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 ミーティングに集まったメンバーが、部屋を退出して行く。

 彼らが出て行ったのを見送ると、俺はローベルトに向き直った。


「そういえば、アレオスとヴァレンティーナは今何をやっているんですか?」


 勇者の仲間である二人の行方は気になるところだ。ま、弟子を育てているところからして、おそらくはまだ元気なのだろうが……


「アレオスはリーマスで、新たな王の元で近衛隊長を務めているようです。それにくわえて闘技場の運営も任されており、剣闘士の養成を行っているそうですな。先刻のヴェルデイーンはその一人です」


 なるほど。リーマスの新王は奴隷から身を起こした人物だと聞いたが、あのアレオスが忠誠を捧げるに足る人物ということか。一度会ってみたいとは思うが……難しいだろうな。


「ヴァレンティーナは相変わらず神出鬼没ですな。まぁ、おそらく元気でやってるのでしょう」


 彼女は俺がイルムザールだった頃の知己だ。幾度か共に旅したこともある。

 とはいえ、別に変な関係にはなっていないはずだがな……多分。そう、多分……。

 ちなみに彼女は、初めて逢った頃から成人女性の姿であったが、勇者ヴァルスと旅した時もほぼ同じ姿であったそうな。そして数年前、アイーシャを連れてこの地に現れた時もまた、同じ姿だったらしい。いったい何歳なのかはか、今知るものはいない……。

 たとえ直接会う機会があったとしても、年を尋ねるのはやめといた方がいいな。

 ……そうだ。

 今までずっと聞きあぐねてきた事だが、あの子たちの行く末は聞かねばなるまい。


「勇者ヴァルスと姫巫女エルマーヤはどうなったんですか?」

「……」


 そう問うてみる。

 と、ローベルトは一瞬言葉に詰まったようだ。


「……ヴァルスはエレーネ姫と共に旅立ち、それ以来公式の場には姿を現していません。エルマーヤ様は……終戦の混乱で、行方知れずのままです」

「そう、ですか……」


 長男ヴァルスの行方についてはある程度覚悟はしていた。しかし、エルマーヤまで行方知れずとはな。庇護者である魔王を失ってしまったら、あの子はもう……

 重ねて問うてみたが、現状それ以上の情報は得られなかった。

 とはいえ、今俺がくよくよしていても仕方がない。あの魔物がこの世界を破壊するのを止めねばならない。


「ありがとうございます。ともあれ今は……ヤツを倒すことだけを考えることにします」


 礼を言い、ローベルトの部屋を退出する。

 しばらく神殿内を散策し、心を落ち着かせよう。



――大広間

 ここは参拝客が司祭たちの説法を聴聞する場所、いわば本堂だ。

 天蓋は中央部がカマボコ状に高くなっており、それを太い円柱が支えている。そして天井部や壁にはいくつもの肖像画が描かれていた。

 それらを何気なく眺めていると、その壁の一角に目が止まる。

 壁には肖像画がずらりと並べて掛けられている。

 ああ、そうだ。これは歴代の大司祭や姫巫女、そして勇者たちの肖像だ。

 順に眺めていくと、よく知る顔が目に入った。

 かつての俺、勇者イルムザールの肖像だ。

 二十代後半から三十代前半の、剣士として一番脂の乗った時期だろう。中背で引き締まった体躯。鋭い相貌。……少々美化されてるがな。とはいえ確かにローベルトの言うとおり、今の俺と似てはいる。もう少し彫りを深くして、あと十年ほどたったらこんな顔になるのだろう。

 う〜む……俺がイルムザールの転生であることには疑念がないが、正直言って実感もない。なんというか、イルムザール当時の記憶に、まだあまり現実感がないからだ。「前世の記憶」というデータを俺の記憶の一番古い部分に後から書き込まれたような、そんな感覚もある。

 もし今の俺とイルムザールの霊体の一体化が進めば違ってくるのだろうか? そしてその時俺はいったいどうなってしまうのか……

 ま、それはともかく、次だ。

 隣に目を移すと、姫巫女レイアルーナの肖像画が飾られていた。

 レイアルーナ。かつての俺の、妻であった人。栗色の長い髪。慈愛に満ちた瞳。その美しい顔立ちは、エルリアにも似ている。

 それも当然か。レイアルーナはエルリアの大叔母に当たる。……いや、それだけではないな。その気質もどことなく……

 それは今置いておこう。次。

 さらに隣は、勇者ヴァルスラーナの肖像画だ。

 イルムザールに似ているが、ややあどけなさを残した顔立ちだ。ま、今は三十代のおっさんだろうがな。

 そしてその隣には、姫巫女エルマーヤ。

 艶やかな黒髪の少女。当時、歴代最高の力を持つと言われた姫巫女。しかし……

 ……

 いや、やめよう。

 俺は一つ頭を振り、広間を後にした。



 俺は再び執務室のある本殿へと戻った。

 そして一つの部屋へと足を向ける。


「ん?」


 何やら騒がしい。数人の侍女が慌ただしく行き来している。


「一体何があったんです?」


 とりあえず年長の侍女に声をかけてみた。


「今は忙しいので……い、イルムザール様!?」


 三十代後半とみられる女性は、一旦は俺を適当にあしらおうとしたものの、俺の顔を見るや否や態度を変えた。

 『イルムザール』か……ま、いいや。

 そういえばその顔に見覚えがあるような気もする、が……。


「こ……こちらへ! エルリアーナ様が……」

「え? 一体何が……」


 侍女は俺の手を引き、一つの部屋へと俺を連れ込んだ。

 そこは、俺の目的地。

 エルリアの部屋だ。


「エルリアーナ様がお目覚めになられ、イルムザール様を連れてくるようにと……」


 目覚めたのか。それにしても、“イルムザール”か。

 何か、ある。

 俺は恐る恐る扉を開いた。



 そして、その部屋の中。

 ベッドの上では起き上がったエルリアが、微かな笑みを浮かべて俺を見ていた。

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