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13

 爆風が収まり、視界が晴れてくる。

 俺がかけた“障壁”はそれなりの効果は上げたものの、そのエネルギー全てを防御する事は不可能だった。吹き荒れる爆炎は不可視の障壁を突き抜け、俺達を翻弄したのだった。


「みんな……大丈夫か?」


 俺は顔を上げ、周囲を見回す。


「ええ。何とか……」


 ローベルトの返答。

 彼もやや遅れたものの、“防護”を唱えてくれた。そのおかげでかなり被害は軽減されただろう。

 その背後にいたアイーシャも無事だ。

 魔力障壁を張ることができるダニエルや、重装甲のヴェルディーンも無傷のようだ。

 だが……


「アキト様……背中に」

「……ああ。食らっちまった」


 エルリアの震える声。

 俺の背には、巨人像の部品――おそらく装甲かフレームの破片――が突き立っていた。鎧と肩甲骨に遮られたため、幸い深手にはならなかったが……

 エルリアに抜いてもらい、ついでに治癒してもらう。

 ローベルトの呪文が効果を発揮するまでのタイムラグに、俺の“障壁”を突き破ってきたモノだ。

 もし俺がかばうのが遅れていたら、ローベルトの呪文の完成が遅れていたら、と思うとぞっとする。

 それはそうと、道化師と造物主はどうなった?

 彼らのいた方へと視線を向けた。

 煙が晴れ、立ちすくむ何者かのシルエットが現れる。

 あれは……

 道化師か。ボロボロで黒こげにはなってはいるものの、二本の足で立っていた。

 俺達人間などよりはるかに強靭な肉体を持っているであろう使徒ならば、あの爆炎を至近距離で浴びて生きていても不思議じゃないが……

 その足元には、“何か”の残骸が転がっていた。

 巨人像なのだろうが、ほとんど原型をとどめていない。胴体であったであろう大きな塊や、もはや何かも分からない小さな破片がいくつか転がっていた。その中には、何か光るものがある。あれは……魔導石なのだろうか?


「おい、大丈夫……!」


 とりあえず道化師に声をかけようとし、途中で息を飲んだ。

 道化師がわずかに身じろぎしたその時、その顔面から“何か”が剥がれ落ちる。

 それは乾いた音を立て、その足元で割れた。

 あれは……仮面か。

 仮面が外れ、その下に現れた貌。それは……

 白皙の肌。まるで彫刻のような、整った眉目。どことなく、第一使徒アルジェダートと似ている気がする。しかしそれは、その顔の左側のみしか存在しなかった。

 残る右側は、まるで黒曜石で出来た、眉目のない人形のごとき顔。

 いや、そこだけじゃない。

 服が大きく破れ、むき出しとなったその身体もまた、その大部分が黒曜石のごときモノから構成されている様だ。それはあたかも、漆黒のマネキン。


「何だ、ソレは……」

「グ……ウ……」


 かすかな呻き。と、その身体が蠢く。

 肩のあたりが大きく膨らむ。そしてその先端が弾けると、巨大な、牙を持つ口が現れた。


「ケヒャハハハハ……」


 と、その口が嗤った。


「……!」


 狂気を誘う“声”。

 やはり、異形の輩か!


「グゥ……シズマレ!」


 道化師の一喝。


「キ゜イ゛ィ゜ー!」


 それで“口”は動きを止め、縮んで肩の一部に戻った。


「ク……ガ……」


 しかしそこで道化師はふらつき、がくりと膝をつく。


「お……おい……」

 駆け寄ろうとし、足を止める。どうしたものか。


「ヨイ。ワレハ、コレマデ。コヤツラハ ワレガ ミチヅレニスル。カイシャクハ ウヌニ タノム。ワレガ オサエテイルウチニ……」


 道化師は俺を見、残った側の顔で意外なほど穏やかな笑みを見せた。

 しかし、その時、


「!」


 鋭い殺気を感じた。

 どこだ? ……上か!

