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十話

 たたん、たたんと規則正しい足音をさせて走るのは、ニワトリに似たユウという生き物だ。

 ただし似ているのは見た目だけで、大きさはダチョウくらいある。また、鶏冠が複数枚あるという点も、ニワトリとは違う。

 大きくて迫力のある顔とは裏腹に、温厚な性格をしているため人々の移動に用いられるという。

 ユウはその背にカノと隊長を乗せているが、重たげなそぶりは見せない。調子よく走っている状態で、自転車くらいの速度は出ているだろう。

 太く力強い足が三歩で進む距離を冬子は一歩でついて行く。軽く地を蹴れば、ぐんと体が前に進むのだ。走ろうと力を入れてすらいない。

「それで隊長。わたしは何と戦うんです? 」

 片手に巨大な金槌をぶら下げて走りながら、息も乱さず冬子がたずねる。

「ガイが居れば再挑戦すりゃいいし、居なけりゃまた違う魔獣に会うじゃろう。見つけたやつを倒せばいい」

 でかいやつが見つかればな、と言う隊長の前にはカノが乗っている。

 出発前のテントにて、ユウに乗れるかと聞かれたカノは、当然のことだが首を横に振った。実物を見るまでもなく乗れないとわかっていたが、実物を見た後は確実に無理だと冬子も思った。

 せめて馬のような形状ならば乗ることはできたかもしれないが、ダチョウの乗り方を知っている日本人は少ないだろう。

 しかし、ユウはその見た目から想像するよりも乗りやすいようだ、と冬子は思う。隊長と相乗りをしているカノは慣れない乗り物に緊張はしているが、顔色を悪くさせてはいない。

 ただ、走行中に会話をするためには相手の方を向いて声を張り上げねばならないため、会話に加わるほどの余裕はカノには無いようだ。

「違う魔獣ってことは、魔獣って色んなのがいるんですか」

 観察していると、ユウが器用に草木を避けて進むものだから、真似して植物を踏まないルールを作って走りながら冬子がたずねる。

「あー。それも説明せにゃならんのか」

 面倒臭いと顔に書いてある隊長が、手綱から離した右手であごをかきつつ言った。

 落馬から守るように回されていた腕が離れて、カノの顔色が少し青くなる。

「まあ、詳しい話はイーラを捕まえて聞け」

「うわっ」

 不意にユウが速度を落としはじめ、がくりと起きた揺れに驚いたカノが声をあげた。

 冬子は慌てて足にブレーキをかけるも、止まり切れずに数歩進む。進んだ先で宙返りをして、ようやく足を止めることができた。

「わしは実戦のときに教えていってやろう」

 そう言った隊長の視線の先には、草の間から顔を出すネズミの姿があった。

 草むらの中からつぶらな瞳がこちらを見ていた。とがった鼻がひくひくと動くたび、その横に生えたひげが揺れている。

 ちらりとのぞく大きめの耳は、冬子たちが話すのに合わせてぴくりと動く。

「……ネズミ? 」

 その獣は、冬子たちの知るネズミにそっくりであった。違いと言えば、豚くらいの大きさがあることくらいか。見知った姿に思わず警戒心を解く冬子とカノだったが、隊長は油断なく構えている。

「あれはネシと言う魔獣じゃ。なりは小さいが、やっかいなやつでな」

 言いながら、隊長が腰の戦斧に手を伸ばしたそのとき。

 ズンッ。

 地響きと共に大地が揺れた。

「おっと」

「わっ! 」

 構えていなかった冬子はぐらりとバランスを崩し、カノは驚いて声をあげる。

 足の指に力を入れて踏ん張ったユウが見上げた先に視線を向けると、巨大な影。

「ネシのいるところにはこの馬鹿でかい魔獣、チュウが現れるんじゃ」

 隊長の言うとおり、そこには巨大な獣がいた。

 ずんぐりとした黒い体を支える四本の足は太く、丸太のようである。その足が大地から高く伸びる様は、まるで四本の木が生えているかに見えた。

 あまり長くない首につながる頭部もまた、巨大である。面長な顔は額から鼻先までが平たく、鼻の穴以外に目立つ部分はない。顔の側面についた大きな瞳は濡れたように光り、どこを見ているとも知れなかった。

 チュウと呼ばれた魔獣を冬子たちの知る動物に例えるならば、ゾウの体にウシの頭をつけたような見た目をしている。ただ、その大きさは一軒家ほどもある。

「えー、隊長。つかぬことをお伺いしますが、チュウはおとなしい魔獣だったりは……」

 あまりの巨大さに気圧されて、かすかな期待を込めて冬子が問えば、魔獣から視線を外さないままに隊長が答えた。

「せん。暴れん坊の魔獣と言われるくらいじゃ」

 言いながら隊長がちらりと背後のネシに視線をやった瞬間、チュウの口がかぱりと開いた。

「こいつの舌は伸びるからな! くるぞっ」

 隊長が叫ぶのと同時に、鋭い鞭のようなものが大地を薙いだ。

 とっさに飛び退った冬子の足元を舐めるように、長い舌がぬらりと眼前を通過していく。

「こいつは図体の割に素早い攻撃をしてくるからな、絡めとられんように気をつけろ」

 ユウの逃げるのに任せたのだろう。手綱を放して戦斧を構えた隊長がそう言った。

「ちなみに、絡めとられた場合は? 」

 再び振り下ろされた舌を避けながら、冬子が問う。

「食われて、溶ける! 」

「わあーお……」

 隊長の返答に頬を引きつらせる冬子の目の前で、舌をしまったチュウがむちゃむちゃと歯をすり合わせるのが見えた。

 振り下ろされる巨大な魔獣の足の動きは、決して速くない。

 しかし、流れるように素早く襲い来る魔獣の舌に気を取られていると、不規則に落ちてくる足への注意がおろそかになる。

 ズンッ。

「うわっと、危なっ! 」

 チュウの巨大な足をすれすれで避け、冬子は槌を振りかぶる。

 狙うは目の前の太い足。冬子が両手を広げたよりも幅のある足に向けて、渾身の力で槌を打ち込んだ。

 コォーン!

 およそ生物を打ったとは思えない高い音が響く。

「見た目だけじゃなくて、中身も木みたいな音がするな」

 振り下ろされた舌をかわしつつ、冬子はぼそりと呟いた。飛んで跳ねて移動を繰り返しつつ攻撃を加えた箇所に目を向けるが、傷の一つも見当たらない。

 攻撃をした後の数瞬、チュウの足の動きが止まるだけであった。

 ならば頭を狙うか、と冬子は何度か飛び上がったのだが、足より上に到達する前に舌に襲われて攻撃に移れない。無理に攻撃をしようとすると、舌に絡めとられかけてしまう。

 焦れてきた冬子は、距離をとってチュウを警戒している隊長に声をかけた。

「ちょっとー、隊長! こいつ、めちゃめちゃかたいんですけど! 」

 絶えず移動を繰り返している冬子に合わせ、安全な場所を探してはユウで移動をしながら隊長が答える。

「お前さんの馬鹿力でも無理か。なら、ネシを探せ! あの魔獣がいなくなれば、チュウも去る」

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