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「はははははは」


 地に伏した俺達の前で、バルドスは哄笑した。

 チクショウ。せめて、一矢報いてやらねば死んでも死に切れん。

「まさか我に手傷を負わす者がいたとはな。褒美に、汝らに世界の最期を見届ける権利をやろう。そしてその最後に、その魂をいただくとしようか。だが、安心するがいい。逃げた造物主(アヤツ)は我が地の果てまで追い、喰らってくれよう」

 左隣で倒れているエルリアの身体が震えているのがわかる。

 俺はそっとその手を握った。

 彼女と共に死ぬ、か。それもアリなのだろうか?

 いや……ここで終わるわけにはいかない。

 どうすればいい?

 とにかく考えるんだ。

 精神を集中し……

 ん? 何か“聞こえ”た。微かな……さざ波のような、風音のような。


『アキト殿』


 “それ”とは別の“声”。エヴノのおっさんか。


『少し、右を見てくだされ』


 ん? 何か翠色に光るモノが見えるな。

 あれは魔導石か。もしかしたら、先刻“聞こえた”音の元は、コレだったのかもしれん。

 どっちにせよ、魔力のブースターとして使えそうだ。


『おそらくあれは、先刻の巨人像からこぼれ落ちたモノだと思われます。それも、かなりの“力”を感じますな』


 反撃の手段になるかはわからんが、試してみる価値があるか。

 それにあの場所なら、手が届きそうだ。

 ヤツは俺達に背を向け、機械へ向かおうとしている。

 チャンスだ。

 俺は一旦剣を手放すと右手を伸ばし、それを取る。


「……!」


 わずかに意識を向けただけで、その魔導石から凄まじい力が流れ込んでくる。

 そうか。これは……

 あの巨人像の心臓部。そして、造物主が意識を宿していたモノ。そして使徒アルジェダートの“原型”となったモノ。

 おそらくあの巨人像達は、かつて地上に降臨した“巨人”――いや、“巨神か”?――だった存在だ。ティターン、ユミル、ネフィリム、盤古、ダイダラボッチ……そういった伝承の元になったモノたち。


『アキト様……これは?』


 エルリアの“声”。

 俺の左手経由で彼女にまで力が流れ込んだらしい。そして彼女と俺の意識は一時的に“繋がった”。

 流れ込んでくる彼女の“想い”。そして記憶。

 …………。

 だが、今はヤツを倒す事が先決だ。


『この魔導石に秘められた“力”らしい。これなら、いけるかもしれない』

『“力”……ですか? 私の中でも、“何か”……。少し身体が熱くなってきました』


 エルリアからも、膨大な“力”が流れ込んでくる。

 どうやら彼女は、周囲に満ちた魔力を集積することができる様だ。

 しかし……キャパシティを超えた魔力の集中は、肉体に大きな負担をかけることになる。

 そうか。

 レイアルーナをはじめとする姫巫女が短命である原因。

 それは、その“力”故だ。

 姫巫女には、この地に散在する魔力を引きつけ、集める“力”がある。そしてそれは、姫巫女自身の身体へと蓄積されていくのだ。

 しかし、やがて集められた魔力は姫巫女自身の許容量を超えてしまい、次第にその肉体を蝕んでいく。それは、彼女達の宿命であるとも言える。

 が、それを防ぐことが出来る存在がいる。

 それが……“勇者”だ。

 勇者は姫巫女が集めた魔力を受け取り、自らの“力”へと変換することが出来るのだ。

 ……つまり(イルムザール)が、魔王戦役への準備のためとはいえ、レイアルーナの元を長期間離れていたことが、彼女の寿命を縮めることになってしまった訳だ。それ以前に、かつての(イルムザール)自身も、自らの能力を十分に使いこなす出来ていなかった。

 もしこのことにもっと早く気付いていれば、レイアルーナは長生きできたのだろうか?


『気にしないでください、アキト(イルムザール)様……。それでも(レイアルーナ)は幸せでしたから』


 エルリア――いや、彼女の中にいるレイアルーナ――の“声”。やはり、彼女もまた転生していたか。


『え? わ、私、今何を……』


 しかし、我に返って混乱している彼女。

 抱きしめてやりたい。が、今はまだやるべきことがある。


『エルリア。少し我慢してくれ』

『えっ!? は……ハイ』


 彼女は戸惑いながらも肯定の意思を見せてくれた。


『よし……』


 俺は魔導石を左手に持ち変え、彼女の手とともに握る。そして、ゆっくりと俺の体内の“気”を循環させていく。その一部は掌を通してエルリアの身体へと向かわせた。


『な……何です? これは……ああっ!?』


 戸惑いと、かすかに愉悦が混じった思念。

 同時に俺の中にとてつもない“力”が流れ込んでくる。


『スマン、エルリア。もう少しの辛抱だ』

『は……はい』


 もう少しだ。彼女のおかげで、“気”も魔力もフルチャージ出来そうだ。少しずつであるが、傷も癒えていく。

 が、その時、


「ぬぅ……何だ!?」


 ヤツが振り返った。

 ヤバい。この“力”のことを勘付かれたか?

 しかし、その直後。


「グゥッ!?」


 バルドスが呻いた。

 何だ?

 見ると、3方向からの光条がヤツに突き刺さっていた。

 これは、まさか……

 部屋の隅に視線を向ける。

 と、残り三体の巨人像がレーザーを放っていたのだ。

 半ば“氷棺”に埋まった状態ではあるが、それでも氷を砕き、動き出そうとしている。

 呪文の行使から時間が経っているとはいえ、恐るべきパワーだ。


「はははははは……誰だか知らぬが、この程度で我を討てると思ったか」


 直後、ヤツが跳んだ。

 そして一飛びで一体の巨人像に近付くと、動くこともままならない像を抜手で貫く。そして片手でその首を引き千切った。


「フン……人形か」


 そう言い捨てると、その首をもう一体の巨人像へと投げつけた。

 命中。

 氷を半ばまで砕き終えた巨人像は、首の直撃を受けて上半身が半ば砕けてしまう。

 ……巨人像の動きを封じたことが裏目に出たか。だが、今更悔いても仕方あるまい。

 ヤツは氷を砕き終えた最後の一体に向かっていった。

 あの巨人像から感じるのは……“神気”。まさか……


『今のうちに回復を!』


 脳裏に響く“声”。

 先生か!


『エルリア』

『はい!』

「“大癒”!」


 彼女の呪文で、俺の身体の傷が癒される。

 そして先刻の魔導石を彼女に託すと、立ち上がった。


「行くよ。何としてでも、ヤツを倒す」


 俺は剣を握り、走り出した。

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