表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/113

5

「何だ? ……うおっ⁉︎」

「跳ね返しただと!? ……ぐあぁっ⁉︎」

「馬鹿な⁉︎」


 俺の身体から振り払われた稲妻は騎士達に襲いかかり、なぎ払いっていく。鎧を着ていようがおかまいなしだ。

 男たちは全身を硬直させ、次々に倒れていく。死んで……ないよな?

 そして……最後に残ったのは、女騎士とリーダーだけだった。レベルが高い二人が呪文をレシストし、生き残ったというところか?

 それにしても……何か余計に威力が増してる気がする。もしかしたら、威力を増幅して跳ね返したのか? よくわからんが……

 思わず呆然と両の掌を見つめる。


「まさか……」


 一方、女騎士もまた呆然と俺を見つめていた。

 “神雷”は確か、ゲーム内だと中級レベルの神性魔法だったはず。必殺の一撃をはね返されたのだ。当然のことかもしれない。

 それにしても……この“力”。

 今まで感じたことのない、圧倒的な“力”。そして、何かが“つながった”ような感覚。


「そうか、俺は……」


 俺はかつて、この“世界”に“在った”。

 精神の奥底。

 今生の最古の記憶の更に“下”に刻まれた、原初の思い出。

 微かに意識の下層から浮かび上がった“それ”が、俺をあのゲームにはまり込ませたのだ。

 そして十数年の時を経て、俺はこの地に舞い戻ってきたのだ。

 思わず感慨に耽る。

 が、


「……っ!」


 急激な疲労感を覚え、がくりと膝を折る。

 慣れない“力”を使ったせいか。このままではマズい。もう一撃には耐えられないだろう。

 折角“戻って”きたのに、また死ぬのか……

 しかし女騎士はうろたえるのみ。

 業を煮やしたのか、リーダーが前に出る。そして、


「何をしている、この未熟者が!」

「あうっ⁉︎」


 荒々しく女騎士を突き飛ばした。

 彼女はたまらず床上に倒れこむ。


「うっ……申し訳ありません」


 よろよろと身を起こし、弱々しくわびる女騎士。


「いくら何でもその扱いはないだろうに……」


 その有様に、思わず口を挟んでしまう。

 と、リーダーが苦々しい顔で一瞬俺を睨んだ。


「ふん……目覚める前に殺しておけば、面倒な事にならなかったものを。一丁前に情けなどかけおって」


 リーダーは彼女を見下ろし、なじる。

 そうか、彼女のおかげで助かったようなものか。

 ……というか、いつの間にか俺も、彼らの言葉が分かるようになってるな。やはり“つながった”せいか。

 などと言ってる余裕はないな。リーダーが両手で印を結んだ。


「今度こそ、髪一筋もこの世に残す事なく消し去ってくれよう」

「! ……それは」


 その掌にこもるのは、先刻の女騎士とは比較にならぬほどの強大な“力”。

 そして、


「喰らえ! ……“神罰”!」


 “力ある言葉”が解き放たれた。


「!」


 上空からまばゆい光の柱が遺跡に降り注いだ。

 すさまじいばかりの“力”の奔流。そして、衝撃。

 俺はその光に撃たれ……

 これで、終わりか。もうダメなのか?

 肌を灼くまばゆい光の中、歯噛みする。

 少しでも足掻こうと、また“力”を励起し、光を防御する。が、やはり先刻に比べて弱い。そして、おそらくはすぐに底をつく。

 これ、は……ダメ、か。

 半ば観念し、俺は最期の時を待つ。

 と、その時、


「……“神撃”!」


 どこからかそんな声が聞こえたような気がした。

 聞いた事のある声。一体誰だ?

 思い出せん。もしかして、いまわの際に聞こえた幻聴か?

 まぁ、どちらでもいいさ。俺はもうすぐ……

 …………。

 ……あれ?

 どういうことだ?

 気がつけば、光の柱は次第に弱まっている様だ。

 もしかして、もう終わり?

 “神罰”を喰らった、はずだよな? まさか、気がつかないうちに死んで、魂だけに?

 いや……。

 己の掌を見る。

 寸分たがわぬ、俺の手だ。透けてもいない、実体の。

 これは間違いなく現実だ。俺はまだ生きている。

 どういう事だ?

 高位レベルの呪文をそう簡単にレジストできるわけがない上に、途中であの“力”はほとんど尽きてしまっていた。

 つまり、ほぼ無防備なまま“神罰”の一撃を受けていたはずだが、なぜ無事なんだ?

 わけがわからない。

 そういえば、光につつまれる直前に何か声を聞いた気がする。

 あれは一体なんだったんだろう?



――しばし後

 光の柱は儚げな燐光を残して消えて行った。

 そして、視界が晴れあがる。


「一体どうなった……」


 何が起きたのかは分からないが、とりあえず周囲を見回し……


「……ん?」


 目の前に、あのリーダー格の男が倒れている。

 気絶しているらしく、ピクリとも動かない。

 何があった? まさか、呪文ミスって自爆でもしたのか? それともMP不足?

 ふと隣に目をやると、怯えた表情の女騎士がへたり込んでいた。その瞳は、どこかを見つめ……

 上? なんだ?

 顔を上げると、上空から光の玉が降りてくるのが見えた。

 それは倒れたままのリーダーの隣へと降下した。

 そして光が弾け、誰かがあらわれる。

 艶やかな黒髪の美女。見覚えのある人物だ。


「さ……咲川先生⁉︎」

「アゼル様⁉︎」


 俺と女騎士が、同時に叫ぶ。

 だが、妙だ。

 彼女には間違いない。が、服装は昨晩(?)見たものと違う、ゆるやかな白い衣――トーガってのに似てる気がする――を着けていた。そしてなにより、そのまとう雰囲気と“力”は、まさに女神であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