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 まずはローベルトによる、先日の事件の報告だ。

 内容は昨日語られた者とは大差ない。が、内容は幾らか整理されていた。ヴォルザニエスの件も、わずかだが言及されていた。その一方、俺が異界人でイルムザールであるという事は伏せられていた。

 この場にいるのが、大神殿関係者だけではないという事に配慮したのであろう。

 そして今度は、女神アゼリアの降臨だ。

 エルリアとローベルト、そして神官達による祈りが捧げられた。

 ……といっても、形だけのものだ。本人は向こうで仕事があるので今は来ていない。なので、映像のみでの出演だ。

 え〜っと、ビデオメッセージ?

 朝方、転移魔法によって届けられたという魔導石に仕掛けられた幻術を、ローベルトがさりげなく起動させる。

「おおっ!」

 観客席からどよめきが起きた。


「アゼリア様だ! まだこの地を見捨てられてはいなかったのだ!」

「なんと美しい……」


 などと、彼女を称える言葉を皆口々に叫んでいる。

 実態を知らないという事は、幸せなのかも……おっと。危ない危ない。

 広間に彼女の言葉が響く。

 エルリアが“声”を聞けなかった理由について。俺が、女神自ら選んだ勇者であるということ。そしてエヴノをたぶらかした存在。更にはアルセス聖堂騎士団が異端であることなどを語った。更には俺がエルリアを娶り、そして修行のために神界へと旅立つことなども……。

 どさくさ紛れに結婚させるのは、アンタの差し金かい! 帰ったら小一時間……。

 ……いや、イルムザール的には文句を言っちゃいかんのだろうけどさ。

 というか、俺があっちに戻ってしまったら、下手すればエルリアは生涯独身という事に……

 いや、だからと言ってエルリアが他の男となんて考えたくもないが。

 とはいえ、今更『残る』というのも……

 おっといかん。エミュレート、エミュレート。

 ここでヘンに悩んだ顔みせたら、エルリアやローベルトに迷惑がかかる。毅然としとかんと。

 俺の心中の苦悩など関係なく、女神の話は続く。

 そして最後、皆に“祝福”を与えて彼女の姿は天へと昇って行った。

 やれやれ。これで一段落、か。

 あとは祝宴へと移行する訳だ。



 俺とエルリアは神殿二階のバルコニーに出て、広場に集まった人々に挨拶をした。そして再び広間へ戻ると、宴会が始まった。

 料理が運ばれ、楽隊の演奏が始まった。

 領主達や神官達、街の重鎮達が挨拶に訪れ、彼らと言葉をかわす。

 実質的な大神殿トップであるローベルトは、特に忙しそうだ。

 と、傍らに立つヴェルディーンが目に入った。

 彼は宴会の最中も油断なく周囲に視線を巡らせていた。


「少しは宴を楽しんだら?」


 と、話を振ってみる。


「自分には警護の任務がありますので。こういう時、何が起こるか分かりませんしね。酒はアキト様を見送らせていただいた後の楽しみにとっておきますよ」

「そうか。ありがとう」


 ヴェルディーンは真面目だな。師匠のアリオスといえば、飲む打つ買うの三拍子そろった無頼漢だったが。多分こういう場なら、あおる様に酒を飲んでいただろう。

 ……やがて陽は落ち、更に一刻程して宴は終わりを告げた。



「ふぃ〜、疲れた」


 俺は控え室に戻ると椅子に崩れ落ちる様に座りこんだ。

 二度目とはいえ、疲れるモノである。

 一通りの儀式が終わり、あとは帰還の刻限を待つだけだ。もう少し、家族やエルリアと話してすごすか。


「お疲れ様です」


 黒髪の侍女が水の入ったコップを差し出してくる。アスリって名前だっけ。


「ありがとう。助かるよ」


 冷たい――とっいても、冷蔵庫で冷やしたほどじゃないが――水は俺の喉を潤してくれる。

 侍女は一旦別室に下がろうとするが、すぐに戻ってきた。

 どうやら俺に来客だそうな。

 誰だろう? 彰人としての俺には、ほとんどこっちでの知り合いはいない。

 彼女に聞いても要を得ない。何やら頬を赤らめ、ぼうっとしている。ふ〜む、どうしたものか。

 とはいえ折角来てくれたのだ。無下にする訳にはいかん。とりあえず入ってもらう事にした。

 と、見知った顔が現れた。

 銀髪の美丈夫と、黒い髭を蓄えた偉丈夫である。

 この二人は、白アルフと黒アルフの王なのだ。


「久しぶりだな、イルムザール殿。いや……今はアキトと名乗っておられるか?」


 白アルフ王が柔和な笑みを浮かべた。この世のものならぬ、美しい顔立ちだ。確かに侍女もああなるわな。


「どちらでもいいですよ。それより、お二方ともいらっしゃっていたのですね」


 この二人の妖精王には、前世でいろいろ世話になった。結局、ろくに礼も出来ぬうちに俺は戦死してしまったが……


「ウム。あの小童がこの世界に戻ってきたと聞いてはな」


 と、黒アルフ王。


「小童はないでしょう……」


 俺は苦笑する。あの当時、少なくともこの世界では認められた成人だったはずだ。


「フン、たかだか数十年しか生きておらぬのなら小童に相違あるまい。それに、今のお主の姿は、小童以外の何物でもなかろう?」

「た、確かに……」


 黒の妖精王は髭を震わせ、豪快に笑った。

 ま、確かにこの世界創生より生きている彼らにしてみれば、前世の俺も小童か。それに今の俺の肉体も、十代の少年だしな。


「それよりも……お二方とも、以前はお世話になりました。ろくにお礼も言えず、申し訳ありません」

「フハハハ……殊勝なことだ。それより、お主の鎧、見せてもらったぞ」

「ああ……ボロボロにしてしまい、申し訳ありません」

「いや、気にすることはない。それにしても、儂が精魂込めて作った鎧をあそこまで傷つけるとは、恐ろしいものよ。お主が次に来るときまでには、完全に修復してみせよう」

「ありがとうございます」


 それを使う機会がない事が望ましいんだけどな。

 が、今は言うまい。



 そしてしばしの歓談ののち、二人の妖精王はローベルトに用事があるとのことで、部屋を去って行った。

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