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 倒れ臥す巨人像。

 土ぼこりが舞い上がる。

 終わった……のか? そういえばあの攻撃は、今朝の夢で見た……


「ヤな事思い出したなぁ……」


 ダニエルのぼやく声。やはり、ヴォルザニエスに致命傷を与えた攻撃か。確か、その使い手は……


「キョキョ……」


 聞き覚えのある笑い声に振り返ると、道化師がよろめきつつも身を起こしていた。


「カラクリガ ワカレバ タオスノハ ゾウサナイ。モットモ アノヒカリニハ クルシメラレタガナ……」


 その身はボロボロで穴だらけではあるが、どうやらまだ死んではいなかったようだ。

 ……もっとも、定命の存在である俺達と、使徒であった彼らとでは死の概念が違うのかもしれんが。

 ま、一度死んで転生してる俺が言うのもなんだがな……。


「コイツは好きにしてくれ。この世界に手を出さなければ、俺達はあんたと敵対する理由はない」

「ソウダナ。フクシュウサエ ハタスコトガ デキレバ ソレデイイ」


 ヤツの声には安堵と歓喜、そして一抹の寂しさがある気がした。

 俺はヤツに今一度視線を向ける。


「……!」


 道化師の仮面が割れ、剥げかけていた。その仮面の隙間からかすかに覗くのは、漆黒の闇。斬り裂かれ、穴の開いた服の隙間も同様だ。

 ヤツの肉体は既に滅び、執念だけで動いているのだろうか?

 背筋に冷たいものが走った。


「とりあえず、他のも動きを封じてある。が、早いうちに決着をつけた方が良さそうだな」


 ヤツにそう言葉をかけてみる。

 この部屋にある他の巨人像は、念のために突撃をかける直前にアイーシャが“氷棺”で動けなくしてある。対象の周囲を氷で固め、動きを封じる呪文だ。無論、巨人像のパワー次第では打ち破られてしまうだろうが、それでもその間に対処は可能だろう。

 もし、他の部屋にも巨人像みたいなモノが用意してあり、そいつらが乱入してきた場合はどうしようもないが……。


「とりあえず、どこまで有効かは分かりませんが……“封魂”」


 エルリアが進み出る。彼女が印を結ぶとその指先から光があふれ、巨人像の胸部切断面の中へと流れ込んでいく。

 彼女のかけた魔法は、魂を何かに封ずるための呪文だ。手に負えない邪霊などを封印したりするときなどに使われる。相当高位の呪文のはずだが……


『お……の……れ……』


 怨嗟の声。

 どうやら効果があった様だ。というか、やはりコレは遠隔操作じゃなかったのか。

 ともあれ、造物主の“本体”はこの中に封じ込められた訳だ。

 と、その時アイーシャのバックパックの中で、預けておいたスマホが鳴った。

 あれ? 先生か。にしても、こんな時に……。いや、こんな時だからか?


「あの……アキト様? 何やらこの板から変な音が聞こえるんですけど」

「ああ、すまない。ちょっと取ってくれないかん?」

「はい……」


 アイーシャからスマホを受け取る。

 ……指先でつままれてる件。まぁ、魔力もなしに音がなったりするとか、不気味に思えるのかも知れんけどさ。


「はい、渡です」

『あの方の拘束に成功したようね。あの子に“力”を託しておいたけれど……』


 やはり、先生のバックアップのおかげか。


「ええ。何とか上手くいった様です」

『こちらも、この世界のコントロールを掌握する事に成功したわ』

「え゛!? ……そうなんですか?」


 コントロール、ね。やはりどこかに制御中枢みたいなモノがあったワケだ。おそらく先生は、俺達が造物主と対峙しているうちに、そこを抑えることに成功したのだろう。


『そうよ。この世界と造物主とのリンクを遮断する事が出来たの。これで、あの方がいなくなってもこの世界は安泰よ。こちらはもう少し作業を続けるわ。そちらはお願いね。後で説明するから』

 ふむ。巨人像のパワーダウンもそのせいか。


「了解です」

『本当は、私もそちらに行きたいんだけど……造物主に直接接触してしまうと、強制的に服従されてしまうかもしれないの』


 なるほどな。使徒を造る際、造反を恐れて強制的に服属させる“因子”を仕込んでいたわけだ。多分、異界人と接触したりしたことで“洗脳”は解けたけど、まだその“因子”は健在の可能性がある、と。

 まるで特撮とかの、悪の組織の首領みたいなことやってやがる。もしかしたら、第十三使徒による反逆の教訓かもしれんか。

 ともあれ、ここで先生に敵に回られたりしたらかなわんしな。


「分かりました。後は任せてください」

『お願いね』


 そこで電話は切れた。

 そして、倒れた巨人像に視線を向ける。


「聞いたかい? アンタはこの世界から切り離されたそうだ。もうこれでお終いだぜ。覚悟は決めたか?」

『おのれ……裏切り者が』


 歯ぎしりするかのような、“声”。


「アンタが先に追放したんだろ? 『地に堕ち穢れた』みたいな事言ってさ」

『ぐぅ……。しかし運命律から外れた使徒は、この地に害を為す。こ奴のようにな。それが故の、苦渋の策だ』

「いや、今一番害をなしてるのはアンタじゃないか? 大体、地球まで巻き込もうとしやがって……」

『あの地は我が第二の故郷。故に、手をつけずにおきたかったが、こうなっては致し方あるまい』


 第二の故郷、か。だとすれば、本来の出身地は何処だ?

