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「……終わった、か」


 俺はバルドスの“核”が転がっていた場所を見つめ、独語した。


「もうヤツの魔力も感じません。これで、脅威は無くなったようですね」


 ローベルトの声。

 思わず皆、安堵の息を吐いた。


「ハ……ハ……、疲れた」


 思わず全身の力が抜けた。そのままへたり込む。

 よく考えれば当たり前か。自分の肉体が持つ能力を100%、いやそれ以上引き出したのだ。

 肉体どころか精神、魂までも酷使すれば、こうなるのは当たり前だな。

 って、痛ェ!

 俺の全身の筋肉が、関節が悲鳴を上げてやがる。


「す、すいません。治癒を……。全身が痛くて」

「あ、アキト様! “大癒”!」


 エルリアの掌が俺の身体に当てられた。そして溢れる優しい光。

 痛みが引いていく。

 ふぅ。これで歩いて帰れ……うおっと。

 よろめいてしまう。疲労までは回復出来ないか。

 と、ヴェルディーンが俺を担ぎ上げた。おおっ、軽々と。


「俺が背負っていきますよ。これくらいの仕事はさせてください」

「ハハ……ありがとう」


 少々情けない姿だがな。

 そして俺達は戦場を後にした。色々気になることもあるが、後だ。

 今は……休みたい。



――地下迷宮内

 円筒部の階段を上がり、迷宮内を歩くこと数十分。

 モンスターが現れることもなく、順調に進んで行く。

 行きで各所の“門番”が倒された為だろうか。それとも、先生がこの世界のコントロールを掌握し、この迷宮のモンスター出現機能をオフにしてくれた為か。

 何にせよ、こんな時まで戦いたくはないので、助かった。

 そして俺達はさらに進み、地下一階へと到達した。



 ここでもモンスターは出現しない。

 いよいよ地上、か。

 これでようやく休める、か……

 ん?

 何か妙な気配が……


「我々以外に誰かいますね。おそらく入り口付近でしょうが……誰か侵入してきたのかもしれません」


 と、ローベルト。

 そして精神を集中し。気配を探っている様だ。が……


『ふむ……何やらどこかで感じたような……?』


 困惑したようなエヴノの声。

 知り合い、なのか?


「ここからは少し慎重に行った方が良いですな」


 ローベルトの声に俺達は頷く。

 俺もヴェルディーンから降ろしてもらい、いつでも剣を抜ける体制で歩く。

 そして迷宮の入り口付近、ここで最初に敵と接触したあたりに、人影があった。

 数人の若い兵士だ。

 門の前の詰所にいた連中だろうか? あの隊長はいない様だがな。

 それよりも、一般の兵がこの祠に侵入することは禁じられているはずだが……

 戸惑う俺達の前に、一人の兵士が進みでる。


「お迎えにあがりました」


 その顔は……


『なっ……』


 エヴノは絶句する。

 それは、彼の息子であった。


「アイディンよ。お迎えご苦労、と言いたいところだが……」


 ローベルトは眉間にしわを寄せる。


「なぜこの場所まで入ってきたのだ? 聖域への立ち入りは禁じておいたはずだが」

「アゼリア様の指示です。皆様を迎えに行けと」

「そうですか。アゼリア様は、今何処に?」


 エルリアが問う。


「それは……ただ、遠いところにおわすとだけ」

 その声には、妙な棘があった。

 ……おかしい。先刻見た時とは、雰囲気が……

 と、その鎧の胸甲に小さな黒い点がついているのが見えた。衛兵の鎧には、そんなモノは……

 と、妙な臭いを嗅いだ。


「この臭い……血か!」


 エヴノの息子、アイディンは唇の両端を釣り上げ、薄く笑った。

 そのまとう“気”が変質してゆく。


「……貴方は何者? アイディンではないわね」


 アイーシャは杖を構える。そしてその指先には淡い光。いつでも攻撃魔法を放てる構えだ。


「ふん……」


 そんな彼女にアイディンはチラと視線を向け……


「きゃっ!?」


 不可視の力でアイーシャは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「アイーシャ!」


 ローベルトは彼女に駆け寄る。


「曲者が!」


 一方、ヴェルディーンは剣を抜いて斬り掛かる。

 と、ヤツの姿が消えた。

 剣に手をかけ、気配を探り……


「いかん!」


 エルリアの背後だ。

 きらめく銀光。

 とっさに彼女を突き飛ばす。

 しかし、その直後。

 胸にかすかな痛み。そして何かが砕けた様な音。


「!」


 見下ろすと、胸に刺さった細いナイフが見えた。

 ……いつの間に!? いやまさか、エルリアを狙ったのはフェイントで、本命は俺という事か?

 傷口から血が噴き出す。心臓に達したのか……

 だが、このままでは済まさん! だが、どうする? 身体は、もう動きそうにない。

 おっと、これは……

 胸からこぼれ落ちた“何か”。

 指なら動く! 行けるか!

 すかさずそれを、指弾として発射。

 それは、現れたアイディンの眉間に命中した。

 倒れるヤツ。

 だが、俺もそこまでだった。

 急激に血圧が低下したため、もはや立ってはいられない。俺はがくりと頽れた。


「アキト様!」


 エルリアの悲鳴。


「だ、大丈夫、さ」


 “治癒”さえ効けば……


「無理、だ」


 アイディン、あるいはアイディンに宿る“何か”の声。

 ヤツは立ち上がり、額から血を流したまま嗤っていた。


「何という事を!」


 斬りかかるローベルト。

 だが、ヤツの姿はかき消える。


「それは、呪いの武器。傷が塞がる事はない。そして貴様の魂は、永遠にこの世を彷徨うことになるだろう。では……さらばだ」


 迷宮内に殷々(いんいん)と響く声。その残していった“気配”には、覚えがある。

 ……そう、か。


「あ、あれは……造物主」

「まさか、アイディンを乗っ取ったのか」


 ローベルトはアイディンが消えたあたりを呆然と眺めていた。

 油断した……。バルドスを倒したのはいいが、ヤツへの対処を失念していた。この世界とのリンクを断ち切られた為、大した事はできないだろうとタカをくくってしまった。

 その代償かもしれん。

 まぁ、俺の命一つで済んで良かったというべきかもな。イチかバチかで自爆テロでもされたらシャレにならん。

 それにしても……二度目の死、か。今生はある意味プレーオフみたいなものか。それでも……もうちょい生きたかったな。

 また、来世でもエルリアと逢えるといい、が……。

 そこで俺の意識は途切れた。

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