三十八話
カノたちが散歩から帰ってくると、冬子はすることもなさそうだから今日はもう戻るね、と手を振って別れた。
自室に戻るなり、冬子はインターネットで検索をかける。
検索する単語は、龍 倒し方。
すぐさま溢れ出す情報を流し読み、その大部分がゲームの攻略方法だと気づく。いくら詳細に書かれた確実な倒し方であっても、魔法が使えない冬子の役には立たない。あの非現実世界ならばもしかしたら魔法も使えるのかもしれないが、拳で戦うヒーローを好んでいたカノでは実現を期待できない。
持たない力はふるいようがないため、早々にあきらめて検索単語を変える。
龍 退治
今度は、先ほどよりも少しだけ物語り調のものが多く検索にひっかかる。それでも、龍を退治した人の話が書かれているぐらいで、戦い方は見当たらない。
その後も冬子は色々な単語で検索をし、龍のような魔獣と戦うために情報を探し続けた。
月曜日になると、冬子は朝一番の講義が始まるよりもずいぶん前に大学に行き、大学図書館に足を運んだ。
このところ予習復習のために頻繁に利用している勉強机が並ぶ空間を通り過ぎ、書棚に向かう。数冊の本を選んで貸出手続きを済ませ、講義室に行く。
まだ講義が始まるには早いため人がいない教室で、冬子は借りてきた本に目を通す。しばらくすると、早めに席に着く人びとがぱらぱらとやって来はじめた。
冬子の友人である女の子たちも来て、近くの椅子に席を取る。それぞれに準備を済ませると、彼女たちは冬子が読んでいる本に興味を示した。
「なになに、なんか面白い本でも見つけたの?」
読書好きな子が聞いてきたので、冬子は図書館で借りた古い本だと答える。ついでに本を持ち上げて背表紙を見せれば、彼女はすでに読んだことがあるという。冬子が借りた冒険ファンタジーの類は、中学生のときにはまって読み漁ったらしい。
そこまで話したところで教授が入室し、おしゃべりに終止符が打たれる。
講義終了後、冬子は読書好きな子に竜退治の書かれた本を教えてほしいと言う。魔法が出てこない話で、と付け加えるのも忘れない。
そうして教わった本の題名を書き留めていると、男子学生が話しかけてきた。このところ少しずつ会話をするようになった彼は、冬子が龍の出てくる物語りを探していることを聞くと、首をひねった。
「ゲームでなら、しょっちゅう龍やっつけてるけどなあ」
そう言う彼に一応、倒し方を聞いてみると嬉しげに語ってくれた。ゲーム機を使うゲームは小学生のとき以来やっていない冬子は、語られる言葉の大部分がわからない。わからないながらも、役に立ちそうな話はないかと聞いてみるのだった。
アルバイト先で冬子は手際よく仕事を片付け、パートのおばちゃんの小言も聞き流して帰宅した。
部屋に戻ると細々した用事を済ませ、明日に備えて早々に布団に入る。
しっかり眠って体を休め、ぱちりと目を開けて体を起こす。冬子は目の前にいる小さな友人ににこりと笑って、あいさつをした。
「おはよう、カノちゃん!」
いつもどおりにふんわり笑ってあいさつを返すカノを見てから、冬子は視線を動かし隊長を探す。
「隊長さんなら、王子さまとお話しがあるから行ってくる、って」
冬子の様子に気がついたカノが教えてくれる。それを聞いて、冬子は好都合だと立ち上がった。
「カノちゃん、お守り持ってる?」
扉代わりの布をくぐる前に聞けば、服の胸元を押さえてカノがうなずく。
それを確認すると、冬子はカノを連れてテントを出た。片手に巨大な槌を持ち、背中にカノを肩車して、冬子は走りだす。
カノが召喚初日に泊まったテントを目指して草原の中にある道を駆け抜ける。すぐに、他よりも大きく、立派な飾り布までついたテントを見つけた。テントの入り口には、知らない顔の隊士二人と並んでネスクが立っている。
冬子はネスクの前まで走ると、カノが振り落とされない程度に急停止した。
「あれ、どしたの。お前らもマイス王子になんか用?」
驚いた顔で聞いてくるネスクに、冬子は軽く首をかしげながら答える。
「主にルゴール隊長に用があるんですけど、王子さまも一緒なら都合がいいな。この中にいますか?」
テントを示しながら問うと、ネスクがうなずいた。彼は隊長のお供兼、荷物持ちとして来たらしい。
「じゃ、ちょっとお邪魔します」
王子さまのテントを目指して正解だった、と冬子は足を進めた。すると、ネスクの横にいた二人の隊士が慌てた様子で進行を妨げる。彼らは王子のテントにおける門番の役割なのだろう。
「いや、待て待て。予定にない奴は中に入れない。隊長に会いたいなら、外で待ってくれ」
そう言われて、冬子はにこりと笑って返すと再び歩き出す。
「王子さまにもついでに聞いてもらいたい話なんで、大丈夫ですよ」
あまりにも自然に通過しようとする冬子にあっけにとられ、門番二人はそのまま素通りされそうになる。しかし、はっと気づいて引き止める。
「いやいや、何が大丈夫なんだ。許可もないのに得体の知れないやつを入れるわけにはいかない」
冬子の腕を掴んで言う門番に、冬子はうんうんと頷いて返す。
「それなら、やっぱり大丈夫。カノちゃんは勇者。わたしはその召喚獣。ね、これ以上なく得体が知れてるでしょう」
にこにこと笑いながら言われ、戸惑う門番の肩を叩いてネスクも笑う。
「なんか面白そうだし、俺も一緒に入るわ。だから安心しろよ。な」
そうして、門番の二人が困惑しているうちに冬子とカノそしてネスクは、さっさとテントの中に入って行った。




