20
――しばし後
女神アゼリアと共に俺達は地上へと戻った。
既に日は落ち、月が昇っている。
大神殿に凱旋した俺達は、その大広間で神官や巫女達、そして侍者や衛兵に大歓声で迎えられた。その中に、肩を支えられた衛兵の隊長もいる。
数年ぶりに戻った姫巫女と新たな勇者、そして何より女神アゼリアが姿を現した事で、彼らの興奮はいやがうえにも高まった。
「諸君。よく聞いてほしい」
ローベルトは集まった者達を見回した。
「我々は、この世界の崩壊を食い止めるため、この地下へと赴いた。そしてここに現れた新たな勇者の力により、復活した魔神、神魔王バルドスは討ち取られたのだ」
その言葉に大歓声が上がった。
「だが……残念な事実も発覚した」
広がる騒めき。
「かつてこの世界は、天空神アルジェダート、そしてここにおわす大地神アゼリアによって創造された。しかし、天空神はバルドスとの戦い、そして封印により“力”を使い果たし、永き眠りについた」
そこで先生が言葉を継ぐ。
そういや地上に戻る途中、、先生とローベルトは何やら話し込んでたな。この事かな?
「そして私は夫に代わり、世界を維持してきました。しかし、それも限界がきたのです。一つはバルドスを始めとする異界よりの来訪者達。そしてもう一つは魔王ユーリルの死。これにより、この“閉じた”世界の均衡は大いに崩れたのです」
そこで先生は、言葉を切り、戸惑う一同を見回した。
「ですが、恐れる事はありません。いままでそれを企んでいたモノの正体が発覚したのです。冥界の管理者ファルグス。あの者は、かつてこの世界が創造された際に産み落とされた神性の欠片。にもかかわらず、自らが真の造物主だと思い上がり、世界を改変しようとしたのです。異界より召喚された神魔王バルドスは、その差し金でした。また、邪神スアティスラを名乗り、勇者の祖であるユーリルをたぶらかし、魔王としたのもファルグスです。そして私もまたあの者の策にはまり、異界へと追放されたのです」
さらに騒めきが広がった。だが、女神自らが語った事であるので、異論を唱える者はいない。
まぁ、実際半分近くがデマカセなんだが。
とはいえ、あの造物主が偽りの神であるのは間違いない様だ。先人の遺産であるあの機械を使い、自分勝手に世界を創っては潰していたのだからな。
それに、ここで事実を告げても仕方がない。何せあの造物主は、この世界に生きるモノの生命を、糧としか見てなかった訳だしな。それを知ってしまったら、この世界の住民はどう反応するか……
それに、ヤツ自身は陰に隠れ、神としての仕事のほぼ全てをアゼリアに任せていた訳だ。今更『私が“真の造物主”でござい』などと出てきたところで誰も納得しないだろう。
あの装置の管理もずっとアゼリアがやってきたそうなので、乗っ取られたのも自業自得である。
「それが故に私は姫巫女であるエルリアーナに啓示を下す事も出来なくなり、偽神ファルグスによってたぶらかされた騎士エヴノは彼女を連れてアルセス聖堂騎士団に走ったのです。その事を知った私は、帰還の策を練りました。幸いわずかに覚醒した夫の意識は、私に帰還の道筋を示してくれました。その際に出会ったのが、この勇者アキトなのです」
こ、ここで俺に振るのかよ。
「オホン。私はかつて、イルムザールとしてこの地に生まれ、魔王戦役において軍を率いていた。しかしその終盤、ファルグスの策謀で殺されてしまったのだ。しかし、いかなる運命の導きか、異界へと転生した。これは、我が祖である天空神アルジェダートの導きであったのかもしれない。そしてその地で出会ったのがアゼリア様だった。私はアゼリア様の導きでこの世界へと舞い戻り、そこで姫巫女エルリアーナと出会ったのだ」
エルリア、あとは任せた。
