5
――翌朝
カーテンの隙間から差し込む柔らかな光が、優しく俺の頬を撫でる。
……もう、朝か。良く寝たな。
そういえば、いい夢を見たっけ。エルリアとまた会えるっていう……。
ああ、今日は何か良い事がありそうな気がする。起きるか。
「ん〜」
俺は一つ伸びをし……
「アキト様、おはようございます」
隣からの声。
え? 誰かが隣に⁉︎
振り向いた視線の先。
エルズミスに残して来たはずのエルリアが、隣で少し恥ずかしそうに俺を見ていた。
あ……あれ? 一体、何が⁉︎
いや待て。ああ、そういえば昨晩は……そんなことがあったな。
「や、やあ、おはよう」
こっちも少し気恥ずかしい。
戻って来る前にもこういうコトはあったが……いざ自分の部屋で、となるとね。
いや、それよりも。
身を起こすと彼女を軽く抱きしめ、その感触を確かめる。
「あ、アキト様⁉︎」
「ハハ……ごめんよ。良かった。やはり、夢じゃないんだな」
朝目覚めた時、彼女の姿がかき消えているんじゃないかという恐れは、昨晩わずかにあった。
「大丈夫ですよ、アキト様。私はここにいます。アキト様のお側に。私こそ、夢を見ている様です。アキト様と今生でまた会えるなんて……」
彼女の腕が、背中に回る。
「俺もだよ。あの選択が正しかったのか、ずっと悩んでいたんだ。また向こうに行けると知った時は、天にも上る気持ちだったさ」
「はい。私も……」
俺は、またこのまま彼女を……
おっと、いかん。今日はやらなきゃならない事があるんだしな。続きは後でいい。
そう己に言い聞かせ、俺は彼女から離れた。
――台所
さて、朝食の準備だ。
ご飯は一食ぶん残ってる。
パンに卵、ベーコンにレタス、トマト。
よしよし、いける。
この寮の一階に喫茶店が入ってるからモーニングをそこで食べるという手もあるが、エルリアがまだこの世界に慣れてないしな。それに、店員も客も顔見知りが多いんで、彼女の素性を聞かれるのもちょっと。
そして、朝食ができた。
作り慣れたベーコンエッグ。それをちゃぶ台に並べた。
さて、主食だが……彼女には、トーストした食パンを。俺の方にはご飯を置いた。そして、納豆も。
一パックだけ残ってたヤツだ。賞味期限的にも、今日食べておかないと。
まぁ、流石にこれは彼女に出せん。俺の転生前の味覚的にもアウトっぽいだろう。今は好物の一つだが。
そして、エルリアもやってくる。
彼女は下着の上に、寝間着代わりの俺のTシャツを着ている。
何か……かなり恥ずかしそうにしているな。まぁ、仕方がないんだが。
彼女の持って来た小さなカバンの中には、先生がもたせたという着替えがあったが……スケスケの下着やネグリジェが入っていたというね。
ネグリジェはともかく、下着は替えがなかったんで……。階下のコンビニにも女物の下着は置いてあったけどさ。顔見知りのいる場所でそういうモノを買うってのも……ねぇ?
ともあれ、一度先生を問い詰めたほうが良さそうだな。
「さて、いただきます。……どうした?」
「あの、アキト様……それは何です?」
彼女の指差す先にあるモノ。
それは……納豆。
「あ……これはその、この国で食べられてる発酵した豆だよ」
「そう……なのですか? ちょっと食べてみたいです」
「そ……そうか」
とはいえどうしたものか。興味津々といった顔の彼女に駄目だと言うのもな……。
まぁ、とりあえず。
「ちょっと癖があるからね。まずは、少しだけ」
二粒ほど箸でつまみ、彼女の皿の片隅に置いてやる。
「少し臭いますね」
嫌な予感がしたのか、少し眉をしかめるエルリア。
「では……」
彼女はそれをスプーンですくい、恐る恐る口に運んだ。
そして……
「〜〜〜」
口を押さえ、涙目になる彼女。
あ〜、やっぱり駄目だったか。
テッシュをとり、彼女に渡す。
「これに出して。気にしなくていいからさ」
「だ……大丈夫、です……」
何とか飲み込んだようだ。
無理しなくてもいいのに。
俺はポットの茶をコップに注ぎ、彼女に差し出した。
「ありがとうございます……」
「まぁ、どの世界にもこういう食べ物はあるからさ……」
「アキト様は、いつもそれを食べているのですか?」
「大体二日に一回くらいかな?」
「そう、ですか……」
ちょっと引かれた。
「私も……食べられる様にならないといけませんね」
「いや……そこまでしなくてもいいよ。それより、早く朝食を食べよう」
「はい」
そうして、二人で朝食を食べた。
う〜ん、何と言うか……新鮮な気分だ。こっちに来てから、誰かと一緒に朝食食べたことなんてほとんどないからな〜。
――食後
食器を片付けると、向こうに持って行くための荷物のチェックを行う。
幸いエルリアがいるので、今回諦めるつもりだった分も幾らかは持っていけそうだ。
「……よし。これで大丈夫だな」
俺が担ぐリュックと、彼女用のショルダーバッグ。
無論、ショルダーバッグに入れたのは、軽いモノばかりだ。あと、彼女の着替えだな。
「じゃあ、ちょっとこれをお願いできるかな?」
「はい、分かりました。アキト様」
ショルダーバッグを大事そうに受け取り、彼女はうなづいた。
「ああ、そうだ。その『様』っていうのを止めてくれない? あっちじゃ、その……式を挙げた訳だし、こっちでは身分なんて関係ないからさ」
「そ……そうですね」
彼女は頰を赤らめ、俺を見る。
「そ、それでは……改めてよろしくお願いしますね、アキト」
「あ……ああ」
何か気恥ずかしな。
……おっと、浮かれてる場合じゃない。
そろそろ出発の時間だ。




