15
「はははははは」
地に伏した俺達の前で、バルドスは哄笑した。
チクショウ。せめて、一矢報いてやらねば死んでも死に切れん。
「まさか我に手傷を負わす者がいたとはな。褒美に、汝らに世界の最期を見届ける権利をやろう。そしてその最後に、その魂をいただくとしようか。だが、安心するがいい。逃げた造物主は我が地の果てまで追い、喰らってくれよう」
左隣で倒れているエルリアの身体が震えているのがわかる。
俺はそっとその手を握った。
彼女と共に死ぬ、か。それもアリなのだろうか?
いや……ここで終わるわけにはいかない。
どうすればいい?
とにかく考えるんだ。
精神を集中し……
ん? 何か“聞こえ”た。微かな……さざ波のような、風音のような。
『アキト殿』
“それ”とは別の“声”。エヴノのおっさんか。
『少し、右を見てくだされ』
ん? 何か翠色に光るモノが見えるな。
あれは魔導石か。もしかしたら、先刻“聞こえた”音の元は、コレだったのかもしれん。
どっちにせよ、魔力のブースターとして使えそうだ。
『おそらくあれは、先刻の巨人像からこぼれ落ちたモノだと思われます。それも、かなりの“力”を感じますな』
反撃の手段になるかはわからんが、試してみる価値があるか。
それにあの場所なら、手が届きそうだ。
ヤツは俺達に背を向け、機械へ向かおうとしている。
チャンスだ。
俺は一旦剣を手放すと右手を伸ばし、それを取る。
「……!」
わずかに意識を向けただけで、その魔導石から凄まじい力が流れ込んでくる。
そうか。これは……
あの巨人像の心臓部。そして、造物主が意識を宿していたモノ。そして使徒アルジェダートの“原型”となったモノ。
おそらくあの巨人像達は、かつて地上に降臨した“巨人”――いや、“巨神か”?――だった存在だ。ティターン、ユミル、ネフィリム、盤古、ダイダラボッチ……そういった伝承の元になったモノたち。
『アキト様……これは?』
エルリアの“声”。
俺の左手経由で彼女にまで力が流れ込んだらしい。そして彼女と俺の意識は一時的に“繋がった”。
流れ込んでくる彼女の“想い”。そして記憶。
…………。
だが、今はヤツを倒す事が先決だ。
『この魔導石に秘められた“力”らしい。これなら、いけるかもしれない』
『“力”……ですか? 私の中でも、“何か”……。少し身体が熱くなってきました』
エルリアからも、膨大な“力”が流れ込んでくる。
どうやら彼女は、周囲に満ちた魔力を集積することができる様だ。
しかし……キャパシティを超えた魔力の集中は、肉体に大きな負担をかけることになる。
そうか。
レイアルーナをはじめとする姫巫女が短命である原因。
それは、その“力”故だ。
姫巫女には、この地に散在する魔力を引きつけ、集める“力”がある。そしてそれは、姫巫女自身の身体へと蓄積されていくのだ。
しかし、やがて集められた魔力は姫巫女自身の許容量を超えてしまい、次第にその肉体を蝕んでいく。それは、彼女達の宿命であるとも言える。
が、それを防ぐことが出来る存在がいる。
それが……“勇者”だ。
勇者は姫巫女が集めた魔力を受け取り、自らの“力”へと変換することが出来るのだ。
……つまり俺が、魔王戦役への準備のためとはいえ、レイアルーナの元を長期間離れていたことが、彼女の寿命を縮めることになってしまった訳だ。それ以前に、かつての俺自身も、自らの能力を十分に使いこなす出来ていなかった。
もしこのことにもっと早く気付いていれば、レイアルーナは長生きできたのだろうか?
『気にしないでください、アキト様……。それでも私は幸せでしたから』
エルリア――いや、彼女の中にいるレイアルーナ――の“声”。やはり、彼女もまた転生していたか。
『え? わ、私、今何を……』
しかし、我に返って混乱している彼女。
抱きしめてやりたい。が、今はまだやるべきことがある。
『エルリア。少し我慢してくれ』
『えっ!? は……ハイ』
彼女は戸惑いながらも肯定の意思を見せてくれた。
『よし……』
俺は魔導石を左手に持ち変え、彼女の手とともに握る。そして、ゆっくりと俺の体内の“気”を循環させていく。その一部は掌を通してエルリアの身体へと向かわせた。
『な……何です? これは……ああっ!?』
戸惑いと、かすかに愉悦が混じった思念。
同時に俺の中にとてつもない“力”が流れ込んでくる。
『スマン、エルリア。もう少しの辛抱だ』
『は……はい』
もう少しだ。彼女のおかげで、“気”も魔力もフルチャージ出来そうだ。少しずつであるが、傷も癒えていく。
が、その時、
「ぬぅ……何だ!?」
ヤツが振り返った。
ヤバい。この“力”のことを勘付かれたか?
しかし、その直後。
「グゥッ!?」
バルドスが呻いた。
何だ?
見ると、3方向からの光条がヤツに突き刺さっていた。
これは、まさか……
部屋の隅に視線を向ける。
と、残り三体の巨人像がレーザーを放っていたのだ。
半ば“氷棺”に埋まった状態ではあるが、それでも氷を砕き、動き出そうとしている。
呪文の行使から時間が経っているとはいえ、恐るべきパワーだ。
「はははははは……誰だか知らぬが、この程度で我を討てると思ったか」
直後、ヤツが跳んだ。
そして一飛びで一体の巨人像に近付くと、動くこともままならない像を抜手で貫く。そして片手でその首を引き千切った。
「フン……人形か」
そう言い捨てると、その首をもう一体の巨人像へと投げつけた。
命中。
氷を半ばまで砕き終えた巨人像は、首の直撃を受けて上半身が半ば砕けてしまう。
……巨人像の動きを封じたことが裏目に出たか。だが、今更悔いても仕方あるまい。
ヤツは氷を砕き終えた最後の一体に向かっていった。
あの巨人像から感じるのは……“神気”。まさか……
『今のうちに回復を!』
脳裏に響く“声”。
先生か!
『エルリア』
『はい!』
「“大癒”!」
彼女の呪文で、俺の身体の傷が癒される。
そして先刻の魔導石を彼女に託すと、立ち上がった。
「行くよ。何としてでも、ヤツを倒す」
俺は剣を握り、走り出した。