「私は、セルキア神殿でアキト様と出会い、アゼリア様の命で行動を共にする事になりました。私は愚かにも騎士団の教えに染まり、異界人を討伐するために神殿へ赴き、アキト様へと剣を向けたのです。しかし、アキト様は私を許し、受け入れてくれたのです」
いや『許す』とか、大げさな話じゃないんだけどな〜。まぁいいか。
「その途中、我が叔父エヴノが私達を襲いました。その姿は、まさしく魔物……。ファルグスは、優しかった叔父を魔物へと変えてしまったのです。私達は涙ながらに叔父を討ち……いまわの際の叔父の言葉でそれが判明しました。その時ローベルト様と出会った私達一行は、エルズミスへと急いだのです。しかしその途中、ファルグスによる襲撃を受けました。ファルグスはバルドスを召喚し、私達を襲わせたのです」
ここでヴォルザニエスについて触れるのは避けるのが正解だろう。何せ、泣く子も黙る魔王軍の将である。ヤツについてはおいおい説明すればいい。
「姫巫女の“力”を恐れたファルグスは、姫巫女の殺害を企てた。が、それは失敗したものの、姫巫女の精神を封じられてしまったのである。しかし我々が地下迷宮へと赴いたのち、この地に降臨されたアゼリア様のお力で姫巫女は回復し、我々とともに戦い、勝利をもたらしたのだ」
と、ローベルト。更に先生が言葉を継ぐ。
「我々は勝利し、この世界を破滅に導く敵、魔神王バルドスを打倒しました。ですが、油断はなりません。ファルグスは逃亡し、この地上を虎視眈々と狙っているでしょう。しかし、恐れる事はありません。我々……この地に住まう皆は、決して弱くありません。ファルグスの手がこの地に伸びる事はないでしょう。……これは、新たな時代の始まりなのです。もはや、バルドスやファルグスの様な旧き軛は砕かれ、新たなる千年紀が刻まれるでしょう。では、皆に祝福を。よき明日を」
そこで彼女は祝福を表す印を結ぶ。
と、溢れる優しい光が皆を包んだ。心身を癒す、女神の祝福。
疑問点や何やらをコレで誤魔化してる様なモンかもな〜。ま、説明やら何やらは追々キチンとしないといけないだろうけど……。
そして光が収まると、先生は皆を見回した。
「では、私は一旦帰ります。また明日、儀式の夜に会いましょう」
彼女は再び呪文を唱える。
と、四日前に現れた時の様に、彼女を光が包む。そして光の玉と化した彼女は、天へと昇って行った。
「……では、皆、出迎えご苦労であった」
彼女を見送ると、ローベルトはおもむろに口を開いた。
「明日、重要な儀式を行う。そのための準備をせねばならない。皆にはしばし、手を貸してもらいたい」
司祭達には異存はない様だ。
アイーシャが進み出て、具体的な支持を始めた。ヴェルディーンも衛兵達を集めている。警備の指示だろう。
にわかに周囲が騒々しくなった。
そしてローベルトは俺達へと向き直る。
「とりあえず、今日はこれで解散ですな。お二方はじっくり身体を休めて下さい。万全の態勢で明日の儀式に臨みましょう」
「え……いいんですか?」
思わず問い返す。
「勿論ですよ。あなた方お二人が、明日の主役ですから。とりあえず、部屋を用意させましょう。それとも、アキト様は一旦ラクア村へと戻られます?」
父さんの家、か。最後に家族と過ごしたいが……
「アキト様、私もラクア村へご一緒してもよろしいでしょうか?」
「え? エルリアも?」
「はい。一度アキト様のご両親に挨拶をしておかねばと」
「では……すぐに馬車の手配を」
その言葉を分かっていた様に、ローベルトは側近を呼ぼうとした。
が、それをダニエルが止める。
「じゃあ僕が二人を連れて行くよ。変身して飛べば、すぐに着くさ」
「そうでしたな。お願いできますか?」
「勿論。では……」
そうして俺達はラクア村へと向かう事となった。




