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俺の異世界一週間戦記 召喚勇者は期間限定  作者: 神井千曲
8-俺の異世界蛇足戦記 召喚勇者は期間延長
96/114

7

――しばし後

 俺達は広い通りに差し掛かった。

 ここだけは、どうしても超えねばならないんだよな。

 が、これさえ越えれば目的地はすぐだ。

 と、歩道を歩く俺達を追い抜いた車が減速し、すぐ目の前に停まった。

 そして、その運転席のドアが開く。


「ひっ⁉︎」


 怯えたエルリアが俺にすがりついた。


「ちょ……ちょっと……大丈夫だって」


 彼女をなだめつつ、降りてきた人物を見る。


「やあ、彰人じゃないか」


 二十代後半。中背で、細身の男。そして、見知った顔だ。


「瀬川さん⁉︎」


 見ると、奥さんや子供達も車に乗っている。


「おはようございます。どこかにお出かけですか?」


 俺は一礼し、彼らに近づいた。

 エルリアは、俺の腕にすがりついたままついてくる。


「ああ、ちょっとドライブをね。久々の家族サービスってヤツさ。……ところで、そちらが噂の彼女かい?」

「え゛⁉︎ ……な、何故それを」


 幾ら何でも情報が回るのが早すぎるだろ!


「ああ、これさ。出際にチェックしたらあったんだ。ここで見かけたのは偶然だけどね」


 彼はスマホの画面を俺に見せた。SNSアプリのグループ画面だ。


「……なるほど」


 がっつり俺の情報が載ってやがる。発信源は、高柳と加倉さんか。

 アカウントは持ってるけどほとんど起動してなかったから、その存在を忘れてたよ……

 つか、俺のことなんか別にどうでも良さそうなのにな〜。


「にしても、隅に置けないな。どこで知り合ったんだ? そんな可愛い子と」

「えっと……」


 どう説明したものか。異世界で、などと言う訳にもいかないし……


「もしかして、行方不明になった時に知り合ってたとか?」

「い、いや……」


 図星だ。が、冗談だと思いたいが……


「ま、詳しい話は後でいいさ。随分と“仲がいい”みたいだしな」

「そ、その……」


 と、彼が手招きした。


「な、何スか?」

「それはそうと……“する”時は計画的にな。実を言うとこの間、同僚がやっちまって……色々大変だったらしいからな」


 と、彼は俺の耳元に口を寄せ、ささやく。


「だ……大丈夫です」


 大丈夫だよな? こっちの世界に戻る日やその前日も、そして昨日も彼女は『大丈夫』と言っていたけど……

 いや待て。あれはどういう意味の『大丈夫』だったんだ? 今思えば、多分アノ周期とはあってないよなぁ……


「……た、多分」

「……ま、もしもの時は相談にのるよ」


 瀬川さんは硬直した俺を見、苦笑した。

 そしてポンと肩を叩き、車へと戻る。


「じゃあ、また」

「はい。瀬川さんもお気をつけて」

「ああ」


 そして彼の車は去って行った。


「あの……今の方は?」

「ああ、俺が世話になってる人だよ。親父の知り合いなんだ」

「そうなんですか……。私も、挨拶せねばなりませんでしたね。そ、その……妻として」

「ま、いずれね。今回は仕方ないさ。まだこっちの世界に慣れてないんだしさ」

「ありがとうございます。また、次の機会には……」

「そ、それよりさ、その……昨日とか、“する”時に『大丈夫』って言ってたじゃないか。アレ、どういう意味?」

「ええ。姫巫女にとって、勇者の血を残すのは、一つの義務ですから……」

「おぉう……」


 真逆の意味か。


「あの……お嫌でした?」


 悲しげな顔の彼女。


「いや、とんでもない! 俺としても、いずれは……と思ってるよ」


 慌てて否定。


「たださ……今の俺って、こっちじゃ学生の身分だからね」

「大丈夫ですよ。私一人でも、立派に育ててみせます。アキトの大事な血ですしね」

「そ、そうか……」


 とはいえ、彼女一人に任せるのもな……

 ああ、あっちには親父や母さんもいるか。

 でも、やっぱり自分の手で、とは思うんだがな……。



 そこからさらに歩くと、学校の裏山だ。

 申し訳程度の舗装がされた細い道を、俺たち二人は進んで行く。


「何か声が聞こえますね」


 十数人の男の声。これはランニング中の運動部の連中だな。

 顔見知りもいるだろうから、できれば接触は避けたい。


「ああ、学校の連中だよ。……少し急ごう。“転移”に巻き込む訳にはいかないし」

「そうですね」


 少し小走りで先を急ぐ。

 と、小道の向こうに小さな祠が見えた。


「何か……あそこから“力”を感じますね」


 と、エルリア。

 なるほど。この祠はまだ“生きて”いる訳だ。

 そういえば……おっと。部活の連中の声が近づいて来たな。


「とりあえず、こっちだ」


 俺は彼女の手を引き、歩き出す。

 そこからは道を外れ、藪の中へ。

 あらかじめ虫除けスプレーをしてあるので、ヤブ蚊対策はバッチリだ。

 ヘンな病気とかを向こうに持ち込む訳にはいかないしな。



 そしてしばし進むと、わずかに開けた場所に出た。

 俺が先生の転移に巻き込まれた場所だ。


「ここだよ」

「ここは……かすかにアゼリア様の気配を感じますね」


 エルリアは周囲を見回し、つぶやく。

 何度もここで先生が“転移”をしているために、その“力”の残滓がここに漂っているんだろう。

 その残滓のおかげで、俺でも向こうに“転移”することができる訳だ。

 それに、今はエルリアもいるしな。


「じゃあ、行こうか」

「ええ」


 二人で結印を行う。

 そして、


「“転移”!」


 俺達の周囲を淡い光の膜がおおう。そしてそこに開く“門”。

 酩酊感にも似た感覚が俺を襲い、周囲の景色が歪んだ。

 しかし、


「!」


 何か……妙だ。これは、通常の“転移”じゃない!

 一体何が起きた⁉︎

 “転移”の呪文は、二点間の空間を歪め、“道”――転移門――を作るものだ。

 もし、転移門をくぐる瞬間、何者かが干渉を行い、門に誤作動を起こさせたら……。

 ! これは……

 俺達を包む魔力の膜に、何やら妙な気配の残滓がわずかにまとわりついている。

 これには覚えがある、気がする。

 ……そうだ。思い出した。

 確か……エヴノの息子アイディン。そうか! 造物主め、アイディンの体を乗っ取っ取ったまま地球に逃れていたのか!

 迂闊だった。その可能性を考えていなかった……。


「アキト……怖い」

「大丈夫だ! 俺から離れるな!」


 そう声をかけ、彼女を強く抱きしめる。

 無論、根拠などない。だが、それでも彼女を守らねば。

 しかし……マズいな。このプレッシャー。

 意識……いし、き、が……

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