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――一刻後

 俺は一旦ラクア村に戻っていた。

 村の外でヴォルザニエスには一旦ダニエルの姿に戻ってもらう。服は失っているので、ローベルトのマントを借り、羽織っている。


「おじさんとおばさんには久しぶりに会うな……」


 門をくぐりつつ、ダニエルは懐かしげにつぶやく。

 あの事故以来、ということになるか。


「操られている間、この村を襲わなくてよかったよ」


 ダニエルは周囲を見回し、ぽつりと呟いた。


「……もしかしたら造物主はあの事故の生き残りも狩るつもりだったのかもしれないな」


 その為にヴォルザニエスやアルセス聖堂騎士団を操った……。


「おそらくね。それと、先刻の道化師や異界の剣士の情報収集のために、僕を生き返らせたんだと思う」

「なるほどな」


 造物主なら、ゾンビ化どころか完全な蘇生も可能なわけだ。むろん、魂が失われていなければ、だが。


「ヴォルザニエスの身体に残るおぼろげな記憶だけど……造物主は僕とイルムザールが異界の怪物と戦い、揃って討ち死にした事を知って、道化師の情報を得る為に一時的に蘇生させたんだ。しかしその時点で僕達の魂は地球へと飛ばされていたからまともな情報を引き出す事ができなかった。で、そこにやってきた勇者一行にぶつける事にした……」

「なるほどな。勇者一行が俺達を倒す事ができれば、あの怪物への対抗手段になるかもしれんと考えたのか」

「そう。勇者一行は、思惑通り僕達を倒した。しかしその後は……」

「異界の剣士があの道化師と戦い、一旦は退けた様ですな。あの時は、我々と別行動をしていたので、あくまでも推測ですが」


 勇者一行の一人、ローベルトが口を挟む。貴重な証人だ。


「で、一旦脅威が無くなったと思いきや、異界の剣士の助力で勇者一行が魔王を倒してしまった。その為に世界が混乱し、得るはずだった“力”も無くなってしまう。異界人が脅威である事を改めて痛感した造物主は、異界人狩りに力を入れた、と」

『その走狗となったのが我々ですな。いかなる手段を使ってか騎士団を乗っ取ったヴァルコーネは、異界人狩りに力を入れた。そして、あの事故が起こる……』


 エヴノの思惟には、苦々しい感情がにじんでいた。


「事故?」

『アキト殿の今生のご両親や、ダニエル殿が巻き込まれた事故ですよ』

「あの事故で僕の身体を拾った造物主は、ヴォルザニエスの魂がこの身体の中にあるのを知った。そして、回収し、保管してあった前世の肉体と合成して僕を復活させたんだ。そして同時に、イルムザールも異界へと転生している事を知った。そしていつかこの世界へ舞い戻ってくるであろう事も」

『そして、その為にイルムザール様と(えにし)の深いエルリアを手に入れる為、ガンディール王国を滅びした……』

「なぜそんな事を?」

『それは……』


 エヴノがそこで言葉を切った。

『勇者殿の御両親がみえた様ですな』



 前方へ目をやると、こちらに近づいてくる一組の男女の姿があった。


「彰人……無事成功した様だな」


 父さんは俺が背負うエルリアに目をやって笑みを浮かべた。

 成功、したのだろうか……

 彼女は未だ、目を覚まさない。

 思案げな俺を見て、父さんも顔を曇らせる。


「どうした? 何かまずいことでもあったのか?」

「大丈夫さ。きっと……」

「そうか……今日はお前達の無事を祝うつもりだったが……」

「それは明日にとっておいてよ。俺は……全ての因業を断ち切って、必ず帰って来るからさ」

「そうか……お前も中二くさい事を言うようになったんだな」

「……いや、もう高校生だし」


 そういう時代はは卒業した……ハズだ。ま、友人の中には未だに厨二発言してる輩もいるけどさ。……というか、俺の中身はイルムザール——三十代半ばの妻子持ちのハズなんだよな。ま、精神年齢は肉体の影響を受け易いのかもしれん。それに、当時の記憶が全部蘇ったわけでもないしね。

 ま、いいか。この歳で妙におっさんくさいのもアレだし。

 それよりも、ダニエルを取り戻した事を報告しないと……。

 と、思ったら、母さんがダニエルに近づいていった。


「ダニエルちゃん……よね?」

「おばさん……お久しぶりです」


 母さんは、おぞずとダニエルに近づき、そして抱き寄せる。


「本物なのね……。良かった。あの時あなたをかばうこともできずに……」

「大丈夫ですよ。一度は死んだけど、彰人のおかげで今ここにこうしてますし」

「そ、そうね……」


 俺の母は納得した様にうなずいた。

 い、いいのかそれで? ま、その方がラクでいいけど……。

「とりあえず、一旦ここで休憩してからエルズミスへ向かうつもりだよ。そして、全てを終わらせたら……また報告に来ます」

 俺は両親に向かい、そう告げた。

 二人は静かにうなずいてくれた。



――十数分後

 ダニエルに俺の服を着せ、しばし茶を飲んでくつろいだのち、俺達はエルズミスへ向かう事にした。

 俺の両親と弟妹、数人の村人が門のところまで見送りに来てくれた。


「頑張ってこい」


 親父が俺の肩をたたく。


「もちろん。必ず帰ってくるさ」


 俺は力強くうなずいてみせた……つもりだ。

 その横で、俺の妹がダニエルにしがみついている。


「ずいぶんもてるねぇ」


 などと耳元でささやいてやったら、脇腹をつねられた。痛い……。

 ……

 さ、気を取り直して出発だ。

 彼らに一時の別れを告げ、俺達は歩き出す。

 帰ってこよう。必ずここに。

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