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祈願

翌日,敵軍接近の報がもたらされる。敵の規模自体は昨日とほぼ同等。しかし連合の被った痛手は癒えておらず,籠城を選択する。

「さぁてこっからが本番だぜ?」

と,鎧の様子を確認しながらノエルが言う。今回は移動と布陣に時間を取られないため,比較的戦闘開始まで時間がある。特に”風”は遊撃隊として動くことになっているため,極端な話防備を破られそうになるまでは出番が無い。待機場所には出てきているが,まだそれほどの緊迫感は無い。

「橋は落とさないようだが,いいのか?」

「あぁ。落としちまうと反転攻勢ができなくなるからな。いよいよ戦力差が絶望的になるまでは,落とさないほうがいいんだ。幸いなことにここは周囲が川だからな。外壁に梯子やらを架ける場所が確保しづらい。となれば必然的に押しやすい橋から正門を狙ってくるだろうし,そうしてもらった方がこっちも戦力を集めやすい。それに,川向うから攻城兵器を使って来るならぶっ壊しに行くルートがあったほうがいいだろう?」

「なるほど」

「あ…ねぇシャルル」

とエリィが声をかけてくる。昨日の一件で吹っ切れたのか納得したのか,その様子はいつもと変わらない。こちらはこちらで多少気まずくも思うが,表に出しても余計に面倒な事になるので努めて平静を装う。

「良かったら…鎧,少し貸してくれないかな?」

「鎧を?」

「うん…ちょっとしたおまじないがあるのよ」

「構わんが…」

「これ!お主!」

と,そこでハーディに後ろから殴られる。

「な…!?何だいきなり?」

「せっかくの嬢ちゃんの愛情にそんな態度はないじゃろう!」

「!?」

「ちょ,ちょっとハーディ大げさよ,そんな…」

「いーや許せん!そんなふざけた奴にするくらいなら儂が…」

「あら?ハーディ?私のじゃ不足ってこと?」

音も無く背後に忍び寄ったフレイアがハーディの首に腕を巻き付け,猫なで声を出しながら絞める。

「うぐ!い,いやそんなつもりでは…」

「…???」

「…そういや記憶がないんだっけな。分からねぇのも当然か」

展開についていけず目を白黒させるシャルルに,苦笑しながらノエルが言う。

「昔から続いてる戦場の風習,っつぅかまぁゲン担ぎだな。無事に帰ってきて欲しいヤツの装備なりなんなりに,まじないの言葉を書くんだよ。その言葉が消えるまでは,それがそいつを護る」

「そうなのか…しかし,その…愛情というのは?」

そいつはな,と言ってノエルは続ける。

「妻とか恋人とか娘とかが戦地に行く男の無事を祈る,ってパターンが圧倒的なもんでな?後付けなのか何なのか知らんが,異性に書いてもらうと特に御利益があるって言われてんだよ。しかも…」

そこでポンッとシャルルの肩に手を置き,にやにやしながらさらに続ける。

「こいつは,書いてやる相手の数が少なければ少ないほど,思いが強くて効果も強い,って言われてんのさ」

「…もしかして…」

「まぁそういうことだな。光栄に思えよ?少なくとも俺が知ってる限りじゃ,お前がお嬢ちゃんの初めての男なんだからよ」

そう言ってノエルはにやりと笑う。後にも先にも正真正銘,お主が初めてじゃっ!と首を絞められながらハーディ。

「エリィ…」

「そ,そんな大げさなものでもないのよ…」

じっと見つめられたエリィは気まずそうに言う。

「おまじないは,…特に異性からのものは,たくさんありすぎるとケンカするとも言われているの。ハーディはもうフレイアに書いてもらってるし。フレイアだってそう。アラウドはずっと前に書いてもらったのがまだ残ってるようだし,ノエルは…私じゃなくても書いてくれる人いっぱいいるし」

