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16

 レーザーが閃き、バルドスの漆黒の肉体に穴を穿つ。

 しかしバルドスは意に介すことなく肉薄し、槍と化した抜手を放った。

 巨人像は、肘部から突出したブレードでそれを受ける。

 直後、耳障りな高周波音と共に衝撃波が発された。その衝撃波を間近でモロに受けた巨人像の装甲は、耐えきれずにヒビが入っていく。

 両者ともに超振動でもしてるんだろうか? 果たしてこの聖剣や鎧が耐えることができるのか?

 とにかく、ヤツの攻撃は回避の一手だな。『当たらなければ〜』というヤツだ。

 脳裏で戦術をシミュレート。

 同時に“気”を全身に流動させ、己の肉体を活性化する。

 そして再び、


「“加速”!」


 “気”との相乗効果のおかげか、先刻よりも効果は強力だ。

 一瞬で距離を詰める。

 そして、


「喰らえ!」


 巨人像の左腕を斬り飛ばし、更なる追撃を加えんとするバルドスに肉薄すると、その背を深々と斬り裂いだ。


「ぬぐっ!? 貴様……」


 ヤツは飛び退き、俺と相対する。

 直後、巨人像は崩折れた。見ると、装甲のあちこちが傷つき、穴が空いている。相当のダメージを受けているのだろう。


「大丈夫ですか、先生?」

『ええ。でも、この機体はここまでのようね。後は頼むわ』


 女神アゼリアの声。

 直後、巨人像の双眸から光が失せ、地に伏した。彼女の“神気”も消えている。


「任せてください」


 俺は言い置き、再びバルドスに視線を向けた。


「さぁ……第二ラウンドだぜ!」

「はははははは……死にぞこなった身で何が出来る? その、ちっぽけな命で?」

「やれるさ。貴様を滅することぐらいはな!」


 剣を構え、突進。

 だが次の瞬間、バルドスの姿は搔き消える。

 しかし、今度は捉えた!


「……ここだ!」


 振り向きざま聖剣を振り抜いた。


「ぬぐっ!?」


 手応えあり。

 今度はヤツの左肩に深い傷が刻まれている。


「ほう……我の動きを見切るか」

第六感(カン)ってヤツさ』

「ふん……だが、この程度の傷では、我を倒すことは叶わぬぞ」


 ヤツの言葉と同時に、肩の傷が埋まり、消えていく。

 あっさりと治しやがるか。

 だが、先刻『手傷』と言ったな。つまりはある程度ダメージは通ったってわけだ。五桁のHPに対する一桁ダメージかもしれんけどな。

 それよりも、だ。

 今は魔力と“気”の流れがはっきり見える。先刻までの、もやっとしたおぼろげな状態が嘘の様だ。

 ヤツの身体を構成する物質を動かす命令系統があるはずだ。それを見極め、破壊する必要がある。ヤツの動きを見極め、そのありかを探らねば。

 と、ヤツが動いた。

 その右腕を変形させ、強烈な突きを放ってくる。

 だがその動きは“見え”る。

 すかさず半歩下がって回避。同時に剣を一振り。


「! 貴様……」


 聖剣は右腕を縦に真っ二つに斬り裂き、その身体深く食い込んだ。そして、


「“雷撃”!」


 剣先から呪文を打ち込む。

 それはヤツの身体の奥で暴れまわった。


「ぐあぁッ!?」

「魔力のない純粋な電荷だ! これなら貴様にも効くだろう!?」


 ……とは言ったものの、どこまでダメージがあるか疑わしいな。

 だが、ダメージが通るのはわかった。ならば、どう倒す?

 足先に“気”を集中。同時に次反対側の脚で軽く前蹴りを入れて剣を引き抜き距離をとる。

 そして、


「ハッ!」


 裂帛の気合いとともに、ヤツに横蹴りを叩き込んだ。


「ぬがっ!?」


 蹴りを受けた太腿下部から膝あたりがひしゃけ、ヤツの上体が崩折れた。


「グ、ウゥ……おのれ!」


 ヤツは俺を睨み据える。と、同時にひしゃけた膝関節を修復する。

先刻同様の、魔力と“気”の流れ。

 やはり、今のは……

 俺が気を取られた直後、ヤツは印を結んだ。

 ……そうか。第十三使徒の肉体を持つがゆえに、この世界の魔法も使えるのか。


「貴様たちが操る“力”で、あの世に送ってやろう。……“死言”」

「……!」


 突如俺の胸に鋭い痛みが走る。

 これは、かつての俺を殺した呪文。呪いが心臓を強張らせ、死に至らしめる。

 ならば……

 俺は拳に“気”を集め、胸に叩きつけた。


「ごはっ!」


 停止していた心臓に“気”の塊が直撃し、再び動き出した。


「貴様!?」


 バルドスの声には驚愕の響きがあった。


「ならば……“呪殺”!」


 ヤツその上位の呪法を放つ。

 先刻を大きく上回る、強烈な胸の痛み。

 だが、このままでは死ねん!

