7-EX 2
――しばしのち
白い光が弾け、周囲の景色が一変する。
円形の、白い部屋。幾つも並ぶモニターと、コントロールパネル。
私がたどり着いたのは、この“船”のコントロールルーム。
そう。この“世界”とは、創られた環境。つまり、播種船の中に作られた環境なのだ。
かつて私は次元の狭間に世界を形成したのだが、もはやそれを行うことが出来る“力”は残されていない。だから私は、この“船”の中に“世界”を創った。
そして……おそらくこの様に世界を作ることが出来るのは、後一回。
私は、ただそれだけのために邁進してきた。私の……いや、“私たち”の悲願。
完全なる世界の創造。
後少し。後少しでそれが出来る。
……出来る、はずだ。
だからこそ……
だからこそ、私はここで倒れるわけにはいかないのだ。“あの時”、倒れていった仲間のためにも……。
…………。
それよりも、だ。
周囲を見回す。
ふむ。幸か不幸かアゼリアはいない。
私が彼女の中に仕込んだ“因子”。それが現時点で有効か否か確認できてはいない。
それが有効であれば再支配するだけ。もし無効となっていれば、現状の私であれば否応なく……
……いや、よそう。
ふむ……そうだな。今現在の状況はどうなっているのか?
状況を確認すべくコンソールを操作し……。
「バカ、な……」
ロックされている、だと⁉︎ アゼリアめ、やはり私を完全に排除するつもりか!
だが、何故だ? ヤツの持つ“鍵”だけではこんな真似は出来ないはず。
……まさか。
もう一つの“鍵”も持っているとでもいうのか? しかしそれは、アルジェダートとともに失われた……ハ・ズ。
「……!」
……まさか、ヤツが生きていたというのか⁉︎ いや……あるいは転生か!
“鍵”をもったまま異世界に転生し、アゼリアと接触したということか!
迂闊ッ……。
だが、非常用の“鍵”ならまだ我が手にある。
とはいえ機能は限定的だがな……。
…………。
よし。
これを使って私の権限を……チッ、無理か。
ならば、アゼリアに接触した上で再び“服従”させねばならん。上手くいけば、“因子”を足掛かりにして再支配が可能になるかもしれないからな。一応、そのための手段は幾つか仕掛けてある。
さて……そのアゼリアはどこにいるか、だ。
コンソールを操作し、カメラ画像を呼び出す。
……おそらくは、勇者たちの所か。勇者を助けるためにすがるのはヤツだろうしな。
おっ、きたか。
……と、
「……⁉︎」
映し出されたのは姫巫女と勇者の映像。抱き合って喜んでいるようだ。どうやら一命を取り止めたらしい。
……バカなッ⁉︎ そんなことがあり得るのか? この短剣の“力”は完全に発揮され、運命の糸を断ち切ったはず。なのに、何故だ?
その時点での映像を再生し……。
……。
…………。
……ああっ! バカなッ!
あの短剣は、ヤツの心臓を貫く前に魔導石に当たっていたのか。そして短剣の“力”はそこに宿っていた実験体――たしかエヴノといったか?――に受け止められてしまったのか。
なんという不運。しかし、このままで終わる訳にはいかん。何としてでも今回の計画は……
……それならば、だ。
脳裏で計画を練る。
が、
「……!」
近付いてくる気配が幾つか。
何者だ? 勇者どもはあそこから動いてはいない。
だとすれば、一体何者が……
この部屋につながる廊下のカメラを呼び出した。
と、そこに映し出されたのは……
「まさか……。この連中か!」
それは、ローベルトを除く先代勇者一行。
勇者ヴァルスラーナ。戦士アレオス。魔導師ヴァレンティーナ。それに加えて聖女エレーネ。
今まで行方知れずであった勇者と聖女までもが……。何故だ⁉︎
『この先の部屋か!』
『アゼリア様によれば、間違いなくあの部屋にいるようね』
『アノーラを利用しやがったヤツだ! 叩き殺してくれる!』
『いや待て。“器”を殺してはダメだ。中身を引き摺り出さないとアノーラの二の舞だ』
『任せてください。造物主を分離する方法はアゼリア様から聞いています』
そんな声が聞こえる。
……おのれ! アゼリアの差し金か!
非常用の“鍵”を使ったせいで居場所がバレてしまったのか。
連中の目的は、私を捕らえ、この身体から分離して封印……あるいは殺すつもりか。
マズいな。扉をロック……無理か!
ならば……。
「……“転移”!」
情けないことだが、私はコントロールルームから脱出した。
――翌日
私は大神殿裏庭にある植え込みの中に身を潜めていた。
先代勇者や神殿の兵士たちの追跡を何とかかわしてはいるものの、もうじり貧だ。
肉体を持つものの不便さを思い知らされる。
水や食糧。それらがなければ満足に動くことは難しい。そして何よりも、睡眠だ。まともに眠ることが出来ていないため、肉体の疲労が蓄積している。それに、管理システムとのリンクが断ち切られてしまっているために、魔力の供給もおぼつかない。
この“器”を捨てられない以上、見つかるのも時間の問題だろう。なにせ、指名手配がかけられてしまっているのだ。
それも……邪神に精神を乗っ取られ、操られている者として、だ。
よりにもよって私が邪神だと! 言いたい放題言ってくれる!
……だが、実際今の私ではどうすることもできない。
今の私は、少しばかり人より魔力があるだけの人間と変わらないのだ。
ああ……情けない。
…………。
ならば、計画変更だ。
認めよう。もはやこの地に、今私がいる場所はない、と。だからこそ、“始まりの地”に活路を見出すしかない。
どうやらアゼリアどもは、あの“勇者”を送還しようとしているらしい。ならば、そのドサクサに紛れてこの地を脱出するという手もあるか。
…………。
そうだな。その方が良かろう。
ならば、だ。儀式の時間を待とう。そう、この地を去るのだ。
そして、捲土重来を期す。
――夜
ようやく儀式の時間が近づいてきた。
月が中天にかかった頃合いが、儀式の時間だ。
地球と月。その中間にこの“船”が入ることでこれを包む次元の“繭”に綻びが生じるのだ。
異界人たちは、そうしてこの地にやってきたのだ。
私はその綻びを起こさないようにすべく、様々な方法を試していた。アゼリアを地球へと向かわせたのもその一環である。
だが、それが原因でアゼリアの離反を招いてしまうとはな……。そして今度は私が地球へと逃げ出す羽目になった。
それにしても、だ。
……ああ、腹が減った。
忌まわしいことだが、神殿の大広間では何やら宴会をやっているらしい。造物主たる私が腹を空かし、疲労困憊であるというのに、だ。
危うくふらふらと誘い出されてしまうところであった。
……いや、愚痴は止そう。余計悲しくなるだけだ。
だが、それは私にとってのチャンスでもあった。
どさくさに紛れて儀式用の“砂”を持ち出し、小さな魔法陣を描いた。
それは、転移の魔法陣。勇者の転移陣と連動し、異界への門を開くのだ。
この手の術式を創造したのも私だ。そんな事など造作ない。
……そして、
「時は来た!」
月が中天にかかり、魔法陣に光が宿る。
と、なにやら少し離れたところで人の声がした。
バレたか? だが、遅い!
私は魔法陣の上に身を踊らす。
そして、
「……“転移”!」
そうして私は自らが創造した世界に別れを告げた。




