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6-EX1 アスリエルの回想

 幾重もの煌く光の輪――魔法陣――が宙に浮かび、回転を始める。

 そしてその中央にいるのは、勇者様。

 彼は姫巫女(エルリアーナ)様やご家族たちと最後の言葉を交わしている。

 そして、魔法陣が一際眩く輝いた。


「“転移”!」


 女神アゼリア様の声。

 直後、勇者(アキト)様の姿は光に包まれ……弾けるようにして消えた。

 そして、魔法陣自体もその後を追うように燐光を発して消滅する。

 後に残されたのは……静寂。

 まるで今までそこに何もなかったかのように。


「ふぅ……」


 女神様は、一つ大きく息を吐く。


「これで……彰人君(勇者)に絡む運命の“糸”は解けたわ。一安心ね。では、私も一旦向こうへ帰るわね」


 次いで女神様も呪文を唱え始めた。

 再び現れる魔法陣。

 そして、


「“転移”!」


 輝きと共に、女神様の姿は消え去った。

 勇者様の後を追い、“チキュウ”……あるいは“ニホン”という異世界へと向かったのだ。


「ありがとうございます、アゼリア様」


 エルリアーナ様は女神様がいた方に向かい、一礼。

 そして私たちの方へと向き直る。


「これで、勇者様の送還の儀は終わりました。ありがとうございます」

「それは何よりです。では、宴の続きを楽しみましょう」


 大神官ローベルト様の言。

 そしてご家族や大神殿幹部、妖精王たちやカデス領主シェカール――私の父だ――らが泉を出ていく。そして、私たち侍女もエルリアーナ様と共に……

 と、


「ごめんなさい。少し……一人にしてくれませんか?」


 エルリアーナ様はそう言うと私たちに背を向けた。それは、先刻まで勇者様がいた方向。

 姫巫女様は、この泉に留まるつもりなのだろう。


「……はい。分かりました」


 そうなれば、だ。私たちの役目だ。この泉の入り口にある扉の前で待機することにしよう。


「では、失礼します」


 扉を閉める直前……エルリアーナ様が俯き、顔を覆うのが見えた。



――扉の前

「にしてもさ……何ていうか、勇者様も少し酷くないかな? エルリアーナ様を置いて帰っちゃうなんてさ。それに……こっちにご家族もいるんだし、ずっとこちらで暮らせば良いのに」


 思わずそんな言葉が私――アスリエル(アスリ)――の口をついて出る。明らかに彼女(エルリアーナ様)は悲しみ、泣いていた。


「そうかもしれないけど……向こうにも親族はいるみたいだしね。それに、運命の“糸”って女神様はおっしゃてたじゃない。一度は向こうに帰る必要があるんじゃないかしら?」

「そっか……う〜ん」


 同僚で従姉のエセルナート(エセン)の言葉。

 それはそうかもしれないが……何とも割り切れない。家族や親しい人が引き裂かれるというのは哀しい話だ。

 私とエセン、そしてエルリアーナ様は、幼い頃まるで姉妹の様にこの大神殿で暮らしていた。

 エルリアーナ様はご両親から引き離され、次代の姫巫女として育てられていた。

 一方、私生児であった私はその時点で唯一の肉親である母を亡くしていた。

 そのため、エセンの両親が私たちの親代わりだったのだ。

 やがて私は、カデス領主シェカールが父であることが判明した訳だが……

 魔王戦役時、両者は恋人同士であり、将来を誓い合う仲であったという。しかし……父に有力者からの縁談が舞い込んだという。

 父は蹴ろうとするが、無碍には出来ない相手である。

 それを知った母は……自ら身を引いた。

 手紙を置いて行方を眩まし、そしてこの神殿にやってきた。

 そして私を産み……病に倒れた。

 父と……母。

 母は父を想って側を離れ、父は……

 本当にそれが良かったのだろうか? それとも……

 そしてエルリアーナ様の親族は行方不明か……あるいはアルセス聖堂騎士団あたりにでも討たれたか?

 もはや、勇者様しか“親族”はいないのではなかろうか?