「まぁな。それにそもそも,お嬢ちゃんのおまじないはいろいろと重すぎて俺には合わねぇ」

「なんじゃとこのインチキ王子」

「…おいおい価値が高いって褒めてんだよにらむなよお父さん…あとそのインチキ王子ってのヤメロ」

肩をすくめるノエル。

「かといって,他に書いてあげるような人もいなかったから,たまたま今回が初めて,ってだけで。シャルルだって,少なくとも今は書いてくれる人が居ないし…はい,どうぞ」

書き終わったエリィは鎧を渡してくる。

「ありがとう…」

「う,うん…」

鎧を着こむ。そこで,ふと気づく。

「…エリィは,誰かに書いてもらっているのか?」

「え?私?私は…」

「もし良かったら,俺に書かせてもらえないか?他に感謝する方法もないし…」

そこで,今度はノエルに後ろから殴られる。

「!?」

「正ぇ~解。よく気づいたな」

殴った拳で親指を上に立てるノエル。

「ふぅ~ん…」

意外なものを見た,という様子でしげしげと眺めるフレイア。

「嬢ちゃん,書いてもらえぃ。そやつ程の剛の者のならば,きっとご利益も並大抵のものじゃなかろうて」

「じゃ,じゃぁお言葉に甘えるね…」

胸当てを外し,幾分遠慮がちに差し出してくる。それを受けとって,そこで今度はハッと気づく。

「…すまん。書き方を教えてくれるか?よく考えたら書き方も分からないんだ」

「それはじゃのぅ…うぐぐ!」

「余計な事しないの!」

口を出そうとするハーディをフレイアが止める。

「…」

そのまま,アラウドを除く三人の視線にさらされて気まずい沈黙。

「エリィ,ちょっとこっちへ…」

「う,うん…」

シャルルはエリィを伴ってその場を離れた。壁を隔てて視線を遮り,腰を下ろす。

「…さて。何をどう書けばいいんだ?」

「えーと…,気持ちが込められていれば何を書いてもいいってことにはなってるけど…昔からある一番の基本形は「この者に害を為さんとする全ての事象を拒絶する」よ」

私もそれを書いたわ,と付け加える。

「全ての事象を拒絶,か…何となく,何でも防いでくれそうで良さそうだな。よしそれで行こう。…あー…字は汚いかもしれないが,とにかく気持ちを込めて書くよ」

「う,うん…」

シャルルは深呼吸して精神を集中し,胸当ての裏側に文字を書いていく。

「よし,これでいい。…頼むぞ,ご利益を…」

文字を手で撫でる。

「シャルルって…」

「ん?」

「やっぱりどこか遠いところから来た人なのかな。あ,ううん,別にそれでどうこうってわけじゃないけど…」

「…なぜ?」

「あなたが書いたそれ,まったく読めないのよ。少なくとも,ネペイジ語には見えないの…」

「何?…それは…」

頭をよぎる,ある可能性。

「…まずいな。もしかして,あまりにヘタすぎて文が判別できないとご利益がないとか?」

「あ,ううん。あくまで気持ちの問題だから大丈夫よ。それに…文字はともかく,書いてある内容は分かってるし。…気持ちを込めてもらったのも分かってるし…」

「…そうか。そう言ってもらえると助かるよ」

渡す。しばらくそれをじっと見つめるエリィ。

「…大事にするね」

「…消えたらまた書けばいいだけだ。…中の人の方が大事なんだからな?」

それもそうだね,と笑う。そこで,ふと思いつく。

「もう一つ,おまじないをかけていいかな?」

「え?どんな?」

「と言っても根拠は無いんだが…俺が書いたその字,誰にも見せないでくれ。それから,この事は誰にも言わないで欲しい。…何となくなんだが,秘密が多い方がご利益がありそうな気がするんだ」

