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――どこともしれぬ場所
「ン……」
気がついた時、俺は地面に寝転がっていた。
まだぼんやりとした頭で、視線を巡らす。
視界に入るのは、イネ科っぽい草。
どうやら草の上に寝転んでいる様で、むき出しの顔や腕ににチクチクとした感触がある。
そして今いる場所は、どうやらちょっとした草むらの中らしい。
どうしてこんな所に? 一体何があったんだっけか?
記憶が混乱している。
思い出せ。そう……確か、帰宅途中に……いや違うな。
いや、もっと大事なことを忘れてしまっている気がする。
それは、えっと、確か……そう、確か誰かが俺の部屋に現れ……
それは……ああ、そうだ!
「エルリア!」
意識が明瞭になり、慌てて飛び起きる。
そうだ! 彼女とともに学校の裏山から転移しようとした時に造物主の邪魔が入り、宇宙の“外”へと放り出されたんだった。
その後、バルドスの襲撃を受けた際に強引に“転移”を行い、そして……
って事は、まっとうな“転移”が行われなかった事になる。
俺は慌てて周囲を見回した。
「エルリア! どこだ!」
しかし、返事はない。
やはり、別々の場所に飛ばされてしまったのか?
いや、それとも……彼女だけ向こうに取り残されてしまったのか? 考えたくはないが……
「それにしても、ここは……」
彼女が心配だが、まずは現状確認だ。
再び周囲を見回す。
ここから見る限り、前世、今世とも覚えのない場所だ。
とはいえ、どちらかの世界の、いずこかという可能性はある。
が……これはどういうことだ?
上空には、青く光る、半円形の“何か”が浮かんでいるのが見えた。
半月――というには少々欠けているが――の様にも見えるが……あまりにも大きい。
そしてその色。
青の中に、白い筋状の何かが見えた。そして、緑や茶色いものも。
おそらく青は海、白は雲。そして、緑と茶は陸地だろう。
地球か? とも思ったが、陸地の配置に見覚えがない。とはいえ見える範囲でではあるが。
それに、身体が軽い。
比喩的表現ではなく、物理的に、だ。
つまりここは地球より重力が小さいという訳だ。
それに、地平線の位置が随分低いな。
という事は、地球よりも小さな球状の大地の上にいる、と。
まさか……ここは、見知らぬ惑星――いや、衛星というべきか――の上という事か。
何て事だ。
見知らぬ星に放り出された挙句、エルリアとも離れ離れ……
彼女と再会し、浮かれすぎて周囲の警戒を怠ったツケか。
空気のある場所に転移できただけ運が良かったとも言えるが……
いや、俺はまだいい。
エルリアはどうなったんだ? 彼女に万一の事があれば、俺は……
いや……落ち込んでる場合じゃないな。
彼女の気配を“探る”か。
安全そうな場所は……あった。
近くに一本の木がある。
どことなく見覚えのある様な木だな。地球やアストランのものともあまり変わりはない様だ。
……もしかして。少し希望はでてきたか?
いや、それは後。まずはエルリアの件だ。
俺はその木陰に座る。そして半眼になり、精神を集中した。
頭の中がクリアになり、己の中にあるエルリアとの“縁”の糸口を探る。
あった……これだ!
そして、それに意識を集中する。
…………どうだ?
感じない。
やはり、彼女は……
いや待て! 弱気になってどうする?
そうだ。このお守りだ。
ばあちゃんからもらった、この五円玉のお守り。造物主に一撃をくれたこいつを回収し、またスマホにくっつけている。
これに、エルリアにもらった髪を結んであるのだ。
こいつを触媒にすれば……
だが、ここはどんな場所かも分からんし、効果を発揮できるか定かでは無い。だが、地球に比べ、周囲に散在する魔力は豊富な様だ。やって見る価値は、ある。
結印。そして……
「よし……“探索”!」
ふむ。“呪文”は発動した。
それが、この世界もやはりあの“造物主”が創ったモノだからか、それとも俺や彼女の“運命の糸”が反応しただけなのか?
まぁ、その検証は後だ。
それよりも……
「……来た!」
エルリアの気配。
やはり彼女もこっちに移転して来ていたのか!
離れ離れになっているとはいえ、同じ世界にいる訳だ。
しかし……
彼女の“気”はかすかに感じる。だが、何か変だ。造物主に憑依されていた時の様に、何かぼんやりとした感じなのだ。
だが、彼女が生きているのは確かだ。
わずかだが、希望が湧いて来た。
まずはエルリアを探さねば。彼女の気配がした方は……
と、地面に巨大な影が落ちた。
“影の鳥”? にしても、スピードが遅いな。
いや……頭上に気配がある。
見上げた先。
そこには飛行船の様な“何か”が悠然と空に浮かんでいた。
「! あれは……」
鳥、じゃないよな。
空に浮かぶ巨大な姿。
紡錘形の白い体躯。左右に突き出た翼状の突起。そして尾部と思しき部分にもまた翼状突起があった。
“それ”は翼をゆっくりと上下に動かし、悠然と空を“泳いで”いた。
何だ? 空飛ぶクジラ? それともジンベイザメか?
にしても、いくら重力が弱いからといって、あんな巨大なモノが空を飛ぶなんて……。
魔法的な“力”は感じないしな。
いや、もしかしたら、軽いガスを身体にため込んで気球みたいに浮かんでいるのか?
……どのみち地球に由来する生物じゃないな。アストラン大陸でも、あんな生物は見たことも聞いたこともない。
ってコトは、やはり異星?
ふ〜む。あの木からして、造物主の造った世界の可能性が高いと踏んだんだがな。もしかしたら異星人(?)とコンタクトする可能性もあるって事か?
……まぁ、なる様になるさ。
そしてその生物は、俺に構う事なく悠然と飛び去って行った。
それを見送ると、俺は再び気を引き締めた。
さて、エルリアを探すか。
“転移”を使いたいところだが、生憎アストラン大陸ではないので無理だ。多分行った事のある場所しか使えないだろう。
仕方ない。徒歩で行くか。
俺は彼女の気配がする方へと歩き出した。