 そう煩悶(はんもん)する。

 と、


「……どうしたのかしら?」

「えっ」


 エセンの声。視線を上げる。

 何やら数人の衛兵が慌ただしく走り回っている。


「何の騒ぎ?」


 とりあえず、その一人に声をかけてみる。


「手配をかけていたアイディンですが……先刻、それらしき人物が本殿近くの茂みに潜んでいるところを発見しました。しかし、その直後、姿を消してしまったのです。おそらく“転移”を使ったと思われます。現在、どこにいるか所在は掴めておりません。十分お気をつけください」

「分かったわ。ありがとう」


 アイディン……神殿の護衛兵の一人だ。

 女神様が直々に指名手配したという男。父は元聖騎士であるエヴノ。しかし彼は、大神殿から姫巫女と聖剣クルトエルカを持ち出し出奔してしまっている。

 その理由は、旧ガンディール王国の復興。姫巫女であるエルリアーナ様が王家の最後の王女であるからだ。

 しかし頼った先は、よりによってアルセス聖堂騎士団。ガンディール王国滅亡の一因となった連中だ。

 彼がなぜあの騎士団を頼ったのかは分からない。確かに旧ガンディール王国内の勢力では一番有力ではあったが。

 そしてエヴノはこの世界に転移してきた勇者様を討とうとし……倒れた。どうやら騎士団顧問であるレジューナなる人物に操られていたとの話だ。

 彼の出奔以降、大神殿に残された家族は白眼視され、相当苦労したらしい。

 エヴノの妻は心労により病死。幼い兄弟が残された。アイディンはその長兄として弟妹を養うべく城下で肉体労働などをしていたと聞く。それを見かねたローベルト様がアイディンを護衛兵として登用したという。

 その彼もまた、勇者様の命を狙った。

 ローベルト様によれば、冥界の管理者ファルグスなる邪神に身体を乗っ取られて。地下世界で魔神王バルドスを討ち、地上に帰還する直前で襲撃をかけたのだ。

 結果は失敗。彼は“転移”によって逃亡していった。

 にしても、“転移”……か。

 一体どこに? ……いや、まさか!


「姫巫女様が危ない!」

「!」


 私たちは急いでドアに駆け寄った。

 とはいえ、『一人にして欲しい』と言われているのですぐに開けるのはためらわれた。

 エセンが扉に耳を押し当て……


「! 話し声がする」

「え? でも……」


 今、この泉にいるのはエルリアーナ様のみ。そして入り口は、私たちがいる一箇所だけだ。

 周囲は衛兵が巡回しているので、外部からの進入は難しいだろう。

 この神殿及び霊峰を護る結界があるので“転移”を用いて侵入することも不可能だ。それこそ女神やその“力”を借りた者でもでもない限り……

 いや、一人いた。


「まさか……」


 逃走のために“転移”を用いたアイディン。彼であれば、泉に直接転移出来る可能性もある。

 だとすれば、目的は姫巫女の……


「マズい!」


 私とエセンはすぐに、近くにいる姫巫女様の護衛達に声をかけ、召集。


「エルリアーナ様!」


 そしてすぐさま扉を開き、突入した。



――女神の泉

 エルリアーナ様の後ろ姿が見えた。

 ご無事であったことに、一つ胸を撫で下ろす。

 しかし、


「!」


 もう一つ人影があった。

 あれは……黒髪の、厳つい大男だ。

 何となく似た印象はであるが、勇者様ではなない。手配書からかなり違う姿なので、アイディンでもない。だが何者であれ、不審者には間違いないだろう。


「曲者!」


 エセンが叫んだ。

 私たちは武器を抜き、男を捕らえるべく走り出す。

 そして奴も、脱兎の如く逃げ出した。


「あの、チキュウの方!」


 エルリアーナ様が何か叫んだ。


「待って! あの方はただ迷い込んだだけ……」


 エルリアーナ様の言葉ではあるが、聞くわけにはいかない。

 姫巫女様を害する可能性があるものは、何であろうと捕らえねばならないのだ。

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