「…うん。分かった。そうする…」

エリィはその胸当てをその場で着込む。

「…何か,本当に護られている気がするよ。その…とても気持ちを感じる…ありがとう」

「お,おう…」

気まずい沈黙。先に耐えられなくなったエリィが口を開く。

「あ…そろそろ戻らないとね…」

「そうだな…。…すまん,ちょっと野暮用を片付ける。先に戻っていてくれ。すぐ戻る」

エリィの姿が見えなくなると,鎧を脱ぎ,先ほどはさして気にも留めなかったその文字を見る。

(確かに…全く違う)

上手い,下手の問題ではない。しかしそれよりも不思議なのは,全く自分では書ける気のしないその文が,全く何の問題もなく読めるということである。読めたからこそそれほど気にもしなかったわけだが,それが自分で書けないとなれば話は別だ。

(明らかに何かがおかしい。俺は一体何者…うっ!)

うっかり考えてしまい,頭痛に襲われてそれに耐える。それが収まると,随分久しぶりの感覚だ,と苦笑する。と,その時遠くから喧騒が聞こえてきた。

「始まったか…」

今度の戦いはどうなるのだろう。野戦から籠城へと,一つ状況は悪化している。封印が解かれた影響が即現れているとは思いたくないが,全く不安が無いというわけでも…。

「シャルル!何やってる!行くぞ!」

ノエルの声。ハッと我に返り,返事をしながら大急ぎで鎧を着こむと,シャルルは走り出した。

戦いは,ルトリア側の門へ通じる橋の上ではじまった。押し寄せる妖魔の群れ。その先鋒を押しとどめる傭兵たち。少しでも勢いを止めようと,ぶつかっている位置よりもやや後方の妖魔たちを狙って城壁からは矢が射かけられ,それをさせまいと岸から城壁へも矢が飛ぶ。

「結構いい感じだな。押し負けてねぇ」

と,ノエル。差し当たって敵が砦の中へ入りこむまでは,遊撃隊の出番は無い。

「このままいけば,何とか凌げそうかしら?」

エリィがホッとしたように言う。自分たちに出番が来るということは,それはつまりかなりの苦境を意味するのだ。

「…このままいけばな」

しかしノエルは厳しい表情を崩さない。

「何か不安要素があるのか?」

「そりゃな…。前回はアレだ,挟撃やらワーウルフなんて真似をやってくれただろ?どの程度なのかは分からんが,とりあえず策を使う頭は持ってるって事だ。今のところ単純な力押しで来てるが,普通に考えりゃ…」

「…策の為の布石と考えるのが妥当,か…」

「そーいうこった。まぁ攻城兵器らしきものもないようだし,基本は守って戦ってりゃいいとは思うがな。挟撃をかけようにもまず立ちふさがるのは城門と城壁だ。昨日の規模のリザードマンくらいじゃ破れるとは思えねぇからな」

アリシア側の門は閉じてあり,上流の見張りからも異常なしとの報せが入っている。

「妥当な線としては空からになるんだろうが,単独で効果を上げるほどの数があるならここまでの戦いで出していてもいいはずだ。出してないって事は,何かと組み合わせなきゃならんって事さ。前線が砦の中へ入ってくるか,他の何かが…」

その時。城壁の上に動揺が広がった。そちらを見ると翼を生やした妖魔の群れが迫ってきている。

「ハーピー!」

足には岩を掴んでいる。それを上空から落として攻撃するのだろう。

「おかしいぞ…」

「ノエル?」

「このタイミングで出してくる意味が無い。あるとすれば,こちらの目を正面にくぎ付けにしておくくらいだ。となると…裏に何か仕込んでる!」

「行きましょう!」

エリィが短く叫び,一同はアリシア側の門へ向けて走り出す。ほどなく門が見えてくるがどうやらまだ無事のようだ。脇の階段を駆け上がり,城壁の上に出て様子を見る。

「あれは…」

対岸にはすでに,それなりの数のリザードマンが上陸していた。しかし居たのはそれだけではなかった。橋からほど近いところに上陸しようとしている,大きな物体。鎧のような硬質の殻に覆われ,巨大な鋏が二つ。触角のように飛び出た二つの突起を別々の方向に動かしながらゆっくりと斜面を登っている。

