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――教室
一日の授業が終わり、終礼のチャイムが鳴る。
クラスメート達はめいめいに雑談に興じ、あるいは部活へと向かって行った。
そんな喧騒の中、俺は帰り支度をしていた。
「よう、彰人。何やら急いでるみたいだが、何か用事でもあるんか?」
隣の席のクラスメート、高柳から声がかかる。
……鋭いヤツめ。いや、流石にバレるか。
「ん? ああ、ちょっとね」
「ふ〜む……そうか。女だな?」
適当に答えた俺を見、ニヤリと笑いやがる。
それを聞き、何人かの友人達も冷やかす様に笑った。
「……オイオイ」
一方の俺は、一瞬の動揺をおくびにも出さず、苦笑で誤魔化す。
……誤魔化しきれたかは分からんがな。
「い、いや用事でな。明日、親戚のところに出かけないといけないからさ」
「……そっか」
「それじゃ、お先に」
……微妙に動揺が声に出た気がする。
そうして俺は、教室を後にした。
――あれから二週間
異世界――アストラン大陸――からの帰還後、俺は一週間ほど入院を余儀なくされた。
まずは一週間行方不明であったために、その健康チェックのための検査入院だ。
そこで俺の身体中の傷跡が見つかってひと騒ぎ。
戦いで負った傷は期間前に治癒魔法を受けて完治はしているものの、やはり異界人の肉体であった故にか、完全には傷跡を消し切ることはできなかった様だ。未だ白い傷跡が多数残ってしまっている。
虐待あるいはイジメかとも騒がれたが、既に俺の両親は既に他界したことになっている――いや、実際異世界にいるから“他界”であってるのか? それに、今までイジメにあったこともなかったので、この件はいつの間にかウヤムヤになった。
そしてその騒ぎが収まらぬうちに、今度は身体中の痛みに襲われた。
俺の全身の筋肉、そして関節が悲鳴をあげたのだ。
その原因は、やはり異世界での戦いだ。今世の虚弱な肉体でイルムザールの技を使い続けた反動だろう。向こうでは、豊富な魔力が大気中からでも供給されていたために、肉体の回復力が高められていた。しかし、最後の戦いでの肉体の消耗が回復しきらぬ内にこちらに帰ってきてしまったので、このザマである。
ちなみに血液検査では、ALDやらCKとかいう、筋肉が損傷した時に出る酵素の数値がやたらと高かったそうな。
それで精密検査やら何やらで入院が長引いてしまった。
まぁ、その精密検査では異常が見つからなかったため、医者は首を傾げていたが。
入院中、見舞い兼口裏合わせに来た咲川先生が、“治癒”呪文をかけてくれた為、身体の損傷が早期に回復していたのも大きいだろう。
そんなこんなで無事退院して、今はまた学校に通っている。
とりあえず、発端となったスマホゲーム、『アストラン大陸戦記』はしばらくの間封印だ。
まぁ実際に向こうへ行っちまったんで、そこまで夢中になる事はなくなったのも事実だけどさ……
とりあえず、一学期末のテストで成績を挽回するまでは止めとこう……。
それはそうと、俺が失踪した事については、数日後に地元の新聞やテレビで一度報道されたらしい。
ネットでも色々情報が飛び交っていたが、ほぼ同時期に火山の噴火やらネットでの個人情報の流出やらがあり、すぐに風化した。
そのため、結局俺が戻ってきた頃にはほぼ忘れ去られ、ほとんど報道されずに済んだ。
まぁ一番の要因は、俺の帰還と前後して、たまたま学校の側の池――桐花池という――で、暴力団員が内輪モメ起こしていたから、というのもある。やらかした組員(?)をリンチしようとしたが、返り討ちにあった挙句に逃げられたとか。
なんでも芸能関係で隠然たる力を持っている組らしく、その件についてテレビ局が報道を自粛したらしい。まぁ、俺の件にも触れなかったのは、万一の事を考えてか。
俺の失踪と何か関係があると思われてるのかねぇ?
退院してから数日、見知らぬ人が数人、学校や寮の周りをうろついていたが、警察に通報されたりしてすぐに見なくなった。あとは、咲川先生が“何か”したっぽいな。
何にせよ、面倒なコトにならなくてよかった。
両親が事故で行方不明になった時、テレビ局のレポーターにしつこく追い回されたんだよな。『両親が行方不明になって、今どんな気持ち?』とか……。アレはいまだにトラウマだ。
そういえば……ああいう連中に乗じて、この寮に下着泥棒まで出たとかいう話もある。
う〜む。申し訳ないというか何というか……
寮の人たちは「気にするな」とは言ってくれてるけどさ。
まぁ、とりあえず急いで帰ろう。明日の準備もあるしね。




