表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/114

19

――再び 迷宮 地下一階

 意識が浮上していく。

 胸に鋭い痛みを感じた。これは、先刻感じたものと同じか。


「アキト様……」


 誰かの声が聞こえる。

 ああ、これはエルリアの声だ。

 何で俺は倒れているんだ? それに、この痛みは一体⁉︎

 ……ああ、思い出した。造物主に操られたアイディンの剣で心臓を刺されたんだな。

 そこで死んで、あの世に……いや、この世界の“外”、地球のある世界との境界まで行ったっけか。

 そういえば、誰かと会ったっけ。

 ああ……そうだ。魔王ユーリル……天空神アルジェダートだった。

 彼にこの世界に戻る様言われて、こっちへ還ってきたんだ。

 ……俺はまだ生きているんだな。

 目を開ける。

 と、栗色の髪の女が目に入った。彼女は涙を浮かべ、俺の手を握っている。


「エルリア……」


 彼女の名を呼び、その手を握り返した。


「えっ……」

「何とか“戻って”これたよ」

「アキト……様?」


 彼女は俺に抱きつく。


「え? ちょっ……まっ……」

「アキト様!」

「ああっ、まだ治癒魔術が途中……」

「うごあっ!?」


 あの世を垣間見たのは、本日二度目か。



――しばし、のち

「エルリア、俺は……」


 俺の胸にすがって泣く彼女に問う。


「呪いの剣を胸に受けたのに、何故……」

「アキト様、これです」


 涙を拭い、彼女は何かを懐から取り出す。

 それは、砕けた翠色の石。


「この魔導石……まさか!?」


 エヴノが宿った魔導石を胸のポケットにしまっていたが、刺された瞬間聞いたのは、それが砕けた音だったのか。


「ええ。叔父上が宿っていた魔導石です。あの剣の呪いは、叔父上が引き受けてくれました」

「そうだったのか……」


 前世では、俺の従者だったエヴノ。そして今世では、造物主の差し金で敵として立ちふさがり、殺しあう羽目になった。そして、死後は魔導石に宿り、俺のサポートをしてくれた……。


「『これで私の役目は果たせた』、と」

「……そうか」


 彼女から魔導石の破片を受け取り、握り締める。

 と、それは澄んだ音とともに砕け、光の粒子と化した。そして俺の胸の傷跡へと流れ込んでいく。


「え? ……あれ?」


 痛みが引いていく。

 いくら治癒魔術が有効とは言っても異界人の身体だ。あの深い傷を完全に治しきれた訳ではなかったらしい。それに血をかなり失ったせいで、自己治癒力も相当位落ちている。その為、疼く様な痛みは残っていたのだ。おかげでエルリアに抱きつかれた時、しばし悶絶する羽目になったが。


「ありがとう、エヴノ」


 俺は一人、つぶやいた。


「ごめんなさい。あの方の動きを見落としてたわ」


 背後からの声。


「先生……」


 女神アゼリアの姿がそこにあった。いつの間に来ていたのだろう? 俺の魂がこの場を離れていたのは、それほど長い時間じゃないはずだが。


「いえ……あの時、俺達を助けてくれましたし、仕方がないでしょう」

「ありがとう。でも……まだ油断はできないわね。あの方はねちっこい性格だし」

「ああ、やっぱり」

「“力”の大半は失ったかもしれないけど、嫌がらせぐらいはしてくるかもしれないわね」


 彼女は肩をすくめた。そして、床に落ちた五円玉を指差す。


「さっきの一撃、案外効いたかもしれないわよ? 身体を残して脱出出来た所を、ああやって無理に転移していったのだから」

「なるほど……」


 アイディンの身体から脱出出来なくなったとすれば、拘束もし易くなったか。

 ばあちゃんに感謝しないとね。


「とはいえ、まだまだも警戒しておいたほうが良いですな。神官達への干渉を防ぐ為、少々教義にも手を加えるのも有りですかな?」

「そうねぇ。『真の創造神』を騙る悪魔がいる、とかどうかしら? かつて宇宙が創造された際に産み落とされた神性の欠片。自らの出自を忘れたそれが、真の造物主を称し、自らの手で世界を造り変えようとしている、と」

「それでいきますか」


 何やらローベルトと先生が話している。

 にしても、教義をそんなに簡単に変えて良いんかいな? と思ったが……そーいやこの人達、女神と大神官だったな。なら、別に良いのか?

 まぁ、これ以上の事は、俺が関わる事じゃないな。天空神と女神アゼリア、そしてエルズミス大神殿首脳部が決めれば良い。


「……そういえば先生、こっちに来て良かったんですか? 確か火曜日じゃなかったっけ?」


 彼女がこの世界のコントロールを奪取した時間は、確かまだ学校では授業中だったはずだ。


「休みの届けを出しておいたから大丈夫よ。有給はまだ余ってるしね」

「すいません。貴重な休日を俺の為に使わせてしまって」

「ああ、大丈夫よ、大丈夫。どうせ遊びに行く機会なんてあんまり……そう、あんまり……」


 通路の気温が急激に低下する。見ると彼女の身体から、何時ぞやの様に何やら暗黒のオーラが漏れ出してるがな。

 エルリアが真っ青な顔をしてるし、その他の連中の顔も強張ってる。

 ……これはいかん。


「せ、先生?」


 とりあえず、肩を掴んで揺さぶる。


「え? ああ、ごめんなさい。またやっちゃった……」

 彼女は笑顔を見せる。が、目は笑ってないな。

 チラと周囲を見回すと、皆固まってる。衛兵達が気絶したままで良かった。彼らは多少の戦闘訓練は受けているとは言っても、まだまだ一般人に近い。あのオーラに接触したら、下手すりゃ恐怖で失禁してたかもしれん。

 にしても……頼むぜ、天空神サマ。

 ……と、その時思い出した事があった。


「そういえば、アイディン達の隊長は……」


 ついさっき見た光景。

 倒れた隊長らしき人物。そして駆け寄る人影。もしあの駆け寄った人物が、造物主の支配下にあったら……


「大丈夫よ。さっき啓示を与えて人を呼ばせたから」

「ああ、さっき駆けつけた人ですね」

「ええ。心配する事はないわ」

「良かった……」


 折角カタがついたんだ。これ以上人命が失われるのは避けたいものだ。今日は、この世界が造物主の支配から解き放された、いわば独立記念日だしな。

 ヤツに拉致られたアイディンの事は残念だがな。

 そして、明日は……

 エルリアと別れ、日本へと帰る日だ。

 何というか……少々気が滅入るな。

 と、先生が俺の肩を叩いた。


「胸を張って行きなさい。貴方は救世主なのよ」

「そうですな。堂々と凱旋しましょう」


 ローベルトが笑った。

 そして俺達は気絶した兵達を起こすと、ともに迷宮を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