 いや、今はそれを聞いてる場合じゃないな。多分、コイツに時間を与えちゃいけない。


「今アンタが覚悟を決めてくれりゃ、地球もこの世界も安泰なワケだが」

『我に死ねと申すか』

「う〜ん……アンタのしたコトに納得しない人が沢山いるようだしねぇ」


 恋人を自らの手で殺す羽目になったローベルト。自らを化け物に改造されたエヴノ。そしてその叔父と剣を交える羽目になったエルリア。この場にいる者達以外にも、造物主が定めた“運命”に翻弄された人々は沢山いる。


『き……貴様はそれでいいのか? 貴様がこの世界に留まれば、いずれ……』

「いや、俺は別に」


 ヤツの話を遮る。どうせこちらに揺さぶりをかけるつもりなのだろう。気にならない、といえばウソになるがな。


「俺がどうなろうとアンタにゃ関係ないだろ? 殺そうとしたんだしさ」

『むぅ……』


 黙り込む造物主。

 もういいだろう。俺はチラと道化師を見る。


「サア……キサマノ ツミヲ ツグナウガイイ」


 一つうなずくと、道化師は巨人像に近付き……


「ヌグッ!?」


 突然頽れた。


「おい、どうし……!」


 その時、仮面の隙間からは一瞬“何か”が飛び出したように見えた。そして溢れる虹色の光……いや、闇か。


「ヌ……グ……マダ……ワレハ……」


 道化師のうめき声。まるで己の内から“何か”が出てくるのを押さえ込んでいる様な……


『そう……か。貴様は、異形の輩の“力”を借りて……』


 造物主の声。


「異形の輩だと!?」

『地球……そしてこの“フネ”が存在する空間の更に外側、時空連続体を超えた場所に、“それ”はいる。『無名の混沌』と呼ばれるモノ。ソヤツの身体に巣食っているのは、その(しもべ)共だ。クク……愉快だ。我を倒す為に混沌の虜囚となり果てるとはな。混沌と対峙すべく創り出し、そして混沌を最も憎んでいたはずの貴様がな』


 造物主の嘲笑。

 そういえば“フネ”とか言ってたな。聞きたいところだが、話の腰を折る訳にもいかん。


「ダ……マレ。コノ……テイド、オサエコンデ クレル」


 道化師の右手に魔力が収束していく。そして、それを仮面の隙間に当てた。


『キ゜キ゜キ゜……』


 この世のものならぬ“声”が、脳裏に響く。

 異形の輩とやらのものなのか?

 脳が締め付けられるような、声なき声。精神を切り刻まれ、狂気の淵に誘われるようだ。

 見ると、ローベルトやダニエル達も影響を受けているようだ。苦痛や恐怖がその顔に見て取れる。


『フン……その程度で押さえこめるモノではあるまい? 今の貴様の身体ではな』


 造物主の嘲笑。

 道化師の身体は深手を負っている上に、魔力も相当消耗しているようだ。このままでは、ヤツの身体から異形の輩とやらが溢れ出てくるであろう。


「何とかする方法は……」

『簡単な事だ。今この場でソヤツを屠れば良い。異界への門は消滅するはずだ』

「信じられるかよ! 門が広がる可能性だってあるだろ!」


 おっと、コイツに反応しちゃイカンな。


「ヨイ。コヤツラハ ワレガ セキニンヲモッテ ミチヅレトシヨウ」


 道化師姿の男の声は、意外なほど穏やかだった。


「アキト、トイッタカ。ソレトモ、いるむざーるト イウベキカ?」

「……ああ。この際、どっちでもいいさ」

「コヤツヲ ホフルノハ ワレノヤクメ。キサマラノ チカラハ カリヌ」

「え? おい……」

「ダガ……モシ シクジッタバアイ、ワレノ フシマツヲ キサマニ タノミタイ」

「……わかった」


 造物主と刺し違えようというのか。


『貴様!』


 焦りの色がうかがえる、造物主の声。

 どうやら今この身体を攻撃されるのは、やはりまずいらしい。


「カンシャスル。デハ……」


 道化師は右腕を突き出す。と、その手袋に包まれた指先から、鋭い刃物状のものが伸びた。あれは爪か? そして今度は指自体が手袋を引き裂きながら伸長していく。やがてそれらは一体化し、鋭い刃となった。


「ユクゾ!」


 そして、跳躍。

 道化師はあたかも宙を蹴るようにして方向転換し、巨人像に飛びかかる。そして胸の中央に刃となった右腕を突き立て……

 その時、俺の背に冷たいものが走った。

 ん? 何だ? 巨人像の内部に“力”の動きを感じた。“力”は収斂され、急激にその密度を上げていく。それは爆発寸前のマグマを思わせる。

 どういう事だ? これほどまでに“力”を高めた先にあるのは……


「いかん! 防御を……アレは、自爆だ!!」


 俺は叫びざまに結印し、“障壁”の呪文を発動させた。そしてエルリアをかばう。

 その直後、凄まじい轟音が響き渡り、爆風が俺達を襲った。

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