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2

――朝

 俺は柔らかい感触に包まれ、目を覚ました。

 これは一体?

 目の前に広がるのは、艶やかに波打つ栗色の髪。

 そうだ。この持ち主は……


「エルリア……」


 彼女は俺の胸に顔を埋めるようにして眠っていた。

 そういえば、また夢を見たな。こっちに来て連日だ。

 今度は、前世で初めて彼女に会った日のことか。無論、彼女は覚えちゃいないだろうが。

 それにしても、複雑な気分だ。

 あのとき俺の腕の中にいた子とこんなことになっているとはな……。

 これも、運命の糸の導きってヤツかな? そういえば、アゼリアは運命の糸を紡ぐ女神でもあったな。彼女の導き、なのかだろうか?

 エルリアを起こさない様に身を起こし……

 あ、そーいえば……昨日のアレ、覚えてないよな? 戦闘中覚えた“気”の循環とかやっちまったけど。

 彼女の快感が増してるみたいなんで、思わず調子に乗っちまった。が、ちっとやりすぎて、危うく大惨事になる所だったが……。

 ま、その時は、その、と、き……

 背筋に冷たいモノが走る。ふと視線を下ろすと、エルリアがジト目で俺を見上げていた。


「……」

「お、おはよう……」

「……」


 彼女は無言で手を伸ばし、俺の頬をつねる。やっぱし覚えてたか。


「……アキト様? 私は怒っているのですよ」

「ハ、ハイ……」

「恥ずかしいって言っているのに、怖いって言っているのに、あんな、あんな……」

「いや、すいません。調子に乗りました」

「それにこの数日で、ずいぶんと、その……やり方が手慣れたみたいですけれど、ねぇ?」

「そ、それは……誤解だ」


 そりゃあの時はいろいろパニクってたし、前世の知識もなかったしな……。浮気なんぞしちゃいない。


「…………」


 彼女はじっと俺を見、一つため息をついた。そして頬から指を離す。


「……いいでしょう。私も、あの……」


 と、そこで赤面した。昨晩の行為を思い出したのかもしれない。


「兄ちゃ〜ん! おねーちゃん! ご飯だよ!」


 そこに弟の声。そして元気の良い足音。

 げっ、今来られたらマズい。エルリアがほとんど裸だ。


「ダメだって! 二人は疲れてるんだからさ、もうちょっと寝かせてあげなよ」


 ダニエルの声。

 そして二人の足音は遠ざかっていく。

 助かった。ダニエル、恩にきる。

 そして俺達二人は着替え、母屋へと向かった。



 遅めの朝食をとると、俺とエルリアは、変身したダニエルに捉まり、エルズミスへと向かった。

 両親達は、後で見送りに来ると言っていたが……この村は、これで見納めか。

 そして俺達は、エルズミスへと降り立った。



――エルズミス大神殿

 俺達が到着した時には、既に皆が忙しく動き回っていた。

 エルリアの帰還を祝う祝典と、俺の地球への送還儀式だ。

 俺達はすぐにローベルトの執務室へと直行した。

 執務室には神官達が忙しなく出入りしていた。

 しばらく待ったのち、ようやく中へと通される。


「おはようございます」

「おはようございます、皆さん。いよいよですな。朝一番で、近隣の領主に招待の使者を送りました。まぁ、急な話なので来られるかどうかはわかりませんがね」


 それならエルリアの祝典は後日、きちんとした形で行えば良いんじゃないか、とは思うのだがな。

 それでも今日行うのは、俺がこの世界にいるうちに行おうという配慮なのだろう。……多分。


「ダニエル殿には、準備を手伝っていただきたい。男手が必要なので」

「はい。僕でよければ」

「エルリアーナ様には、禊を受けたのち、暫し礼拝堂に篭っていただきます」

「分かりました」


 そしてローベルトは俺に視線を向けた。

 手伝いなら俺もやるつもりだ。