 視線を上げる。

 と、見上げた先の中空で、銀色に光る棒状の何かが一瞬ギラリと光り……


「逃げ……」


 間に合わなかった。


「ヌゥ!?」


 苦悶の声。

 上空から落下した銀色の棒……それは、螺旋階段の手すりの支柱か? それが、道化師の背中から胸を貫いていた。

 またしても、か。これは偶然か? それとも……


「グハッ!」


 道化師の口から真っ赤な血が噴き出す。生身の顔が青ざめ、死の翳が落ちた。


「お、おい……」


 ダメだ。これは致命傷だ。


「グゥ……アヤツニ シテヤラレタカ。……ムネン、ダ」


 やはり、あの殺気の主は造物主だったか。最後っ屁で道化師にトドメを刺したのか。

 そして、道化師は……


「ヌグッ……ガァァ!」


 絶叫を上げる。

 ヤツの身体が粟立つように蠢く。

 その皮膚は赤熱化し、熱気がこちらにまで押し寄せてくるようだ。

 胸を貫く棒は、その熱に耐え兼ねて溶け落ちてしまう。

 おそらくは金属の棒を溶かす熱量。それは想像するだに恐ろしい。

 そしてゆっくりとヤツの姿が変貌していく。

 その生身の部分はどす黒く変色し、いつしか他の皮膚と見分けがつかなくなっていた。それはあたかも、道化師……いや、第十三使徒の理性が異形の輩によって浸食され、喰らい尽くされていくさまを表しているかの様だ。

 そしてとうとう、最後に残った生身の部分、左の瞳が消失した。


「……!」


 同時に背筋に冷たいものが走る。

 その“気”が変貌したのだ。

 今まで感じた事のない、この世のものならぬ“気”。おそらく、この世界……いや、地球の生命とも相容れぬモノであろう。いかなる魔物であれ、生者の“気”には、温かみの様なモノが感じられた。しかしこいつから感じるのは、底冷えするほどの冷たさだけだ。いや……“虚無”というモノかもしれん。

 そしてその姿はさらなる変貌を遂げる。

 質量保存の法則を無視したかのように、その肉体は一回り……いや、ふた回り以上巨大化していく。

 顔は口吻がやや前に伸び、あたかも肉食獣の様だ。そしてその頭部には、羽冠が逆立つ。その眼はドクロの様に落ち窪み……いや、違うな。アレは複眼だ。眉間には、虹色の輝きを宿す小さな宝石状のモノ。両目が複眼であれば、それは昆虫で言うところの単眼であるのかもしれない。

 滑らかな漆黒の肌が大きく膨らむと、あたかも鎧の様な硬質な素材と化した。

 そしてその手足には、鋭い鉤爪。背中には、四枚の半透明の翅。胸部中央と腰部――丹田のあたり――にも、輝く宝石状のものが現れる。

 本性を現した!?

 いや、違うな。アレは第十三使徒を騙る異形の輩だ。身体は使徒のものであるが、その意思はもはや……


「あれは、確か……」


 イルムザールの記憶の中に、その名があった。

 幼い頃に聞かされた、昔話の怪物。異界より来たりし(くろがね)の蝗皇。確かその名は……


「神魔王バルドス!」

「はははははは」


 ヤツの哄笑が響き渡る。


「我は世界を喰らう鉄のイナゴの化身。確かにその名で呼ばれた事はある。かつて……この地に降り立った時にな」

「やはり!」


 ……そうか、ヤツは。

 あれは、高次元より来りし異形。

 次元を渡り、生命体の命を喰らう……。

 それは、俺達とは決して相容れぬ存在。

 造物主の使徒に破れ、異界へと封じられた第十三使徒は、その凄まじい怒りと狂気により、異界の“もの”を呼び込んでしまった。

 呼び込まれた“それ”は、この世界や地球の生命体とは全く異なる存在であった。

 “それ”は第十三使徒の意識を侵食し、やがて造物主ですら手出し出来ぬ怪物へと変貌を遂げさせてしまったのか。

 地球やこの世界の“外”にある時空の深淵には、人知の及ばぬ“何か”が潜んでいるのだろう。

 それはおそらく、あの造物主など足元にも及ばぬ、強大な力を持つ者達。そんな奴らがこの世界へ侵攻したらと思うと、ゾッとする。

 いや……今は、目の前のこいつを倒さねば。


「あの時はアルジェダートによってこの世界から放逐された。しかし、より大いなる“力”を得、この地に戻ってきたのだ。そして今度は彼奴もいない。もはや我を妨げるものは無い」


 ヤツは俺達を睥睨し、口吻の端を歪めた。

 おそらく嗤ったのだろう。


「……!」


 戦うしか、ない。こんな魔神相手ではほとんど勝ち目がないだろうが。

 横目でエルリア達の顔を見る。

 彼らの表情には、悲壮な覚悟が見て取れた。

 流石は姫巫女。そして勇者と共に戦った男と、彼が選んだ部下。そして、前世での我が最大のライバル。


「行くぞ」


 俺は剣を握りしめ、地を蹴った。

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