「ヒュージクラブってわけか…。まさかここまでの構えだったとは…」

舌打ちする。城壁の上に申し訳程度に配備されていた守備兵の間にも,動揺が広がっている。

「まずいのか?」

「へたな攻城兵器よりよっぽどな。あいつの外殻はそんじょそこらの武器なんざまるで歯が立たねぇ。力も強いから,この程度の門じゃ防ぎきれん」

「弱点は無いのか?」

「比較的効果があるのが魔法なんだ。だが第三軍は昨日のあれで壊滅してる…そこまで狙ってたんだよ,奴らは…」

「今城門を破られてあやつらになだれ込まれては,前線も崩壊しちまうぞい!」

「くっ…フレイア」

「え?」

「魔法で落下のダメージを和らげてくれ。俺が行って足止めする」

「な…!?」

「城門を破られたら終わりなんだろう?しかも奴が居なくなるわけじゃない。どうせやらなきゃならんのなら,今やるしかない」

「待て!いくらお主でもアレを相手に…」

「なぁに,倒せなければ注意を引き付けて時間稼ぎをするさ。どこまでやれるか分からんが,それしか方法は…」

「ダメよ」

エリィが遮る。

「ダメよ,倒さないと…前線が敵を押し返せる保証もないし,長時間足を止め続けるのも現実的じゃないわ」

その表情には,決意。

「…フレイア,私にもお願い。私も行く」

「嬢ちゃん!?」

「いちかばちかだけど,手があるの」

「…手?」

「一蹴砕万象の舞神流には,装甲を無視して身体の内部に衝撃を貫通させる裏奥義があるの。アレの弱点は雷。雷の魔力を私の足に乗せてもらって,それでアレの心臓を撃ち抜けば…」

蟹は上陸を完了し,ゆっくりと橋に近づいていく。

「しかし…」

「今やるしかない…でしょ?」

エリィは胸当ての胸の部分,ちょうど裏にシャルルの書いた文字のあるあたりに手を当てて微笑む。

「…分かった。俺が囮になる。どうすればいい?」

「甲羅側は起伏に富んでいて衝撃が分散してしまう。より確実にダメージを通すためには,腹を晒してそこを撃つ必要があるわ」

「分かった。先行して注意を逸らす。頼むぞフレイア!」

「りょーかい。任された!」

シャルルは城壁から飛び降りる。急速に大きくなる景色。

(う…これは…)

そこで不意に,記憶の奥底から何かが浮かび上がってくるような感覚。だがその感覚を確かめる暇は無かった。風の乙女が集まってきて彼の体を支え,落下の速度を緩和する。

着地。門に通じる橋の上で巨大な蟹と紅の鎧に身を包む男が対峙し,一瞬の静寂が訪れる。

「蟹は俺たちで何とかする!お前たちは邪魔させるなよ!」

ノエルが守備兵に指示を出す。おおおう,という彼らの声が,戦闘開始の合図となった。シャルルは蟹に向かって走る。

(あの鋏は厄介だ…)

シャルルの体並みの大きさの凶器。できるならば無力化しておきたい。触角のような突起の片方がシャルルを補足したように動き,威嚇するように上げられていたそちら側の鋏が振り下ろされる。

(力を受け流しつつ,利用して斬…)

刃先を下にして斜めに刃を合わせるが,力を込めてほどなくミシリ,と剣が悲鳴を上げたような感触。すぐにそれを諦めると,鋏の上を転がってやり過ごす。スピード自体は大した事無いが,恐ろしく硬く重い。

(さすがに正面からではきついか。ならば…)

次に狙うは関節部。いかに硬い装甲といえども,可動部は柔らかいはずだ。蟹はすぐさま鋏を振り上げ,今度は逆の鋏で攻撃してくる。シャルルは間合いを詰めると,鋏の関節を目がけて剣を突き出した。

