十五話
風にマントを揺らしながら、冬子とカノは並んで歩いていた。
広場にはぽつぽつとテントが建っている。どれも白い布地で作られており一見まったく同じように見えるが、よく見ると扉代わりに下げられた出入り口の布がそれぞれ違っているのがわかった。
あの布が表札代わりなのだろうか、と冬子は考えながら足を進める。
暇つぶしを求めて歩いているが、ルゴール隊長たちがこの場所にいるのは土地を切り拓くため。テント群はどれも生活のためのもので、冷やかそうにも店などは見当たらない。
また、大部分が出かけていると言っていたとおり、人影は見当たらない。
しかし、ときおりテントの出入り口の布が不自然に揺れることから、無人というわけではないようだ。見慣れない女子どもを警戒しているのか、勇者と召喚獣の話を聞いて様子をうかがっているのか、どちらかだろう。
十中八九、後者だろうなと思いながら、冬子はぶらぶらと歩く。
「まあしかし、暇だねえ」
適当に見つけた小道に分け入りながら冬子は言い、ぐっと伸びをした。
「ぼく、お散歩好きだから楽しいよ」
にこにこと笑いながらカノが言って、道端の花を愛でている。
風に揺れる草原を眺めながらしばらく歩いていくと、道の分かれ目に腰をおろしている人影を見つけた。
こちらに気づいたら行ってしまうだろうか、と冬子は思ったが、二人が近づいても一向に立ち上がる気配はない。気が付いていないわけでもないようなので、不思議に思いながらもその人物の前まで歩いていく。
「こんにちは」
座っている人の前で足を止めて、冬子は挨拶をする。
「こ、こんにちは」
座っていたのが大柄な男だったためか、少し腰が引けた様子でカノも挨拶をした。
二人が声をかけると、空を見ていた男は冬子たちに視線を移してにこりと笑う。
「やあ、いい天気だねえ」
愛想よく返事をしてくれた男の服装がルゴールや他の隊員たちと違うことに気が付いて、冬子はおや、と思う。道端に腰かけているこの男は、マントを羽織っていない。時代劇で見る町民のような裾の短い着物をまとい、腰のあたりを紐でゆるくしばっている。下に履いているのは袴だろうか、胡坐をかいた膝にかかるほどの長さしかない。
「あなたはナバギの人じゃないんですか? 」
冬子が首をかしげて問えば、男は白っぽい髪を揺らしてうなずいた。
「ああ、わたしはドウソだよ」
にこにこ笑って男が言うけれど、質問に対する答えとしてはちぐはぐで、冬子とカノはきょとんとした顔を見合わせるのだった。
「えっと、ドウソって国の人? それともドウソさんて名前? ごめんなさい。わたしたちこの辺りの人間じゃないから、わからなくて」
冬子が謝ると男は驚いたように眉をあげたが、すぐににっこり笑った。
「いやいや、謝る必要はないよ。わたしのほうこそ、悪かったねえ。呼び名を聞かれるのが久しぶりすぎて、答え方を忘れてしまっていたよ」
そう言って、男はゆったりと両手を袖に入れる。
「わたしはドウソと呼ばれる者だよ、よろしくね」
笑顔で告げたドウソだが、冬子は妙な威厳を感じた。いや、威厳というべきか威圧感というべきか、何か身構えてしまう気配であったのだが、ドウソが身じろぎするとそれはすぐに霧散する。
これはよろしくしていい類の人間だろうか、と冬子は一瞬悩んだが、こちらが喋るのをにこにこと待っている姿に、まあいいかと警戒を解く。
「わたしは冬子。こっちはカノ。ここらの人間じゃないけどしばらくいる予定だから、よろしく」
カノの肩に手を置いて、冬子が言った。
名前を呼ばれたカノが軽く頭を下げると、ドウソはうんうんと頷く。そして、袖から腕を抜いてすっと人差し指を立てる。
「きみたちはそのまま進めばいいよ。そのうち目指すところが見えてくるだろう」
そう言ったドウソの指は冬子とカノの正面に続く道をさしていた。
「真っ直ぐ行けばいいのね、ありがとう」
目指すところって何だろう、と思いながらも、冬子は素直に従うことにした。どうせあてもなく散歩をしていただけなのだ。彼が示した道ともう一方の分かれ道との違いは特に無さそうだし、道を決めてくれるならカノと二人で悩む手間も省けるし、そのとおりにしようと冬子は考える。
「行こうか、カノちゃん」
ドウソの指さす道に足を進めながら冬子が言う。
「うん。あの、それじゃあ、さよなら」
カノはドウソにぺこりと頭をさげて続いた。
それに頷いて返し、ドウソはまた袖に手を入れる。
「道に迷ったら、またおいで」
にこにこと笑って見送る男に手を振って進んだ先で、カノが低木を見つけた。
丈の高い草に隠れるようにして生えたその木には、小さな果実がたくさんなっている。ラズベリーに似た黄色い実は、鈴なりといっても良いほどに実っていた。
「ドウソさん、これのこと言ってたのかな」
木の実を指して、カノが言う。
「まあ確かに、小腹がすいてるから目指してた物って言ってもいい、かなあ? 」
冬子は一粒もぎながら首をかしげた。
指先でつまんだ黄色い実は、つやつやと光っていていかにもうまそうだ。ぱくりといきたいところだが、食べられる物かどうか、わからない。
「とりあえず持って帰って、隊長に聞いてみよ」
冬子が言うとカノも頷いて、二人は両手がいっぱいになるまで木の実を摘むのだった。




