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――そして、決戦の時
「こちらです」
ローベルトの案内で、俺達一行は大神殿の裏にある小さな祠へと向かった。
大神殿の御神体である霊峰エルバスの山麓に、半ば埋もれるようにして佇む、石造りの祠である。
この奥に地下迷宮へと続く階段があるのだ。
歩くこと十分ほど。
巨大な二本の柱が目の前に立ちふさがった。
これは、神域と俗界を隔てる門。この先は千年ごとの魔王戦役の時をのぞいて、誰も立ち入ることが許されない。
今俺達が入るのは、例外中の例外なのだ。
その手前には鉄柵と扉、そして詰所があり、数人の兵士の姿が見える。
何か鉄条網と検問みたいで風情がないな。昔はこんなモノなかったはずだけど。
門の前にたどり着いた俺たちの前に、数人の兵士がやってくる。
その動作を見るに、かなり訓練された兵士であるようだ。
「ご苦労。これより我々は地下迷宮へと向かう」
「ハッ! これより封印を解きます」
ローベルトに敬礼すると、隊長と思しき兵士は扉へと向かった。そして何やら呪文を唱えつつ鍵を回す。
と、軋む音を立てて扉が開いた。
「どうぞ。お通り下さい」
「ウム。……さあ、行きましょう」
ローベルトに促され、俺たちは扉をくぐった。
「御武運を」
見送る隊長の声。
彼らに礼を言い、俺達は柱へと向かった。
そして、柱の前。
俺はローベルトに続いてその間をくぐる。
「……!」
空気が変わった。
“神気”ともいうべき清冽で厳かな雰囲気に包まれた。
「これは……」
「アゼリア様が張った結界です。かつては魔王戦役の時をのぞいて、誰も迷宮に近付くことが出来ず、また迷宮内の魔物も出ることができない厳重なものだったと聞いております」
ローベルトの言。
そういう仕様になっている訳か。魔王戦役の時以外は完全に地上と魔界を分断している、と。
「ですが、今はそれも弱まり、こうして近付くことができるのです。なので、ああして祠の周囲を囲んだうえで、警備の兵士を置いているのです」
「なるほどね……」
後ろを振り返る。
隊長をはじめとする数人の兵士が直立不動の姿勢で俺達を見送っている。
と、隊長の隣に立つ一人の若い兵士に視線が止まった。
そういえばさっき、ちらちらと俺の方を見ていたな。
歳は俺と同じぐらいか?
鳶色の髪、琥珀色の瞳。彫りの深い、端正の顔立ちの少年だ。
ん? あの兵士、誰かに似ているような……。
前世、この神殿で出会った誰かの血縁かな?
『……あれは私の息子ですな。十年ぶりでしょうか。元気そうで何よりです』
エヴノの声。
そういえば、若き日の彼とよく似ているな。髪と瞳の色こそやや異なるが。
「それなら一度、きちんと会っておいた方がよかったんじゃないか?」
『いいんですよ。私は野垂れ死んだとでも思ってもらっておいた方が。昔、色々やらかしましたからねぇ……』
「そ、そうなのか……」
ま、その辺のことは戻ってからだな。親子が断絶したままってのは良くないだろう。
一つ肩をすくめると、再び前を見る。
祠は目の前だ。
その奥に、この小さな祠には似つかわしくない頑丈そうな石の扉がある。
「少し待ってください」
ローベルトは祠の奥へと向かい、扉に手をかける。そして呪文らしき言葉を呟いた。
しばしのち、重々しい音を立てて石の扉が自動的に開いた。
「さあ、ここから先は地下迷宮です。引き返すなら今のうちですよ」
ローベルトはニヤリと笑って俺を見た。
「ここまできたら、進むのみですよ。行きましょう」
「そうですな。では」
俺達は地下へと向かう階段を降りていた。
――地下一階
白いブロック状の石――あるいはタイル?――の壁が、奥へと続いている。
天井や床も似たような材質だ。それらが隙間なく敷き詰められている。
この手の地下建造物につきものの水の染み出しは見たらない。相当高度な建築技術で作られているのだろう。
行く先の壁の上部に、かすかな灯りがともる壁付けの燭台のようなものが、所々に付けられている。
その燭台の、本来ならばロウソクが付けられている場所にあるのは、透明な球体だ。
それが仄かに光ることで、通路を照らしている。
確かこれは、古代帝国時代の産物。周囲に存在する魔力を吸収し、発光するものらしい。
ローベルトによると、魔王戦役の時はもっと明るく光っていたとのことだ。おそらくはこの迷宮には多くのモンスターが徘徊し、多量の魔力を放っていたからだろう。
しかし現在では魔物たちは地下世界に引き上げてしまったために、この迷宮に漂う魔力も薄くなってしまったのかもしれない。
何というか……祭りの後、という雰囲気か?
ちょっと物悲しくもある。
ま、俺やダニエルはそのフィナーレに参加し損ねた訳だがな……。
通路に足音が反響する。
俺達はローベルトとダニエルを先頭に、慎重に歩を進めていく。
この二人が先頭なのは、この迷宮に潜った経験があるからだ。俺もゲーム上では数え切れないほど潜っているが、そんなもの実際の経験に比べたら百分の一程度の価値もなかろう。
「そろそろですよ」
ローベルトが囁く。
この辺りから迷宮に潜む怪物どもが現れるのだ。
俺はうなずくと、剣に手をかけて臨戦態勢をとる。
そして、そこから数歩進んだところで……
「来る!」
ゆらり、と空間が歪んだ。




