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三十三話

 細かい説明をしてもどうせわからないだろう、とひとしきり冬子たちを馬鹿にしてから、ウコットは仕事を再開する。

「ぼくが指示を出すから、お前らはマイを運んでよ」

 仕事をするなら内容を把握しておいたほうが動きやすいと冬子は思うが、余計なことを喋ればまた倍以上の悪口になって返ってくるに決まっている。ならば、腹は立つけれど黙って従い素早く終わらせてしまいたい。

 マイは畑の周りに巡らされた柵に、紐で結ばれている。冬子とカノはそのマイをウコットの指示通りに運んでは戻し、運んでは戻す。一頭一頭に紐がつけられて浮いているマイは風船みたいなもので、カノでも容易に扱える。

 そうして、言われるがままにマイを運び、ウコットが蒔いた種が早回しで芽吹いて伸びて花を咲かせ、伸びた緑を食べようとするマイを引き離し、枯れていく様子を眺める。そしてまたマイの数を変えたり、蒔く量を変えた種から芽が出て枯れるまで見る。

 一連の流れを条件を変えながら繰り返すことしばし、冬子はふと気がついて声をあげた。

「あれ、なんかこいつしぼんでる?」

 マイを柵に戻しているとき、数多くいるマイのうち、数頭がやけに小さく見える。そう思って見比べてみると、やはり他のマイよりももこもこ具合が少ないものがいる。

「ずっとお仕事してて、つかれちゃったのかな」

 カノはそう言って首をかしげた。それに対してウコットが反応する。

「ずっと仕事してたって、何回くらい?」

 とつぜんの質問にカノは戸惑い、視線で冬子に助けを求めた。潤んだ瞳で見つめられた冬子は、冷や汗をかきながら口を開く。

「えーと、ちょっとわからない、です」

 しどろもどろで答えた冬子の言葉を聞いて、ウコットはしかめ面になる。

「わからないってどういうこと。別に正確な回数を聞いてるわけじゃないんだから、だいたいの数くらいわからないの? そもそも、これだけたくさんいるのになんで一部のやつを何回も連れてきたりするかな」

 かたい口調で聞かれ、冬子は必死に考えるがそれで思い出せるはずもない。そもそも回数を数えておくように、などと言われてはいない。

「だって、数えとけなんか言われてないし。同じやつを連れてくるな、なんて言われてないし……」

 冬子がぼそぼそと反論をしようとすると、ウコットはいらいらとした様子を隠さずにため息をついた。

「畑の条件をいろいろ変えて試してるんだからさ、マイがどんどん疲れていっちゃったら意味ないことくらい、考えてわかんないかなあ。わかんないからこうなっちゃったんだよね。つまり、お前らがなんにも考えてないってことに気がつけなかったぼくが悪いわけだ」

 ぐちぐちと言っているウコットの横で、しぼんだマイがゆっくりと地に落ちていった。

 空気の抜けた風船が落下するように、力なく落ちていくマイ。その体が地面に触れたかと思うと、地に落ちたシャボン玉が割れるように、その姿は音もなく消えていった。

 消えたあとには、丸い形に涸れてひび割れた地面。乾ききって色は白く、見るからに地力を失っている。

 冬子とカノが驚いて見つめるなか、ウコットはその場にしゃがみ込んで地面に手を伸ばす。土をつかみ取り指の腹ですりあわせると、ほろほろと落ちていった。

「どうして……」

 さきほどまでは黒々として適度な湿り気を帯びていた土が、落ちたマイの触れた部分だけ砂漠の砂のようになってしまった。驚いた冬子が思わずつぶやくのにも構わず、ウコットは黙ったまま手元の紙束に何かを書きつけている。そうして口を開かずに真面目な顔をしていれば、仕事のできる人に見えるのに、と冬子は残念に思う。

 その場に沈黙が広がりかけたとき、不意に地面のひび割れがむくりと盛り上がる。

「あ」

 気がついたカノが声をあげた。その視線の先に冬子とウコットが目を向けたときには、土の盛り上がりは数を増やし、あちらこちらへとむくむく線状に伸びていくところであった。

「な、なにこれ」

 見る間に、盛り上がった土の線は畑じゅうに広がっていく。怯えるカノの肩を抱き寄せて戸惑う冬子に、ウコットが叫ぶように言った。

「あの土の下に魔獣がいる。土の力が食われるから、急いで退治しろ!」

 言いながら、彼自身も背中の短弓を取り、矢をつがえている。放つが、土に描かれる線は止まらない。

 舌打ちをする間にも、ウコットは休まず矢を放つ。

「あの、わたし武器を持ってきてない、です……」

 とっさに動けずおろおろと言った冬子に、ウコットはまた舌打ちをしてにらむように目を向けた。びくりと震えたカノがいなければ、冬子は後ずさっていただろう冷たい視線だった。

「お前、どれだけやる気ないの。戦うために呼ばれた召喚獣だろ。手を突っ込んで引きずり出しなよ。それくらいできるでしょ」

 そう言い放つ声にはもはや馬鹿にするような響きすらなく、蔑みしか含まれていない。

 その言葉に、声の調子に冬子の気持ちはしぼんでしまう。逃げ出したい心がまたにじんできたが、すがりついてくるカノの手が冬子をとどまらせた。

 ウコットの言葉は間違っていない。自分は戦うために来た。戦うと決めてきた。ならば、強い言葉に怯んでいる場合ではない。冬子はそう自分を奮い立たせる。

 ぐっとこぶしを握りしめ、冬子は力強く地を蹴り飛び出した。

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