3
とりあえず目的地が決まったので、後は武装の準備だ。
俺には鎧や兜などが渡された。どうやら黒妖精――いわゆるドワーフ――の名工の手による逸品らしく、軽い上に頑丈だ。ずいぶん身体にも馴染む。
「ん? これは……」
ああ、そうだ。前世で俺が身につけていたものだ。俺の死後、ここで保管されていたのか。
ローベルトによれば、俺が最期にまとっていた武装は、剣を除いて一通り神殿の倉庫に保管してあったそうだ。ちなみに剣はエヴノが持ち出し、女神アゼリアから改めて俺に授けられている。あの場にこの剣があったのは偶然だろうか?
ともあれ、十八年ぶりのフル装備だ。……中身がそれに見合った活躍をできればいいんだがな。
それにくわえ、何本かの投げナイフ――というよりもクナイだな、これ――もある。ラクア村の住人の作だ。転移前に金属加工なんかやってた人らしいが、半分趣味でこんなモノを作っていたそうだ。ありがたく使わせていただこう。
ローベルトも魔王戦役の時の装備を引っ張り出していた。
カルドストルの杖に細身の長剣、そして鏡の盾。魔力を込めた糸を織り込んだ法衣と、その上に着込む銀のチェインメイル。
ゲーム内での装備とほぼ同じだな。
問題はダニエルだが……
「ああ、大丈夫。ヴォルザニエスの姿にならなくても全力を出せるようになったから」
だ、そうな。
「ま、見てなよ」
ローベルトの部下が退室したのを確認すると、ダニエルは上着を脱いで瞳を閉じて精神を集中する。
そして、
「ハッ!」
気合一閃。
膨大な魔力が弾けると同時にその姿が変貌していく。
頭部からは一対のねじくれた角。見開いた瞳は赤々と輝く。そして口角からは鋭い剣歯が顔を覗かせている。皮膚は鎧の如き鱗で覆われ、肘からは刃物状の突起が突き出る。そして背からは一対の漆黒の翼。
ここまでは、以前と同じだ。だが、その身体自体は多少筋骨隆々となった程度で、変身前のダニエルとさほど変わらない。
「ほう……前世と今世の肉体の融和が進んだのですな?」
ローベルトが感心したようにうなずく。
「然り。それに、融合したことで魔力の総量が増え、魔族としての階梯も上がったのだろう」
なるほど。
そういえば、魔族でも最上位も連中は、人間とほぼ同じ姿をしているのも少なくなかった。魔族は上位になればなるほど人族の姿に近づくか、あるいは名状しがたい姿となっていくことが多い。もしかしたら魔族ってのは、いくつか異なったルーツを持つ種族の集合体なのかもしれん。
「それに、この姿なら人族に紛れても違和感ないしね」
変身を解いた途端、口調はダニエルのものに戻った。何かめんどくさいな。
それはそうと、角と翼をうまく隠すことができれば、変身後の姿で行動しても問題なさそうだな。
「そうですな。……これを」
「ありがとう。これとこれを使わせてもらうよ」
ローベルトが示したのは、執務室に運び込まれていた、いく揃えかのの品質の良い鎧と盾、剣だ。ダニエルはそららを試着し、選んでいく。
「うん、ぴったりだよ。……これなら我も共に戦う事が出来る」
しゃべりながら変身するなと言うに。
ともあれ変身後のフィッティングが大事なのは確かだが。変身したら鎧が吹っ飛んじまったんじゃ意味がないしな。
鎧を着て身体を動かし、干渉するパーツを交換していく。
「ふむ……これでよかろう」
しばしのち、ダニエルは満足げな笑みを浮かべた。
幾種類かの部分鎧を組み合わせたため見た目の統一感はないが、防御力に関しての問題はなさそうだ。
「ダニエル殿の防具に関しては、これで良さそうですな」
ローベルトがうなずく。
「さて、迷宮に乗り込む面子ですが、アキト殿と私、ダニエル殿の三人と……私の部下二人でという事でいかがでしょう?」
「部下……ですか? どのような?」
迷宮を突破した経験のあるローベルトが用意した部下だ。当然腕が立つ連中だろう。
「ええ。腕は保証済みです」
ニヤリと笑うと、ローベルトは部屋を出ていった。
しばしのち、ローベルトはいかつい大男と一見華奢な女性を連れて戻ってくる。
ローベルトはまず大男に視線をやった。二十代後半から三十代前半といったあたりか。身長は190前後の、浅黒い肌の男だ。鍛えらあげられた筋肉の上に薄く脂肪が乗った、まるでプロレスラーのような体躯である。
「こちらはヴェルディーン。リーマスで剣闘士奴隷をやっていたそうです」
「リーマスで剣闘士奴隷、というと……」
あの男の関係者か。
「ええ。自分はアレオスの弟子であります」
ヴェルディーンが答える。
勇者一行の一人、戦士アレオス。剣から長槍、斧、弓、そして素手での格闘術までこなす、戦闘のエキスパート。単純な剣での戦いなら、勇者ヴァルスを上回る技量の持ち主だ。
その弟子、ということか。
「なるほどね。それは心強い」
無駄のない身のこなし。そして鋭い視線。身体に刻まれた無数の傷は、この男の戦歴を物語っている。
パワー、スピード、技量。それらが高いレベルでバランスのとれた、理想的な戦士だろう。イルムザールの記憶の中にある歴戦の戦士達と比較しても、決して彼らに劣るまい。
「そしてこちらはアイーシャ。ヴァレンティーナの弟子です」
「よろしくお願いします」
彼女は優雅な仕草で頭をさげる。
やはり彼女も身のこなしに無駄がない。相当数の実践をくぐり抜けてきた証だ。それに、身にまとう魔力も相当のものだ。若く見えるが魔導師である。外見とは……おっと、いかんいかん。失礼だ。
「こちらこそ、よろしく」
あわてていらぬ考えを振り払う。ポーカーフェイスだ。……心は読まれてないよな?
「ふふっ……」
彼女は柔らかな笑みを浮かべ、俺を見る。が、その目は俺を値踏みしているようだ。
……。
心の中で冷や汗を流す俺を見て、ローベルトは苦笑を浮かべる。
「この二人をメンバーに加えてよろしいですかな」
「もちろんですよ。願ってもないことです。前回迷宮を攻略した面子の縁者を揃えたわけですね」
「ええ。それに何より、今私に用意できる最大の戦力が彼らですしね」
ローベルトが言う。が、おそらく彼ら以上の人材となると、この世界ではほんの一握りだろう。
頭が下がる思いだ。
「では、突入決行は半刻後でよろしいでしょうか」
ローベルトの言葉でミーティングは終了となった。




