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窓の鍵や電気のスイッチ、水道や火元を確認した所でチャイムが鳴った。
「あの……アキト、一体何が⁉︎」
「大丈夫だよ。奥にいて。誰か来たみたいだからさ」
怯えてすがりつく彼女をなだめると、玄関に向かう。
う〜む、タイミングが悪いな。
とはいえおそらくこの寮の人間だから、無下にするわけにはいかん。
誰だろう?ドアのスコープを覗くが、頭しか見えんな。
仕方ない。
「はい、どなた?」
扉を開き……
「ど〜も、新聞部で〜っス! 噂の彼女にインタ……ふげっ⁉︎」
そうくるか。
待ち構えてた女に、無言でアイアンクロー。
彼女は俺の学校の新聞部の桧山。地獄耳で知られるヤツである。
どういう訳かエルリアの件を嗅ぎつけ、凸してきたんだろう。
が、俺はこういう不躾な事は大嫌いだ。
俺の両親が飛行機事故で行方不明になった時、テレビ局のレポーターに追い回されたのはいまだにトラウマだからな。
ちなみにその時、俺からレポーターを引き離してくれたのが、友人の高柳の親父さんだった。そういう意味では高柳にも義理があるな。
「断る。以上だ」
言い捨て、部屋に戻ろうと……
おっと、扉の隙間から、エルリアが心細げにこちらを見ていた。
一方の檜山は半泣きで隣の部屋に駆け込む。
ああ、そういえばアレは高柳の彼女か……。そっから情報が行ったのかな?
にしても……アイツの趣味はよく分からん。
と、閉じられた隣室の扉の向こうからは高柳のバカ笑いと檜山の怒声が聞こえてきた。彼女が足掻いたせいで髪とかがぐしゃぐしゃになってたからかもしれん。
その結果、ケンカになったようだが……まぁ、非礼の代償だ。……多分。
一つ肩をすくめ、部屋に戻った。
「ごめんよ。怖がらせて」
「あ……あのっ、アキト! 私は大丈夫ですから。そんなにあの人を怒らないであげてください」
「……分かっているよ」
俺自身、そこまで怒っちゃいない。つか、半分演技だしな。
次に同じことをやらないでくれればいいだけの話だ。
それよりも、だ。
「そろそろ行こう。先生を待たすわけにはいかないし」
「そうですね」
俺達は玄関を閉め、部屋を後にした。
部屋を出た俺たちは、極力他の住民と出会わないよう小走りで階段を下りて玄関へと向かう。この社員寮にはエレベーターもあるが、そこで他の住民と乗り合わせたら気まずいし、何よりエルリアがそういうモノに慣れてない。
それでも途中、何人かの住民とすれ違った。
「チワゲンカしてたお兄ちゃんだ!」
などという子供もいたが、無視。
……というか、なんであんな子供までさっきのこと知ってるんだよ! つか、俺じゃねぇ!
と、とにかく、だ。急がねば。
――街中
玄関を出ると、俺たちは大通りを避けて歩く。
エルリアが道を行く自動車などに慣れていないためだ。
「て……鉄の塊があんなに速く走るのですね」
時折行き交う車を見、彼女は怯えたように俺の腕を掴む。
「向こうでも転移して来た物を見たことはあるのですが、これほどまで速く走るものとは思いませんでした」
どうやら俺がこちらに戻った直後、俺と入れ替わりに向こうへ転移してしまった人がいるらしい。その人と同時に1Boxカーらしきモノも向こうに転移しており、エルリアもそれを見た事があるそうな。だが、ここまで速く走る代物とは思ってもなかったのだろう。
まっ、格好が格好だしね。
……つか、飛ばしすぎなのも事実だがな。特にあの黒いフルスモークの1Boxとか。
「大丈夫だよ。あれらはちゃんとした資格を持った人間が乗って、きちんとコントロールしてるんだ。ああやってね」
通りがかったバイクを指差し、彼女に示す。
「そう……なのですか? じゃあ、アキトも……」
「いや、今は無理だよ。免許証っていう許可証取らないと乗っちゃいけないし……それにああいうの、結構高いんだ」
「そうなのですか……」
少し残念そうだ。もしかしたら、乗ってみたかったのかもしれん。
一応原付の免許は持っているが、二人乗り出来んしな……。時間と金があったら、中免でも取るか? が……どのみち受験の後だな。バイトして二種原付かそれ以上のバイクを買わにゃいかんし。
「それにしても……随分立派な街ですね。建物も高くて大きいし、道も広い。それに、どこまでも街が続いている様……」
「そりゃ、この世界で有数の巨大都市だしね」
「そうなのですか……。でも、何というか……少し息苦しく感じます」
「そうかもね……」
今はだいぶマシになってきたとはいえ、排気ガスなんかで空域は汚れているだろうしな。それに何よりここは、“精霊”の力をほとんど感じない。
姫巫女である彼女にとって、そう感じるのは無理ではなかろう。
しばし歩いたところで彼女が足を止め、とある建物を指差す。
「あの……あそこが、この国の王城ですか?」
「いや……」
皇居も国会議事堂も、ここから少しばか、し……って、
「お……おう」
彼女の指差す先にあった建築物。
それは、西洋の城を模した様なシロモノであった。
それなりに大きく立派な姿ではあるんだが……
「いや……あれは、違う。その……何というか……」
「?」
「その、連れ込み宿みたいなモノさ」
「えっ⁉︎」
その言葉に、顔を真っ赤にする彼女。
「ま……まさか、アキトは入った事あるのですか?」
「な……無いって!」
まさかのヤブヘビである。
「本当、ですか?」
「そりゃ、勿論さ」
思わず冷や汗。
残念ながら、な。そういう機会は無いわけじゃなかったが……。
「そうですか……」
少しホッとした様な彼女。
うむ……一度エルリアと行って見るのもいいかもしれん。
まぁ、いずれの話だな。
ともあれ疑念が晴れて良かった。
……ン?
何やら彼女の視線が道ゆく人に……
「あの……さっきから気になっていたんですが、もしかしてああいう格好の人は、その……そういう仕事の人ですか?」
「え? いや、その……」
次に彼女が目を向けたのは、向こうからやってきた女の人。
ノースリーブにミニスカートという格好である。
向こうでそういう露出度の高い格好をするのは、まぁ、いわゆる風俗系の人たちだ。
とはいえ真昼間から市街地歩き回るわけではないがな。
「いや、違うよ。こっちじゃああいう格好をしても問題ないんだ。向こうとは文化が違うからね」
「そう……なんですか? ちょっと、信じられないです……」
まぁ、あっちじゃおカタい仕事しかしてない彼女だ。そう思うのも不思議じゃない。
いずれはゆっくりとこの世界を案内して回りたいがな……。




