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二十一話

 訓練場やいくつかのテント群、それから畑と野営地にはいくつかの広場があるが、この畑のある広場が一番狭いのは間違いないだろう。

 畑の入り口に立った冬子は、小学校のプールくらいの広さだろうか、と眺めていた。その横では、何とか自力で魔獣から降りようとカノが奮闘している。

 カノの近くにはさりげなくネスクが控えており、万一のときも任せて大丈夫だろう。

 心置きなく畑を眺めてから、冬子は担いだ荷物に目をやった。

 入道雲のようにもこもこと、網いっぱいに詰まったヒツジの魔獣、マイ。何匹いるかは不明だが、畑の広さに対して少ないということはないだろう。

「ていうか、ぜったい多すぎでしょ」

 冬子が思わずこぼしたとき、ウコットが寄ってきた。そして迷惑なことに、ひとり言を拾い上げてくれる。

「多いって言うけど、それって何か根拠があって言ってるの。そもそもどれくらいの広さにどれだけのマイが必要か知ってるの」

 突然聞かれて、冬子は戸惑う。返事に窮している姿を見て、ウコットは笑った。嫌な笑い方だ、と冬子が思っているうちに、笑った顔のままさらに言葉をつむぎだす。

「軽率に言葉を発するのって恥ずかしくない? それとも、自分の常識がみんなの常識だとでも思ってるのかな。それとも、頭の悪さを広く訴えて同情を買おうとしてるとか? どんな意図があるにせよ、ぼくならそんな間抜けなこと言えないな。だって恥ずかしいじゃない」

 あまりにすらすら出てくる嘲りの言葉に、冬子は怒りも覚えずあっけにとられた。

 なぜこの人は初対面でいきなり他人を貶めてくるのだろう、と考えながら黙っていると、隊長がこちらにやってきた。

「やめんか、ウコット。邪魔するなら帰って構わんぞ」

 隊員の暴言を聞きとがめたのだろう。隊長は冬子とウコットの間に立ち、口を挟む。

「というか、知ったような口を叩いとるが、お前だってマイの作用範囲やら必要頭数は知らんじゃろ。いたずらに人を貶めるんはやめんか」

 呆れたような隊長の言葉に、冬子はぽかんと口を開けた。

 人のことを常識知らずのように罵っておきながらその実、自身も知識のないことであったとは驚きである。

 しかし、冬子が驚きを隠さずウコットに視線をやると、たしなめられた当人は堪えた風もなく笑っていた。

「ぼくは嘘は言ってないでしょ。馬鹿にするつもりもなかったけど、どう思うかは本人の主観だからもしそんな風に聞こえたんなら、ごめんね〜」

その口の回りようから冬子より頭の回転が早いことは伺えるが、そんなことはけし飛ぶくらいに性格が悪いようだ、と冬子は認識した。

 これまでの経験で、こういう種類の人間は構うほどにつけあがると冬子は学んでいた。

 こんなときは話の流れを進めてしまうべきだ、と冬子は隊長に話を促す。

「それで、わたしはこの網をどうしたらいいんですか」

 そう言ってマイのひしめく網を揺すれば、隊長が地面を靴の先でこつこつと蹴った。

「ここに放すんじゃが、とりあえずまずは一匹だけ出してくれ」

 冬子が言われたとおりに魔獣を出すと、隊長はその毛をつかんで何も生えていない畑に持っていく。

 ふわんと浮かんだヒツジの魔獣は、群れに帰りたいのか網に寄る。けれど、風に流される程度の移動能力しか持たないため隊長に引っ張られるまま群れから引き離されていく。

「この畑には水で育つ穀物の種が植えてある。本来は畑ごと水に浸さにゃならんが、マイの力で普通の畑の状態から育つならば、大量の水を用意する必要がなくなる。水源が無いところでも栽培できるじゃろう」

 マイを畑に近づけておく間、暇なのだろう。隊長は畑の横にしゃがんだカノとネスクに説明をはじめた。

 いつの間にやら、カノはユウの背中から降りていたようだ。身軽になったニワトリの魔獣は、少し離れたところで地面をつついている。

「……出ませんね」

 ネスクのつぶやく声に目を向ければ、そこにはヒツジを囲んで畑にしゃがむ少年と三人の男たちの姿があった。

 冬子がぼんやりと周囲を眺めている間、彼らは畑を見つめていたのだろう。何とも珍妙な光景である。

「一匹じゃ効果はなし、と。どうするんですか、次は二匹に増やすの? それとも十匹くらいで試して結果を見て、そこから増やしたり減らしたりしていきます? 」

 ウコットが隊長に問う。ここにきて、冬子ははじめて彼の顔に嫌な笑みが乗っていないことに気がついた。真面目な顔ではきはきとしゃべる姿だけを見ると、仕事のできる男のように思えてしまう。

「ふむ、やはり群れねば駄目みたいじゃな。群れの最小単位を探してみるか。しかしそもそも、全てのマイが植物の生育を促す力を持つのかどうか」

 隊長がぶつぶつとつぶやく。

「群れの中で役割がわかれてる可能性もあるんですよね。そこのところを調べた本はないんでしょう? 」

 ウコットが問うと、隊長はうむうむ、と頷いた。

 二人があーてもない、こーでもないと盛り上がる横で、話について行けなくなったのだろう。カノとネスクが黙って立ち上がる。

 早々に聞くつもりを無くした冬子の元へやってきた二人は、網の中の魔獣をつついたりなでたりし始めた。

「こいつを頭にしいて寝たら、良さそうだよな」

 ネスクが言うと、カノが嬉しそうに頷く。

「気持ち良さそう。ぼく、部屋いっぱいにしきつめて飛び込みたいな」

 カノの素晴らしい提案に、冬子とネスクは賛同の声をあげた。もこもこの寝具に思いきり飛び込むのは、異世界の人だとて憧れるものらしい。

 隊長とウコットの話に区切りがつくまで、三人でマイの有効活用法について模索するのだった。

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