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――朝食後
親父達が農作業のために出かけ、ローベルトは弟と妹を連れて散歩に行った。
誰もいない家の中、俺は縁側に座って庭を眺めていた。
親父が趣味で作った日本庭園風の庭だ。
……本当に趣味に生きてるんだな。ずいぶん生き生きとしていたし。
無論、地球への郷愁とかはあるんだろうけど。
それはおいといて、だ。今俺がやらねばならないこと。
それは、ヴォルザニエスの打倒だ。
エルリアをさらったヤツ。そして前世からの因縁の敵。
おそらく俺の魂に絡みついた運命の糸は、ヤツともつながっているのだろう。
そして、運命の糸のつながりを強固なものにしたのは、エルリアの“神雷”。神性魔法……神の力を借りて放たれる魔法だ。神の力、すなわち世界における根源的な力を受けたわけだ。
あの瞬間、俺はこの世界に囚われたといってもいいのだろう。
だが、彼女を恨むつもりはない。
もしこのまま地球に帰れば、決して満たされぬまま一生を終えるだろう。そう、ピースの欠けたパズルのように。
俺はここに来るべくして来た。そして彼女と巡り合ったのだ。
彼女を助けること。
もしかしたら、それも運命の糸を解くカギになるのかもしれない。
そのためには、どうするか。
まずは、あの“力”を使いこなす事だな。
前世の力ばかりに頼るのは少々不本意だが、背に腹はかえられまい。
座禅を組み、精神統一。
腹式呼吸で呼吸を整える。そして、調身、調息、調心……。ツラかった思い出も、今となっては懐かしく思えてくるな。
おっと、精神統一、精神統一。
しばしのち、丹田あたりに“力”の塊が現れる。
……きたな。
丹田に意識を集中。呼吸に合わせてそれを上下に動くイメージを脳裏に描く。
反応ありだ。
そしてある程度自分の意思で動かせるようになったところで股間、尾てい骨を通して脊椎へと塊を移動させる。そして最後は脳天を突き抜けていくようイメージする。
そして……
“開いた”。
丹田から急激に“力”が溢れてくる。圧倒的な“力”が身体に満ちていくのがわかる。
「おぉっ!」
しかし、これは……
身体の末端から“力”が逃げてしまう。
だめだ。このままじゃ、また“力”をいたずらに浪費するだけだ。
イルムザール最大の技“光輝の太刀”は、“力”――いや、“気”と言ったほうがいいか?――を爆発的に放出し、敵を粉砕するものだった。
気力、技術、体力が充実した前世の肉体であれば、それでいいだろう。
だが今の俺では、それら全てが不足している。前世と同じ感覚で技を使っていたら、あっという間にガス欠だ。昨日のように……。
その為にはどうすればいいか?
あの技は“気”の消費量が極めて大きいため、その潜在量が高い者しか使うことができない。
現状の俺では二発が限度だ。前回の戦いではそれに加えて“気”の障壁でブレス防御まで行ったため、あのザマだった。
ならばどうする?
とりあえず、省エネの技を……
いや、ダメだな。そんなことで勝てる相手じゃない。
まてよ。
“気”を収束し、一点に集中すれば……
ふむ。いけるかもしれない。
思い出した。確かこの世界の東方出身の剣士や武闘家には、そんな技を使うものもいた。
そういえばイルムザールだった頃にも、東方から帰った後に一度試したっけか? ま、習得する前に“ヤツ”と戦う羽目になったが……。
“ヤツ”か。
忌まわしい記憶を掘り起こす。
今朝の夢……アルジェダート達が去ったのちに現れた道化服の男。
あれは、“ヤツ”だ。
俺とヴォルザニエスを殺した魔物。
ヤツのために俺とヴォルザニエスは不慮の死を遂げ、地球に転生したわけだ。そして再びこうして出会った……。
これは偶然ではない。
となると、ヴォルザニエス復活の陰には、まさかヤツが!?
……いや、断定はできん。
だが少なくとも、ヤツはこの世界を狂わせた原因の一つだろう。
そして狂った運命は“歪み”を正すべく俺たちをこの世界に呼び寄せた。
だとすれば、ヤツも俺の前に現れるのかもしれん。
ゲーム内で未登場ということは、少なくとも魔王戦役終結時点で生き残っていた可能性が高い。
自分の世界に帰っていてくれてれば一番いいんだがな……
ともかく、だ。いまは目の前の敵に集中せねば。
極限まで“気”を制御し、技の威力を高めねばならない。
散水する際にホースの口を指で押さえて水流を強める感覚だ。“気”の絶対量が少なくても技の破壊力を高めることができる。
そのためにはます、“気”を収束して体内を循環させねばならない。
深呼吸だ。そしてもう一度精神統一。
“気”を練り、その純度を高めていく。
“気”の塊は少しずつ収束し、触感すら感じるほどの密度となる。
それをさらに小さく、より自在にコントロールする。
ソフトボール大から野球ボール。そしてゴルフボール大へと。最終的にはもっと小さな点へと収束させ……
その時一陣の風が吹き、庭木の枝から一枚の木の葉が舞った。
「ッ!」
掌中の“気”を針のように収束し、放つ。
直後、木の葉は一瞬空中で停止した。
命中。
庭に降りて、舞い落ちた木の葉を確認し……あだだだだっ!?
いかん、足がしびれて……。
やっぱり締まらんな〜。気のコントロールがうまくいったからって、こういう事からは避けられんか。
なんとか這いつくばって移動し、木の葉を手に取った。
その中央に、指の先ほどの大きさの穴が空いている。
俺のイメージだと、針の先ほどの穴だったが……ま、最初はこんなものか。
よし。使えるかもしれん。
ならば……
俺は剣を持ってくるとまた庭に降りる。
とりあえず、素振りだ。
“気”のコントロールを行いつつ、剣道式の素振りを100回を数セット。
振れば振るほど剣の先まで“気”が通っていく事を感じる事ができる。
……これならいけるかもしれん。試してみるか。
先刻の木の葉を頭上に放り投げ、剣を一閃。
……どうだ?
剣先は当たっていない。だが木の葉は空中で真っ二つとなり、ゆっくりと舞い落ちた。
大成功。木の葉を握り、思わずガッツポーズ。
と、その時……
『精が出るではないか、勇者殿』
どこからか、そんな“声”がした。