 俺は胸の上で印を結ぶと、力ある言葉を解き放つ。


「……“雷撃”!」


 掌から放たれた雷撃が心臓を直撃した。その一撃で、またしても呪いを受けて停止していた心臓が動き出す。


「グ……ハ……。へへっ……まだやるか? 今度は直接心臓を掴んで動かしてやるぜ!」


 精一杯の強がりで、無理やり笑ってみせる。

 この世界の運命律に束縛されていた前世の肉体だったら、抵抗する間もなく死んでいたであろう。転生も良し悪しか。

 もっとも、次の呪文に耐えれるかどうかなんて分かりはしない。先刻の言葉はハッタリである。


「ぬ・か・せー!」


 ヤツの腕が鋭い槍となって伸び、俺に迫る。その先には、俺の心臓があった。

 だが、それは見切った。

 俺は聖剣でそれを受け流すと、左の拳を放つ。

 狙うはヤツの“心臓”。そこにはおそらく、ヤツの肉体を司る末魔(チャクラ)がある。

 そして、命中。

 拳はヤツの胸部中央にメリ込み、そして込められた“気”はその奥へと浸透していく。そして、“何か”を“砕いた”感触。


「ははは……なんのつもりだ?」

「ぐあっ!」


 ヤツは腕を一振りし、俺を弾き飛ばした。

 そして、なんとか身を起こした俺を見下ろし、ニヤリと笑った。


「どうした? この程度の……」


 しかし、そこでその顔がこわばり、胸を押さえた。


「う? ぐ、あぁ……キ、貴様、ナ・ニ・を・したー!?」


 ヤツの肩のあたりがまた大きく膨らみ、先刻同様の巨大な、牙を持つ口が現れる。


「キョカカカ……」


 けたたましい笑い声をあげる口。


「ムゥ……」


 バルドスは何かを念じた。しかし、口はあいも変わらず笑い続けている。


「おのれ!」


 ヤツは業を煮やしたのか、その口を掴み、握りつぶす。


「ギャハー!」


 握りつぶされた口は、妙な叫び声を上げると、それきり沈黙してしまった。

 先刻とは違い、もはや元に戻る事はない。


「アンタの肉体制御プロセスを破壊させてもらったぜ。もう変形はできまい?」


 エルリアとリンクした俺の目には、ヤツの身体の深層を巡る“気”と魔力の流れが見えていた。もはや、欺瞞は通用しない。


「ぬ……ぐ……き・さ・まーっ!」


 ヤツは逆上し、俺に殴りかかてくる。

 だがそれをステッブバックでかわし、指弾を二発。


「小癪な!」


 ヤツそれを払いのけようとし……

 しかし、その腕は礫に乗せられた“気”によって弾き飛ばされる。


「ガァアッ!?」


 そして、クナイの最後の一本に“気”を込め……


「喰らえ!」


 投げつけたそれは過たず、ヤツの眉間に突き立った。

 そして、爆発。

 クナイに込められた“気”がオーバーロードし、クナイもろともバルドスの頭部が弾け飛んだ。

 そしてヤツの肉体は棒のように硬直し……地に伏した。


「アキト様!」


 喜色に満ちたエルリアの声。


「いや、まだだ」


 ヤツの肉体が震え、蠢いて形を崩していく。

 ヤツは既に、肉体と精神の末魔(チャクラ)を絶たれ、その魂が肉体を支配することができなくなったハズだ。

 いや……もしコレが、先刻現れた“口”の様な、小さな魔物の集合体であれば。そしてそれを頭部に宿ったバルドスの意識がコントロールしていれば。

 俺達の目前で、バルドスの身体が変貌していく。

 それは、あたかも脳や目、口、そして臓物の集合体の如く。

 まだだ。更なる追撃を……

 どうする? この硬質ゴムみたいな身体には、斬撃も打撃も致命打にはならん。もっと硬ければな。

 そうだ。なら……


「“大凍”!」


 強烈な冷気をヤツの周囲に作り出す。


「エルリア!」


 そして、彼女に合図を送る。


「“凍陣”!」


 エルリアの声。

 直後、凄まじい冷気がバルドスを中心とする一帯を支配した。

 ヤツの身体は次第に凍りつき……


「キカカ……」


 だが、すぐに身体に付着した氷は筋肉(?)の盛り上がりで砕かれてしまった。

 クソッ! これでもダメか!

 しかし、その直後、


「“氷棺”!」


 アイーシャの声。復活してたか。


「私もいますぞ……“凍陣”」

「じゃあ、僕も……“氷嵐”!」


 ローベルトとダニエル。

 バルドスの身体は完全に氷の中に閉じ込められてしまった。

 “鑑定”を使い、ヤツの状態を確認。

 よし、いける。


「……アレを砕きます」


 絶対零度。あるいは、それに近い状態までヤツの身体は冷却されている。物質の持つエナルギーが最低値になった状態だ。いかにヤツが超常の存在であるとしても、その状態でヤツを粉砕すれば、それなりのダメージは与えられるかもしれない。


「では……」

 ヴェルディーンに目配せし、聖剣に“気”を込める。

 そして、

「行くぜ……光輝(かがやき)の太刀!」


 氷漬けのバルドスに対し、大上段から剣を振り下ろした。

 そして、ヴェルディーンも。

 二振りの剣から放出された爆発的な“気”はバルドスごと氷塊を打ち砕いた。巻き起る衝撃波は、ヤツの凍りついた身体を微塵に砕いていく。


「エルリア!」


 彼女に呼びかけると同時に、魔導石経由で指示を出した。


「はい! ……“猛炎!”」


 今度は灼熱の炎。

 そして今度は、仲間達の炎系の呪文が次々に炸裂した。

 急激な温度変化でヤツの身体を構成する物質が破壊されたのだろうか。先刻まではいかなる攻撃もはじき返してきたヤツの身体が灰になっていく。

 そして、最後に残されたのは、ねじれ双角錐型の、虹色に輝く結晶体。


「こいつは……」


 ヤツの“核”か⁉︎


「トドメを……」


 俺は剣先に“気”を込め、“核”に突き立てる。


『ーーーー‼︎』


 断末魔の悲鳴が、俺達の脳裏に響き渡る。

 そして、砕けた“核”は、チリとなって消えた。

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