13
「造物主も本来、肉体を持たない精神生命体なのかもしれない」
「!」
「……」
その俺の言葉に、一瞬沈黙が訪れる。
まぁ、この世界にはそう言った概念はない。仕方ないんだろうがな。
『ウム。ヴァルコーネがそうでしたからな』
と、魔道石の上にホログラム状に浮かび上がったエヴノがうなずく。
エヴノは今までの成り行きを知っているからな。その辺のことは理解できたのだろう。
「そう。そして神々が“器”に憑依することが出来るのは、その力――他者に精神を移し替える能力――を受け継いだが故。そして、その器となるべき存在も、限定的ながらその能力を受け継ぐ。だから俺は、前世の肉体に宿っていた幽体ごと、新たな肉体の中へと転生した。むろんそれは、造物主の定めた因果律によらない、突然の死であったという要素も大きいのかもしれない」
「なるほどね。だから記憶や“力”を引き継げた訳だ。通常は幽体も霊体も滅び、その核部分の魂だけになってから転生する訳だしね」
ダニエルが言葉を継ぐ。
「ある意味、これも憑依に近いのかもな……」
そう独語し……
(もしかしたら、俺は今の両親から本来の息子を奪ってしまったのかもしれない)
その言葉は飲み込んだ。同様に転生したダニエルもいるからだ。
『なるほど。ご両親ともなんらかの“縁”があったかもしれませんな。幽体を残すが故に……。死者の思惟は、より縁の強いモノに惹き寄せられますからな。今の私の様に』
エヴノは俺の心中を察してくれたのだろうか。
「ふむ……ともあれ、造物主の動向ですな。黙って見ている訳がないですしね」
「ええ。……ですが、『今現在使える“器”は戦いには少々不適』と言っていましたね。だからエルリアの身体を奪った訳だけど……」
「さすがに次は本来の“器”で来るでしょう。おそらくは……。とりあえず念のためにエルリアーナ様の身体の周りに結界を張っておきましたが……」
「ありがとうございます。自称造物主も、プライドがあればそうするでしょうね。プライドがあれば……」
言ってて自信がなくなってきた。ま、造物主にとっちゃ自分自身の存亡の危機だしな。どんな手を使った来るかはわからんか。
それよりも、問題はヤツの対処法だ。
「あの道化師は何者なのでしょうね? 俺が見た夢の中では……」
今朝の夢の内容を話す。
「ふむ……神魔王バルドスあるいはその眷属、といったところでしょうか」
『バルドスといえば、万物を喰らう鉄の飛蝗の化身でしたな。異界より飛来した魔王という説もありますが……』
ローベルトとエヴノは顔を見合わせた。
「造物主に関わる存在であるのは確かだよね。そういえば、造物主は幾つもの世界を創り、滅ぼしてきたらしいけど……もしかしたら、かつて滅ぼした世界で使徒だった存在なんじゃないかな?」
「かつて世界を滅ぼす際に反旗を翻した使徒、か……。そういえば『一つ前の世界ではしくじった』とか言ってたな」
「おそらく異界の剣士はそちらから来たのでしょうな。そこはまだ現存する様ですし。となると、さらに一つか二つ前の世界……」
「……『造物主差し出すからこの世界に手を出すな』って言って聞いてくれる相手ならいいんだけどな……」
俺は肩をすくめて見せた。
ヤツから感じる怒気と狂気はあまりに凄まじい。造物主の被造物まで滅ぼしかねないほどに……
「だと、良いのですが……その前に、なんとかして造物主を引きずり出す必要がありますな」
「そこなんですよね。ヤツが言い残した言葉ですが……。エルズミス大神殿の地下にある“アレ”を破壊するといっていました」
「大神殿の地下、ですか……。そういえばアキト殿は先刻、迷宮の奥には不自然な空白があるとおっしゃってましたな」
「ええ。エルズミスから地下世界へと向かう地下迷宮の最深部……地下四階と五階の中央部に侵入できない部分がありませんでした?」
「ふむ……言われてみれば確かにそうですな。確かその階層は回廊のような感じでした。気にはなっていたのですが、結局調べずじまいでした」
「僕の……いや、ヴォルザニエスの記憶にも、地下迷宮のことはあるけど……その空白部分に何があるかはわからない。多分、魔王なら知っていたのかもしれないけど」
「多分知ってるだろうな。造物主の第一使徒な訳だし。アゼリア様もね」
聞いてみるか。
スマホを取り出そうとし……
あ……そういえば、こちらから連絡する方法はないんだっけ? つまり、明日の定時連絡を待たなきゃいかんのか……。
多分、造物主に探知されることを警戒したんだろうけど、もう無意味だしな……。
次に連絡が来た時は、こちらからも連絡できるようにしてもらおう。
「そこにある“何か”を破壊し、そしてやってきた造物主を殺す……。おそらくそれは、この世界の根源に関わるもの。それを破壊されれば、この世界の存亡も危うくなる」
コントロールする場所、といっていたな。確か。
『そうでしょうな。復讐のためにはこの世界がどうなろうと構わない……それ程の凄まじい憤りを感じました』
エヴノの言。
「やはり、戦いは避けられなさそうですな」
ローベルトは大きく息を吐いた。
「あの道化師を止めるためには地下へ乗り込まねばならないわけですが、いつにします?」
「今日は皆魔力も体力も尽きかけてますしね。明日の朝で。それに、アゼリア様からの定時連絡もありますし」
「そうですな。ろくに準備もせずに乗り込んだら、下層にたどり着くのもおぼつかなくなってしまいますしね。明日の朝、五の刻というのはいかがでしょう?」
「それが良さそうですね」
五の刻……十時ごろか。
決行の日時は決まった。
ちょうどそこに、ローベルトの部下がやってきて、食事の用意が出来た事を告げた。




