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十七話

 昼下がりの自室で、冬子は機嫌よく掃除機をかけていた。

 カノのことが気がかりで、一週間分の家事がおろそかになっていたのだ。自室に戻るなり回した洗濯機が動いている間、掃除をしているところである。

 冬子は鼻歌なんて歌いながら掃除を進めていく。もうカノに会えないかと思い悩んだ分、解放された今は気分の高揚が激しい。

 いつもは軽く掃除機をかけるだけで終わらせるところを気分が良いものだから雑巾までかけてしまった。

 浮かれた気持ちのまま掃除を終え、洗いあがった洗濯物を干す。干しながら、陽のあるうちに戻って来られて良かった、と冬子は思う。

 隊長に土地神やドウソ神の話を聞いた後、カノと二人で再び探検に出ようとしたところで、討伐隊の隊員が帰ったと、イーラが報告に来たのだ。

 魔獣の討伐に行っていた十数人が戻ってきたため、冬子が野営地にいる必要が無くなった。ならば、カノに会って元気な顔も見られたことであるし、今日はさようなら、となったのだ。

 カノは心細げな顔をしていたが、イーラの後から顔を出したネスクに構われ笑ってまたね、と手を振ってくれた。

 ネスクを年の離れた兄のように感じているのだろうか。カノが気を許せる相手ができたようで、冬子としても一安心である。

「さて、ノートノート」

 洗濯物を干し終えた冬子は、カラーボックスから一冊のノートを取り出す。未使用のページを開くと、先ほど聞いたことを書きつけていく。

「えーと、神さまには種類があって、土地神とドウソ神がいる。と」

 土地神と書いた横に木、花や川の姿。と書き、土地神の文字を丸で囲んで矢印で指し、魔獣バリア! と書いておいた。

 ドウソ神の方には、石→人型と記す。そしてドウソ神という文字の上下に線を引き、その線を指す矢印には魔獣が暴れない、と書いた。

 隊長の話では、ドウソ神のいる近辺では魔獣がおとなしいらしい。人に会っても襲い掛からず、ただ通過していくだけなのだという。

 ただしその範囲は狭く、ドウソ神のいる位置からほんの四、五メートルほどらしい。土地神のバリアはあたり一帯に魔獣の侵入を許さないというから、同じ神でありながらずいぶんな違いだ。

「神さまの姿は自然物……八百万? んー、まだよくわかんないから書かないほうがいいか」

 ノートの隅をシャーペンでかつかつと叩きながら、冬子はつぶやいた。

 一通り書いたところで読み直し、これでいいか、と満足げに頷くとノートを放る。

 使い終えたシャーペンを仕舞おうとかばんを覗き込んだ冬子は、目に付いた手帳を何気なく開いてみた。

「げっ」

 開いた先に勉強会の文字を見つけ、思わずうめき声がもれる。

 おしゃれな学部の面々を思い浮かべて、冬子は一気に憂うつな気持ちになるのであった。

 あまり勉強熱心ではない冬子だが、これほどに身の入らぬ勉強会ははじめてだった。

 勉強会は大学図書館にある予約制の小部屋で行われたのだが、集まった男六人のうち四人が女子と話すことを主目的としており、会話の合間に白紙のノートを埋める作業を行っていた。

 ノートを写させてもらう行為自体は、冬子もしていたため何も言えない。講義中、何してたんだよ、と思わなくもないが、その言葉は自分に返ってくるので胸の内にしまっておく。

 喋っているだけならば騒々しいだけで実害はないが、勉強会が始まってしばらくの間、彼らは冬子にも話しかけてきていた。これは非常に迷惑であった。

 視線を向けずに会話できるほどに親しくないため、話しかけられれば顔をあげねばならない。すると当然、手が止まる。それを気にして会話がそぞろになり、ろくな受け答えができず思考が止まる。

 完全な悪循環に陥ったことを悟った冬子は、会話を捨てた。

 話しかけられても顔を上げず、手も止めない。返事はすべて生返事。しばらくそんな対応をしていれば、冬子に話しかけてくる男はいなくなった。

 ときおり、ノートを貸してくれた子が記述内容に補足をしてくれたり、他の女子がわかりづらい点を解説してくれる時以外に冬子が口を開くこともなかった。

 予想していたとおり、勉強会は冬子とおしゃれ系男子たち双方にとって、互いに相容れない者同士であることを明確にして終わったのであった。


 勉強会こそつまらないものであったが、勉強会に参加していたおしゃれ男子のうち、自分でノートをとっていた二人と顔を合わせれば、あいさつをするようになった。

 といっても本当にあいさつのみで会話はなく、冬子から彼らに積極的に話しかけることはない。赤の他人から知人に昇格した程度である。

 一部の男子たちが喋りすぎで勉強に身が入っていなかった点は誘ってくれた女子も認めていたため、冬子の対応の悪さを指摘されることもなく、彼女らとの関係も良好である。

 その他には特筆すべきこともないまま、冬子は土曜日を迎えた。

 珍しく口やかましいパートのおばちゃんが休みの日であったため、気持ちも穏やかに仕事に向かう。

 余計なことに煩わされなかったおかげで、気持ちの上でも作業に関しても余裕のある仕事時間になった。 明日は隊長に何を聞こうか、カノに会ったらどんなことを話そうかなどと考えながら、冬子は帰路に着いたのだった。

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