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――半刻後
俺とローベルトの二人――いや、エヴノがいたか――は、ネルヴェ遺跡を目指していた。
う〜む、色気のないパーティーだ。
などと言ってる場合じゃないな、本当は。
途中、魔王戦役でのこの砦の戦いについて聞いておく。
特に、ヴァルコーネに関してだ。
彼女は英雄の一人である魔女ヴァレンティーナの弟子として一行に近づいたことがあるそうだ。この辺はゲームと同じだ。だが、その最後は……
「とどめの一撃を受けた直後、彼女の顔が一変したのです。まるで憑き物が落ちたかのような……。まるで何が起きたか分かっていない様でした」
仲間の悲嘆を思い出し、ローベルトは肩を落とす。
『何者かが憑依していたのですな?』
エヴノが口を挟む。
「そのようだな。どうやら、我々が彼女にとどめを刺した直後、何も知らない娘の身体から抜け出していった様だな」
ローベルトの言葉の端に、怒りがにじんでいる。できればそいつも倒したいところだが……。
「今回の黒幕もヤツかもしれませんね。憑依された犠牲者を迂闊に倒してしまうわけにはいかない、か……」
「……今はヴォルザニエスを倒す事だけを考えて下さい、アキト殿。そろそろ腹ごしらえをしましょう。もう少しでネルヴェ遺跡です」
ローベルトの指差す先には半ば朽ちかけた城塞の姿があった。
「どうやらあの遺跡は、山賊のアジトになっているようですね。大陸西方の動乱が収まりつつあるので、食いっぱぐれた傭兵やら滅亡した国家の兵士やらがこの辺りに流れ込んできて悪さをしている様ですな。用心するに越した事はないでしょう」
「……そうですね」
ヴォルザニエスに山賊どもか。どうなることやら。
――さらに半刻後
母さんがが持たせてくれた握り飯などで腹ごしらえした俺達は、ネルヴェ遺跡に踏み込んだ。
元々砦だけあって複雑な構造をしているが、それほど苦労せずに進む事ができた。
俺の前世の記憶やゲームなどと、ほとんど変化はなかった。
日本の城でいえば本丸あたりにたどり着いたところでローベルトが声を上げた。
「アキト殿、あれを……」
ローベルトが指差す先に、地面に十数人ほどが倒れ伏していた。その周囲には、黒いシミ。血痕だろう。少し近づけば、その臭いが漂ってくる。
ああ……あれは、死体か。
まるで力任せに引き裂かれたり、叩き潰された様に見える。そう、大柄の魔物と戦い敗れたような……
しかし、なんとも人相の悪い連中だな。まるでゴロツキだ。
……そうか。こいつらがここをアジトにしていた山賊か。
おそらくはここにやってきたヴォルザニエスと戦い、蹂躙されたのだろう。
「ローベルトさん。こいつらを弔ってやってください。埋葬は後で俺も手伝います。とりあえず先にヤツとの十数年越しの決着をつけにいきます」
俺は本丸の中央にそびえる櫓に目を向けた。
そこには、圧倒的な“力”を備えた存在が、俺を待ち構えている。
「……分かりました。ご武運を」
ローベルトはうなずき。俺に祝福の呪文をかけてくれた。
そして俺は、本丸中央を目指して駆け出した。
――櫓
俺は石造りの階段を昇っていく。
そっと壁に手を触れた。ここの先の広間でヴォルザニエスと対峙した記憶が鮮明に蘇ってくる。
そして、戦いの最中に現れた“ヤツ”の事も。
ヴォルザニエスと組んで戦っても、勝つことはできなかった敵。
いや、今はエルリアを助けることが第一だ。そのためには、まずヴォルザニエスを倒さなければならない。だから、ここにきた。
そういえば、自分から戦いを挑むのはこの世界に来てから初めてのことだな。
いままでは、身に降りかかる火の粉を払ってきただけだ。
しかし今は、エルリアを助けるために戦いを挑む。
負けることは許されない。
俺はほおを一つ叩いて気合いを入れると、広間に足を踏み入れた。




