筋違いというもの」

痛いところをついて来る。もっとも気にしているところを気にするなと責められているようなものだ。

「…すまんな」

「…では私も流儀に倣いましょう。これは私の願いです。…流星殿,もし貴殿がこれからも姫の事を思って下さるのならば,お力添えをお願いいたします」

「…あぁ。できる限りの事はするよ。…俺の意思で」

「感謝いたします。私もできる限りの協力はいたします」

ノーブルはそう言って頭を下げた。

「さて,本題に入るか…気になっていたことというのは,予言の話なんだ」

ぴくり,とノーブルが反応する。

「それに…さっきの話のなかで,アリシアの対応が腑に落ちないところもある」

「…さすがは流星殿…。分かりました,お話ししましょう。しかしその前に…」

ノーブルはそう言って,何か一言二言つぶやく。

「…姫,少々よろしいでしょうか?」

「!?」

蘇る苦い思い出。しかし,何故ここでエリィなのか。不安にかられる。おそらくはエリィと話しているのであろうノーブルのつぶやきを聞き流しながら,あれこれと思いを巡らせる。

「…なに,大したことはありませんよ…多分。今後の”風”にも関わってくるかも知れない話なので,順序は多少変わりますが手間を省こうとしているだけです」

そんな様子を察したのか,ノーブルは言う。しかし口元には多少笑みが浮かんでいるものの,外そうとしない仮面のせいで表情はうかがい知れない。そこで,ノックの音。やってきたエリィを招き入れる。

「さて…それではまず,アリシア王家の特殊性からお話ししましょうか。おそらく流星殿の腑に落ちていないところも,そこが絡んでいると思われます」

そう切り出す。

「ご存知のとおりアリシアは現存する国家の中で,最も古い歴史と伝統をもっております…いや,した,いえ,まだ終わったわけでは…」

「ノーブル,落ち着いて!」

ハッと我に返り,コホン,と咳ばらいをしてノーブルは続ける。

「…そのアリシアには,少なくとも私の知る限りの,古今東西の他の国家群とは決定的に違う王位継承のシステムがあるのです」

「どんな?」

「大抵の国家群では,基本,男性が王位を継承していきます。一説によればこれは,先頭に立って戦う勇者が王となったことの名残のようですね。その時々で女王が立つ事もありますが,その場合,血縁の濃い王族なり他国の王家から婿を迎えて血統を継いでいきます」

「ふむ」

「ところがアリシアの場合は,これとは全く逆に,直系の女性にしか王位継承権がありません。これは神々の言葉を聞く巫女としての資質こそが求められるアリシアの伝統とも言えるもので…男王が立つことも全くありません」

「ということは…それが途絶えればアリシアも終わるということか?」

「そういうことになりますね。男王や傍系の女王を立てて残したとしても,もはやそれは,アリシアという名前の国,というだけ。まったくの別物ということです」

ノーブルは続ける。

「ところが…現役のアリシア王族では,直系の女性はユーリエ様ただ一人なのです。すなわち,ユーリエ様の身に何かがあれば,そこでアリシアの王統も途絶えるということ」

「…現役,というのは?」

引っかかる。

「これも独特なシステムですが…アリシアの王位とその継承権は限定的なものなのです。例えば…血を継ぐ,ということで考えて頂ければ分かるかと思いますが…子を残すことが不可能になった時点で退役となるのです。これは仮に在位中の女王であっても逃れ得ぬ宿命です」

「なるほど…アリシアを存続させるためには女王の命が欠かせない,だからそれを秤にかけられれば手が出せない,ということになるのか」

女王の命と国家の存亡を秤にかければ真っ先に女王自身が自らの命を投げ出すところではないか,とも思っていたが,そう言える状況ではないということか。さらに言うなら,アリシア王家の者であろうとする限り,ここからどんな目に遭わされようとも自らの命を絶つ事は許されない。

「そういうことです…そこまで読まれていたとすれば,なおさら恐るべき相手です…」

苦し気にうめくノーブル。

「…かわいそうね,ユーリエ様…」

「…おぉ!姫!なんとお優しい…!!」

エリィの一言にノーブルはまた号泣をはじめる。

「ちょ,ちょっとノーブル…?今日のあなた,明らかにいろいろおかしいわよ?」

「す,すみません。あとで触れる…と思いますが,今日はいろいろと処理しきれておらず…」

ハッとして,涙を拭って,コホンと咳ばらいをしてノーブルは言う。今日はこれがお約束になるのかも知れないな,とシャルルは心の中で苦笑する。

「しかし…女王を最優先するのはいいが,奪還する手立てはあるのか?というか,そんな些末的な事で世界を救えるのか?」

「ちょ,ちょっとシャルル…そんなあからさまな…」

「ん,あぁ…まぁ自分でも多少優しさに欠けることを言っているとは思うが…現実問題,四王家で残っているのはエリティアだけだろう?加えて,ルトリアの封印も解かれた」

「え!?そ,そうなの?」

「大っぴらにはなっていないが,フレイアが言っていたからな…おそらく間違いはないだろう。これでアリシアの封印まで解かれてしまったら,いよいよ帝国には手が付けられなくなるのではないか?」

「…仰る通り,二つ目の封印も解かれてしまいました。確かに今のままでは,おそらく帝国には太刀打ちできないでしょう。そこで…」

そこでノーブルは言葉を切り,しばらくの沈黙ののちに意を決して言葉を継いだ。

「こちらの切り札となるのが,予言なのです」

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