バキィィン!乾いた音を残し砕ける剣先。しかし今度はいくらかダメージもあったようだ。蟹はびくりと身を震わせて一瞬動きが止まる。

(関節ならいけるか…しかし…)

「流星!こいつを使え!」

さすがに蹴りでは足を痛めそうだ,などと場違いなことを考えているところへアラウドの声。振り返るとすぐ側に投げられた大剣が浮いている。

「ありがたい!」

それを掴む。ずっしりと重い感触。こんな重い剣を振り回しているのか,と思いつつ意識を蟹に戻す。間合いを詰めたり離したりを繰り返しながら,次々と繰り出される蟹の攻撃の力も利用して,関節部分に正確に大剣を叩きつける。

蟹はかなり苛立っているようだった。叩きつける攻撃の度に関節部分に走る痛み,しかし挟もうとする攻撃は全く当たらない。注意は完全にシャルルに向けられているかのようだった。

「シャルル,行ったよー!」

フレイアの声。後ろにエリィの足音が聞こえる。

「よし!」

鋏を無力化できなかったのは残念だが頃合いだ。振り下ろされた鋏をかわし,わざと目の前で飛び上がる。その動きを突起が追いかけ,空中の獲物を狙って鋏を振り上げる。その勢いに逆らわず,上に乗ってさらに跳躍。蟹は上を見上げる格好となり,無防備に晒された腹の前へエリィが飛び込む。

「舞神流奥義…」

(…まずい!)

そこでシャルルは自分の選択の誤りを悟る。自分を追いかけた突起は一つだけで,もう片方の突起はエリィの方に向いている。

「砕心…」

エリィは正確に心臓を撃ち抜くことだけに集中し,それに気づいていない。踏み込んだ軸足が敷き詰められた石畳を踏み割り,全ての力が蹴り足に伝えられようとしたとき,反対の鋏がピクリ,と反応した。

「エ…」

「脚っ!」

次の瞬間,蟹の腹に蹴りが撃ち込まれる。同時に,蟹の全身の突起部分から放電したようなかのような空気の震え。衝撃は確実に心臓を撃ち抜き,蟹は一瞬で生死の境を飛び越えた。

だが繰り出された鋏は止まらない。完全に動きの止まっているエリィに襲い掛かる。

「!?」

もっとも頼りになる足は両方とも塞がっている。反射的に腕で庇おうとするエリィ。だが仮に足であっても暴力的な鋏の一撃を受け止める事は不可能だろう。宙にいるシャルルはどうすることもできない己の迂闊さを呪った。

「!」

起こるであろう惨劇から逃げるように目をつぶる。何か硬いものが瞬間的に壊れる,鋭い音があたりに響く。

「…くっ」

そのまま蟹の甲羅の上に着地する。まだ雷が残留していたのか,その瞬間にピリピリとした痺れが伝わってくる。

「すまん…エリィ…俺は…」

涙がこぼれる。

「…くっ…そおぉ…お…お?」

かっと目を見開き,絶叫しかけた彼は,しかし開けた視界に信じられないものを見た。その信じられないもの…エリィは,全くの無傷で,目を丸くしながらそこにいる。ズズゥン!と後ろに重い響き。振り返れば関節部分からちぎれ飛んだ鋏が半分土手に埋まっている。

「エリィ…無事…なの…か…?」

恐る恐る尋ねる。

「みたい…ね…」

当の本人も信じられない,と言った様子でぼんやりとつぶやく。

「…エリィ!」

撤退するリザードマンたちが川に飛び込む音が後ろから聞こえてくる。城壁の上からは味方守備兵の歓声。しかしそんなものはどうでもいい。蟹から飛び降りると,シャルルはエリィに駆け寄って問答無用で強く抱きしめた。

「え…ちょ,シャルル…」

突然の事に赤面し腕の中であたふたするエリィ。

「無事で良かった…」

だが今はそんなこともどうでもいい。とにかく無事が嬉しかった。

「…シャルル…」

エリィはそんなシャルルをそっと抱きしめた。

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