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「何だ? ……うおっ⁉︎」
「跳ね返しただと!? ……ぐあぁっ⁉︎」
「馬鹿な⁉︎」
俺の身体から振り払われた稲妻は騎士達に襲いかかり、なぎ払いっていく。鎧を着ていようがおかまいなしだ。
男たちは全身を硬直させ、次々に倒れていく。死んで……ないよな?
そして……最後に残ったのは、女騎士とリーダーだけだった。レベルが高い二人が呪文をレシストし、生き残ったというところか?
それにしても……何か余計に威力が増してる気がする。もしかしたら、威力を増幅して跳ね返したのか? よくわからんが……
思わず呆然と両の掌を見つめる。
「まさか……」
一方、女騎士もまた呆然と俺を見つめていた。
“神雷”は確か、ゲーム内だと中級レベルの神性魔法だったはず。必殺の一撃をはね返されたのだ。当然のことかもしれない。
それにしても……この“力”。
今まで感じたことのない、圧倒的な“力”。そして、何かが“つながった”ような感覚。
「そうか、俺は……」
俺はかつて、この“世界”に“在った”。
精神の奥底。
今生の最古の記憶の更に“下”に刻まれた、原初の思い出。
微かに意識の下層から浮かび上がった“それ”が、俺をあのゲームにはまり込ませたのだ。
そして十数年の時を経て、俺はこの地に舞い戻ってきたのだ。
思わず感慨に耽る。
が、
「……っ!」
急激な疲労感を覚え、がくりと膝を折る。
慣れない“力”を使ったせいか。このままではマズい。もう一撃には耐えられないだろう。
折角“戻って”きたのに、また死ぬのか……
しかし女騎士はうろたえるのみ。
業を煮やしたのか、リーダーが前に出る。そして、
「何をしている、この未熟者が!」
「あうっ⁉︎」
荒々しく女騎士を突き飛ばした。
彼女はたまらず床上に倒れこむ。
「うっ……申し訳ありません」
よろよろと身を起こし、弱々しくわびる女騎士。
「いくら何でもその扱いはないだろうに……」
その有様に、思わず口を挟んでしまう。
と、リーダーが苦々しい顔で一瞬俺を睨んだ。
「ふん……目覚める前に殺しておけば、面倒な事にならなかったものを。一丁前に情けなどかけおって」
リーダーは彼女を見下ろし、なじる。
そうか、彼女のおかげで助かったようなものか。
……というか、いつの間にか俺も、彼らの言葉が分かるようになってるな。やはり“つながった”せいか。
などと言ってる余裕はないな。リーダーが両手で印を結んだ。
「今度こそ、髪一筋もこの世に残す事なく消し去ってくれよう」
「! ……それは」
その掌にこもるのは、先刻の女騎士とは比較にならぬほどの強大な“力”。
そして、
「喰らえ! ……“神罰”!」
“力ある言葉”が解き放たれた。
「!」
上空からまばゆい光の柱が遺跡に降り注いだ。
すさまじいばかりの“力”の奔流。そして、衝撃。
俺はその光に撃たれ……
これで、終わりか。もうダメなのか?
肌を灼くまばゆい光の中、歯噛みする。
少しでも足掻こうと、また“力”を励起し、光を防御する。が、やはり先刻に比べて弱い。そして、おそらくはすぐに底をつく。
これ、は……ダメ、か。
半ば観念し、俺は最期の時を待つ。
と、その時、
「……“神撃”!」
どこからかそんな声が聞こえたような気がした。
聞いた事のある声。一体誰だ?
思い出せん。もしかして、いまわの際に聞こえた幻聴か?
まぁ、どちらでもいいさ。俺はもうすぐ……
…………。
……あれ?
どういうことだ?
気がつけば、光の柱は次第に弱まっている様だ。
もしかして、もう終わり?
“神罰”を喰らった、はずだよな? まさか、気がつかないうちに死んで、魂だけに?
いや……。
己の掌を見る。
寸分たがわぬ、俺の手だ。透けてもいない、実体の。
これは間違いなく現実だ。俺はまだ生きている。
どういう事だ?
高位レベルの呪文をそう簡単にレジストできるわけがない上に、途中であの“力”はほとんど尽きてしまっていた。
つまり、ほぼ無防備なまま“神罰”の一撃を受けていたはずだが、なぜ無事なんだ?
わけがわからない。
そういえば、光につつまれる直前に何か声を聞いた気がする。
あれは一体なんだったんだろう?
――しばし後
光の柱は儚げな燐光を残して消えて行った。
そして、視界が晴れあがる。
「一体どうなった……」
何が起きたのかは分からないが、とりあえず周囲を見回し……
「……ん?」
目の前に、あのリーダー格の男が倒れている。
気絶しているらしく、ピクリとも動かない。
何があった? まさか、呪文ミスって自爆でもしたのか? それともMP不足?
ふと隣に目をやると、怯えた表情の女騎士がへたり込んでいた。その瞳は、どこかを見つめ……
上? なんだ?
顔を上げると、上空から光の玉が降りてくるのが見えた。
それは倒れたままのリーダーの隣へと降下した。
そして光が弾け、誰かがあらわれる。
艶やかな黒髪の美女。見覚えのある人物だ。
「さ……咲川先生⁉︎」
「アゼル様⁉︎」
俺と女騎士が、同時に叫ぶ。
だが、妙だ。
彼女には間違いない。が、服装は昨晩(?)見たものと違う、ゆるやかな白い衣――トーガってのに似てる気がする――を着けていた。そしてなにより、そのまとう雰囲気と“力”は、まさに女神であった。