7
――大神殿地下
薄明かりの中、揺らめく空間の彼方からいくつかの影が姿を表す。
人型の影が、三つ……いや四つだ。
鎧に身を包んだ戦士が二人。魔術師らしいのが一人。そして、身軽そうな身なりの剣士っぽいのが一人。
俺は、彼らの動作を眺める。
……なるほど。このレベルか。
「俺が行きます」
そう言って、ローベルトとダニエルの間に進み出る。
リハビリだ。ヤツと戦うまでには前世のカンを取り戻しておきたい。この程度の相手なら、今の俺でも十分戦える。
「僕も行くよ。この身体に慣れないといけないからね」
「わかった。……やるか」
「ああ」
ダニエルも、くるか。
おそらくは、俺と同じ意図だな。
俺たちは、一瞬視線を交わすと敵と相対する。
「ひとまずは、お任せします」
ローベルトの声。
それにうなずき、剣の柄に手をかけた。
「よし」
そして俺が剣を抜くと、それを合図にしたように敵が踏み込んでくる。
真っ先に俺に突進して来たのは、斧を振りかざす戦士。
すかさず左に飛び、その攻撃をかわしざまに横薙ぎの一閃で脇腹を斬り裂く。そして返す刀で右上腕に一撃。
しかし相手は痛みを感じた素振りもなく、また斧を振りかぶる。
「チッ!」
思ったより浅かったか。だが普通ならば戦闘力は大幅に奪える一撃だ。厄介な相手だな。
ならば……
ヤツの一撃に合わせて飛び退くと、振り下ろした斧の柄に一撃。その刃を斬り落とした。
しかし相手はただの棒切れになった柄で殴りかかってくる。
が、そこまでだ。
腕に一撃。刃は鎧を切り裂いて骨に達し、筋と血管を切り裂く。更に剣を返して喉元へ。狙うは気管と頸動脈。
刃は喉あての下に滑り込んだ。手応えあり。
「ゴフッ……」
呻き声を上げ、戦士は倒れた。
ふと隣を見ると、ダニエルが手刀の一撃で敵を貫いたところだった。
ふむ。アイツもやるねぇ。
……おっと!
と、その時鋭い殺気を感じた。反射的に剣を振り、飛来するナイフを叩き落とす。
それを投げたのは、軽戦士だ。
いや……実態はアサシン。あるいはニンジャの類か。
そいつは倒れた戦士を飛び越え、俺に斬りかかってくる。
が、一足遅かったな。
半歩下がりつつ左手から指弾を放つ。
……命中。
敵は鼻血を流し、もんどりうって倒れた。
しかしすぐに跳ね起き、脚を狙ってくる。
それは剣でガード。お見通しだ。俺も使った手だしな。
すぐさまヤツの剣を蹴り飛ばすと、間髪入れずに心臓目掛けて剣を突き立てた。
イヤな感触だ。
それでもなおナイフを抜き、斬り付けようとしてくるが、それも蹴り飛ばす。
たいした根性だ。
……いや、こいつらは戦闘マシーンだな。
さらに剣を抉りこむと、ヤツは傷口と口から大量の血を吹き、幾度かの痙攣ののちに息絶えた。
「こっちは片付いたぜ」
剣を引き抜き、血糊を払う。
「僕もだ」
ダニエルは、俺より先に魔術師を片付けていたらしい。引き裂かれた屍がその足元に転がっている。
「とりあえず、終わったな」
俺は地面に転がる四つの屍を見、つぶやいた。
見る間に彼らはその肉体を次第に崩していく。そして最後に残ったのは、四つの塩の山であった……。
迷宮に潜むモンスターには、大きく二つの種類に分類される。
外部から侵入し、ねぐらにしてしまった山賊やオーク、ゴブリンのような連中。そして、迷宮の創造者がガーディアンとして配置した者達だ。
今戦った連中は、後者。
しかも、人造生命体だ。寝ずの番人として創造された存在である。ある意味この迷宮の一部と言っても良い。
この迷宮の中に侵入してくる敵に反応し、転移して現れるのだ。そして倒されると、こうして塩の山に戻ってしまう。そして新たな侵入者が現れると再び肉体を再構築し、戦いを挑むのだ。だから、いくら倒しても数は減らない。
ま、本物の人間でない分、戦いやすいがな。
「お見事です。我らが手を出すまでもありませんでしたね」
ローベルト達が歩み寄ってくる。
「まだまだですよ。まだ微妙に身体の反応が遅れます」
俺は肩をすくめて見せた。
前世と今世の身体の感覚が混在しているせいか、何かもどかしい。今の肉体が、前世の技を使うレベルに達していないのだろう。……若いせいか、体力だけはアホみたいにあるけど。
それでも、“練気”による身体強化を使えば、一時的にせよその溝は埋められるはずだ。
ともあれ……ここでの初戦は上々といった所だろう。
一つ肩の荷が下りた。
そんな俺を、ヴェルディーンとアイーシャは無言で眺めている。
彼らの目には、今の俺の戦いはどんな風に映っただろうか。
失望されてなければありがたいんだがな。
そんなことよりも……さあ、先を急ごう。




