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――翌朝
「ン……」
目を覚ました俺は、一つ大きく伸びをする。
そして無意識にエルリアの姿を探し……
「ああ……そうだった」
昨晩は弟妹と一緒に寝たんだっけか。布団はもぬけの殻なところを見ると、もう起きたのだろう。居間の方から元気な声が聞こえる。
そう。ここにはエルリアはいない。
俺は戦いに敗れ、彼女はダニエル……いや、ヴォルザニエスにさらわれてしまった。
俺が不甲斐ないせいだ。
何が勇者イルムザールの転生か。これでは、ただのヘタレ勇者じゃないか。
拳を握りしめた。
エルリアは無事なんだろうか?
殺されたり、あるいは……
「クソッ!」
無力さに涙が出そうだ。
どうすればいい? ヤツと戦うには、今の俺じゃ力不足だ。
光輝の太刀オーラセイバー二発でガス欠だ。しかも、威力はイルムザールの頃よりもはるかに劣っている。
情けない限りだ。
“力”の総量と技の威力を前世と同等レベル以上に高めなければ、ヤツに勝つことは難しいだろう。
短時間のトレーニングでどうにかなるものだろうか?
……いや、なるわけないな。あの光輝の太刀だって、俺が長年の鍛錬の末に習得したものだ。少なくともそれに匹敵するレベルの修練をしなければ、俺に勝機はない。
いや……それでもあがくしかないな。一応はダメージを与えられたんだ。なんとかヤツを倒せる方法を考えないと。
とはいえ……どうしたものか。
しばし途方にくれる。
……とかやってる場合じゃないな。
今朝も夢を見たっけ? 思い出せ。ヒントでもあれば……
そうだ。今日の夢は……昨日の続きか。
それにしてもあの魔王……勇者達はよくあんな化け物と戦って勝てたな。同じ“神雷”でも、エルリアのがライフル銃なら魔王のは戦車砲だ。あんなモノ喰らったらチリ一つ残らねぇ。ゲームで再現されている能力など、ほんの一部なのだろうな。さすがは造物主の使徒というべきか。
使徒といえば……咲川先生もだったな。怒らすのだけはやめとこう。
それはそうと、まさか姫巫女が自分から魔王についていったとはな。救出に血眼になってた勇者達って一体……。
いやまて。
まさかと思うが、エルリアも心変わりしたりとかは……。
不甲斐ない俺を見捨ててヴォルザニエスにでも走られたら、さすがに立ち直れない気がする。
いや、俺は地球へ帰る身だ。どのみち彼女とは……
でもそう割り切れるものでもないだろう。今生で初めて愛した人なんだ。
俺は、俺は一体どうすれば……
「ああぁあぁぁ……」
いらんことを思い出してしまった俺は、頭を抱え、情けない声をあげて布団の上を転げ回った。
「……何やってんだ、彰人」
その声に顔を上げると、あきれ顔の父さんがいた……。
ああ、ハズカシイ……。
――座敷
俺と両親、弟妹とローベルトはちゃぶ台を囲んで朝食を食べていた。
ちなみに昨晩、ローベルトは離れに泊まっていた。この村に逗留する際は、いつもそこで寝ているそうだ。
「この味がなかなか出せないんですよねぇ……」
ローベルトはタクアンをかじりながら、そんなことをいっている。
「自分で作っているんですか?」
「ええ。ここ数年、料理にはまってましてな。最近は東方風の料理にも手を出したんですよ。奥方の料理はそれによく似てるんですよね」
「東方……旧ガンディール王国東部領あたりですか?」
「いえ、もっと向こうの方です。その辺にはワタリ殿達と同じような姿の民が暮らしております」
「そうなんだ……」
確かゲーム中でも、東洋風の民族は存在したな。東方沖にある群島に暮らしていたはずだ。
幾つかイベントがあったっけ。武闘家みたいのも登場したりとか。あと、忍者っぽいのもいたな。
……ああ、そうだ。
微かに思い出した。前世でも幾度か訪れていたっけか。
そこで、何か……
「なあ、彰人よ。お前何を悩んでいるんだ? 今といいさっきといい……」
考え込む俺に、親父が声をかける。
「ゔ……」
せっかく何かを思い出しかけたのに、とは思うのだが、久々に再会した親父の言葉だ。無下にはできん。
「実はさ……」
拉致されたエルリアのことについて話す。
「ケツの青いガキが女の事で思い悩むとはねぇ……」
親父は少し呆れたように、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うるせー。高校生なんだ、仕方ないだろ」
「母さんや。ちょっと遅いけど反抗期だよ」
「まさか彰人の反抗期が見られるとは……生きてた甲斐があったというものね」
「……」
う〜む、これも親孝行、なのだろうか?
ま、いいか。
食べ終わったら、エルリア救出についてもう一度よく考えないと……。
「何をするにもまずきちんと飯を食え。でないと女一人助けることもできないぜ?」
再び黙った俺に、親父は苦笑を見せた。
それもそうか。
腹が減っては、というヤツだな。
さて、しっかりと腹ごしらえをしておくか。




