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三十四話

 カノはマイの背中に乗せて浮かべて来たから、心配はいらないだろう。冬子は思う存分、戦える。

 飛び出した勢いそのままで、うねうねと曲りくねりながら盛り上がっていく土の先頭に腕を突き込む。

 掴んだ。

 手ごたえを感じ、足が着地すると同時に腕を引き抜く。

 ずるり、現れたのは細く長いぬらりと光る生き物。先端部にぽかりと穴が開いている他は、目も鼻も見当たらない。くびれもなく頭から尻尾まで同じ太さをした姿は、長さこそ違うものの土色をしたちくわのようだ。

 わしづかむ冬子の腕に、蛇に似た長い体を絡ませる。

「うげっ」

 蛇をあまり好まない冬子は、そのなんとも言えない感触に思わず変な声をあげてしまった。苦手とまでは言わないが、なんとなく忌避感がある。けれど手を放してしまうわけにもいかず、腕を伸ばしてできるだけ遠ざけた。

「なにしてるのさ、早くひねり潰しなよ。それぐらいできるでしょ」

 矢を放ち、また一匹仕留めたウコットが、先端の開口部をのぞき込んで嫌な顔をしている冬子を急かす。

 腕力的にはかんたんだろう。今の冬子には、巨大なイノシシを殴り飛ばすだけの力がある。試していないけれど、きっと片手でりんごを握りつぶせるだろう。竹だって素手で割れるかもしれない。

 けれど、この手の中の生き物を握りつぶすのは難しい。

 とんでもなく硬いわけではない。握った手の感触が、しなやかに動く体の適度な弾力を伝えてくる。

 ただ、冬子は素手で命を握りつぶすのが怖い。生きて動いている物が自分の手の中で動きを止めるかと思うと、ためらってしまう。

 これまでの戦闘では、精神が効用していたり自分たちの身に危険が迫っていたため、深く考える間もなく力をふるえた。

 今回は、見た目への嫌悪感で気持ちが冷静さを取り戻してしまい、さらに敵との体格や力に差がありすぎてろくな抵抗もされていない。あまりに一方的な攻撃は理不尽な暴力行為のように思えて、冬子の精神が制止をかけてくる。

「なにぼうっとしてるのさ。まだまだいるんだから、さっさと働きなよ。ここの土が使いものにならなくなっちゃうでしょう。それともなに、お前が先に役立たずになっちゃったわけ?」

 矢を放ち魔獣を仕留めながら、ウコットが冬子をせっついてくる。そうしている間にも、あちらこちらで土が盛り上がりひび割れていく。

 冬子はぎゅっと口をひきしめると、手近な柵に結ばれた紐からマイを外し、蛇のような魔獣を結びつけた。

 考えるのは後にしよう。

 そうして、ふたたび土の中から魔獣を引きずり出すために、地を蹴り駆けだして行った。


 畑を駆けめぐることしばし。土のひび割れが止まる頃には畑に矢が乱立し、柵に浮かぶ紐にはマイを先頭に蛇型の魔獣が連なり、まるでこいのぼりの見本市のようになっていた。

「カノちゃん、もうにょろにょろ見当たらない?」

 もこもこ魔獣の背に乗り高みにいるカノに、冬子は問いかける。

 見たところ撲滅できたようであるが、地表からでは見落としがあるかもしれない。

 しばらくきょろきょろとあたりを見回していたカノは、こくこくと頷きながら返事をしてきた。

「もこもこ動いてるとこ、ないみたい。だいじょうぶだと思うよ」

 それを聞いてようやくほっと力を抜いた冬子は、紐をたぐってカノを地上におろしてやった。

 怖くなかったか、と聞けば、ふかふかで気持ちよかったとの返事。怪我人もおらず見た目の被害は畑の土が盛り上がっただけなので、少年の精神的な負担にはならなかったようだ。高いところにいたことについても、柔らかい魔獣の背に乗って浮いていたおかげで、アトラクションのように感じたのだろう。カノが元気そうでなにより、と冬子はあらためてほっとする。

「なんだよ、これ。土が使い物にならないじゃない」

 冬子たちから少し離れたところでしゃがみこんでいたウコットが、ぶつぶつと文句を言う。

 耕し、土を盛り上げて畝を作っていた畑は、縦横無尽に走るでこぼこした土の盛り上がりのためにひどい有り様であった。

「もう一回きれいにならしたらいいんじゃないの」

 畑って土をひっくり返したりまた平らにしたりして使うものでしょう、と何気なく言った冬子は、呆れたと言わんばかりのウコットの視線に戸惑った。

「この土を見てみなよ。それでも同じことが言える? もし言えるんだったら、ぼくはもうお前に話しかけることはやめるよ」

 言われて、冬子はウコットのそばにしゃがみ彼が掘ったのだろう地面の穴をのぞく。

 でこぼこになった以外に変化はないと思っていた土の下には、硬く粘性を失った土壌があった。手に取れば、ぼろぼろと崩れ落ちる。

 被害にあわなかった箇所と比べて、その差に驚く冬子をウコットが笑う。

「からっぽの頭でも一応、目と繋がってはいるんだね。次は耳と繋がってるか確認しようかな。お前ら、隊長を呼んできて。そのやたら高い身体能力を無駄にしたくないなら、できるだけ急いでね」

 いい加減に彼の口の悪さに慣れてきた冬子は、必要な情報だけを頭に残して頷いた。少し考えて、カノを軽く持ち上げると肩車して走り出す。

 自分がここにいることを無駄にしないために、隊長の元へと力いっぱい走った。

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