 しかし……


「アキト様もエルリアーナ様同様、儀式に臨む準備していただきますよ」

「え? 俺も? 俺は見ているだけで……」

「何言ってるんだい? 一番の功労者なんだからさ」

「その通りです。段取りは、すでにアゼリア様から聞いております。では……」


 ローベルトが隣に立つヴェルディーンに視線を向ける。


「はい」


 ヴェルディーンはうなずくと、俺の肩をがっちりつかんだ。気がつけば、背後にアイーシャが回り込んでいた。


「え? ちょっと……」


 逃げれん。そりゃ、本気を出せば脱出はたやすいが、今ここでやる訳にもいかん。それに……


「アキト様……私とご一緒してくださると嬉しいです」


 などとエルリアに懇願されては、無下にはできまい。

 結局押し切られた形で、エルリアとともに準備を進めることになった……。

 さて、どうなる事やら。



――おそらくは午後3時過ぎ 控え室

 儀礼的な行事と礼拝、そして沐浴を済ませ、用意されていた服を着る。

 てっきり“勇者”としてのお披露目なので鎧を着込むのかとも思ったのだが、渡されたのは……。

 刺繍が施された、アイボリーの裾の長い上着。肩にかけられた緋色のストール。ゆったりとしたパンツ。


「……あの〜、これって……」


 この衣装、着たことがある。前世でだがな……


「ええ。イルムザール様とレイアルーナ様が着られた、婚礼の時の衣装と聞いております。これから行うのは、お二人の婚礼の儀式も兼ねていますからね」


 着終え終えたところで部屋に入ってきたアイーシャは、事務的に告げる。


「き、聞いてないッス」

「ええ。今初めて話しましたし。さあ、急いでください。エルリアーナ様は準備を済ませてますよ」

「え? ちょ? あの……」


 気がつけば、彼女に引きずられて大広間へと連れ出されていた。



――大広間

 控え室を出た先は、バルコニー状の演壇であった。そこにテーブルと幾つかの席が並べられていた。

 その中央に立ったローベルトが俺の名を呼ぶ。

 仕方ねぇ。俺は、袖幕の影から姿を表す。

 そして俺を出迎えたのは、大歓声であった。

 神官や巫女、侍者や衛兵達。それだけではない。エルズミスやその近郊の住民達も詰めかけているのだろう。ふと見ると、俺の両親や妹弟がいた。

 そして、最前列に陣取った者達。礼服を着た、身なりの整った連中は、近隣の領主達だ。無論当日の招待なので欠席したり名代を送ってきた者も多い。しかし、それでも数人来ているのは驚くべき事だ。

 どうやら昨日の時点で女神アゼリアがエルズミス周囲の諸都市の神殿に神託を下していたためらしい。

 ……仕方ない。ここで尻込みしたら、男がすたる。

 とりあえず、脳内であの当時のイルムザールをエミュレートしとこう。

 俺は皆を見回すと、軽く手を上げて歓声にこたえる。

 そして隣に控えたアイーシャに先導され、俺は席に着いた。

 次いで、エルリアの名前が呼ばれた。

 先刻よりも大きな歓声だ。

 まぁ、どこの馬の骨ともつかぬ勇者よりも、生まれのはっきりした姫巫女の方が歓迎されるのは当たり前か。

 そしてエルリアが姿を現した。

 丁寧な刺繍が施されたブラウスとスカート。そしてその上から巻かれた絹のストール。

 レイアルーナの花嫁衣装だ。

 当然のことながら、エルリアにも良く似合っている。

 彼女の姿を見、さらに歓声が大きくなる。

 彼女は一礼すると、俺の隣の席に着いた。

「綺麗だ……」

 思わず口を突いて出る。

 まぁ、前回の時も同じ言葉を口にした訳だが。

 我ながら、語彙が貧弱だな。次こそ……いや、それはマズいか。

 こうして主役とそのオマケが着席したことで、お披露目の儀式が始まった。

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