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四十三話

 最初に一撃を加えたのは冬子だった。

 駆け出したネスクをひと足で追い越すと、うず高くとぐろを巻いているシンの横に立つ。その場で振り向いて隊長がカノの乗る魔獣を叩いているのを見て、少年の姿が離れていくのを確かめてから武器を振りかぶった。

 まずは小手調べに、一撃。

 重たい金属の塊を力の限り振り抜いた。びりびりと手を駆け抜ける衝撃。その結果、ぱきりと岩盤のようなうろこがほんのひとかけらこぼれて落ちた。表面に生えているたてがみなのか、草なのか判別のつかないそよぐ緑もいくら宙を舞う。

 しかし、それだけだった。巨大な魔獣はぴくりとも動かず、寝息によって起こる風も変わらず規則的に吹いている。

 効いていない。しかし、想定内の反応であったので冬子は慌てない。

 さて、次の一撃はどうするかと考えたところで、追いついたネスクが足を止めずに冬子の横を駆け抜けた。

「一番手は譲ったけど、次は俺の番!」

 一声叫んで、ためらいもなく魔獣の体を駆け上っていく。

 その怖いもの知らずな行動に呆れて見送る冬子の視線の先で、魔獣の頂上まで登ったネスクが武器を振るう。

 駆け上がった勢いそのままに振り抜かれた圏は魔獣のたてがみを散らし、その下のうろこにはじかれた。

 がぎぃん、と妙にうねった金属音を響かせた武器の反動で、吹き飛ぶネスク。丘の頂上から落下してくる彼に冬子は慌てて跳ね寄り、その腰に巻かれた帯を掴んで着地した。

 着地のときにぐえっと呻くような声が聞こえたが、冬子は気にせずとぐろの頂上に目をやる。しばらく様子を伺うが、反応はない。

 そこで、隊長がようやく魔獣の元まで駆けてきた。

 横で文句を言っているネスクは放っておいて、冬子は隊長の意見を聞いてみる。

「二箇所、攻撃してみましたけど、どうします? 外傷はほぼなし。反応もなし。もうちょっと攻撃を続けてみますか」

 並んで魔獣を見上げた隊長は、あごをなでながらふうむと考えた。

「それでもいいが、あまり効果は期待できそうにないのう。攻撃するにしても部位を選ばにゃ、無理そうじゃなら。とりあえず登っても反応がないことがわかったから、身体の構造が見るためにもまずは頭の位置を確認してみるか」

 ふむふむ、と頷いた隊長はとぐろを巻く魔獣を登り始める。冬子はその後に続いてぴょんぴょんと上を目指す。あっちに跳びこっちに跳び、草の下をのぞいてみては頭を探す。

 二人に置いて行かれたネスクは、口を尖らせて不満げな顔をしながらも後を追って魔獣の体を登っていった。

 三人それぞれに魔獣の体をのぼっていき、頂上で鉢合わせる。

 まっすぐ進み、一番に登りきっていたネスクは頂上に突き出た二本の長い枝のようなものをつついていた。おそらくシンの角だろうが、彼に警戒する様子は伺えない。

 たてがみを採取したりうろこと思われる岩盤のようなものを観察したり、しばしば足を止めながら登ってきたのは、隊長だ。

 冬子はひょいひょいと跳びまわり、とぐろを巻く魔獣のあちらこちらを見ながら頂上についた。

「このうろこ、見た目は岩のようじゃがフユの一撃でもほとんど砕けんあたり、岩より硬いようじゃの」

 足元のうろこをじっくりと見ながら、隊長が言う。

「やっぱり、うろこが無いところを攻撃したいところですね。でもわたしが見た限り、どこもかしこもうろこに覆われてましたよ」

 冬子は自分の見てきたものを報告し、隊長の指示を仰ぐ。

「となると、あと見ておきたいのは頭じゃな」

 隊長の言葉に冬子が顔を上げると、ネスクがなにやらうなっているところだった。

 とぐろの頂上に立ったネスクは、そこに生える角の一本にしがみついている。しがみついたまま両足で踏ん張って角を押し上げてみたかと思うと、今度は逆に腕を絡めてぶら下がってみたり。まるで鉄棒で遊ぶ子どものようなことをしている。

「……なにしてんですか」

 冬子が呆れた様子を隠しもせずにたずねる。顔にも声にもあらわれている呆れを気にもせず、ネスクは角に絡まっている。

 手足を角に絡めてぶら下がったネスクは、逆さまになったままで首をかしげた。

「ここの下のとこに、ちょっと隙間というか割れ目というか、あるからさ。広がらねーかなあ、と思ったんだけど」

 押しても引いても動かねえや、と言いながらネスクは角から下りた。

 隊長と冬子が彼の足元を覗いてみると、なるほど硬いうろこの間にほんの指先程度の隙間が見えた。

 そう言うことは早く言わんかい、と隊長がネスクを足蹴にする。今言ったじゃないですかー、と上がる悲鳴を放っておいて、冬子は隙間に指をのばす。

 なんとか指がねじ込めそうだ。ごくごく狭い隙間は、冬子の指がぎりぎり入る程度。ネスクの指ではねじ込めなかったため、角を押したり引いたりして隙間を広げようとしていたのだろう。

「隊長、やってみていいですか」

 冬子が声をかけると、隊長はじゃれあいをやめてうろこの隙間に目をやった。角の辺りをぐるりと見渡し、うなずく。

「他と違う箇所は、角とその隙間くらいなもんじゃな。とりあえず、やってみい」

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