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――両親の家

 親父たちの家は、いかにも日本の民家といった風情の造りであった。とはいえ基礎などはコンクリート造りになっていたが。

 どこかで見たような……。そういえば、父親の実家に似ているな。納屋やら離れもあるし。

 今は建て替えてバリアフリーの家になってるけど……。

 父の出身は、八ヶ岳の麓にある小さな町だ。父方の祖父母は、そこで農業をやっている。

 夏休みに帰省した時には、町にある牧場で体験乗馬をさせてもらったりしたな。懐かしい。

 あと、畑で採れたじゃがいもで作ったコロッケは絶品だった……。



「えっと……おじゃまします」


 ……で、いいのかな?

 とりあえず玄関をくぐる。

 目の前は、広い土間。

 脇には農機具やらが置いてある。

 そういえば庭には畑があったな。

 畑いじりのスローライフ。親父の定年退職後の夢だったっけ。奇しくも異世界転移によりその夢が実現したのだろうか?

 それよりも、だ。


「あ〜、ローベルトおじさんだ! またお話聞かせて!」


 好奇心に目を輝かせ、ローベルトを見つめる少年と少女。10歳ほどの少女と、7〜8歳くらいの少年。


「久しぶりだね。元気だったかい?」


 彼は二人の頭を撫でてやる。

 この二人は一体?

 いや、この家にいる、ってことはつまり……

 二人の目が俺を見た。


「お父さん、その人、誰?」

「あなたたちのお兄さんよ」


 母親が二人に微笑んだ。


「お兄……ちゃん?」


 不思議そうな声。

 えっと……どう答えたものか。

 と、親父が軽く俺の背中を叩いた。

 おっと。突っ立ってる場合じゃないな。


「彰人だ。よろしく」


 笑みを浮かべ、弟妹に歩み寄る。

 新しい家族、か。

 そういえば、事故直前に母親が妊娠したという話は聞いたな。

 少女は、その時の子か。


「ボクは……ユウトだよ」

「アタシはリナ!」


 元気のいい声だ。



――居間

 いや、茶の間と言ったほうがしっくりするかもしれん。

 ちゃぶ台と座布団、そして畳。テレビがないのが寂しいくらいだな。ブラウン管のヤツなんかが似合いそうだ。

 畳の造りは甘いが、これは親父のお手製であるらしい。

 DIYが趣味の親父であったが、ここまでやるとは……

 ちなみに材料は、村のそばにある沼地に生えた植物で代用したそうだ。

 この大陸の東方でも、ゴザのようなものの材料になっている植物だそうな。イグサの親戚かな?



 落ち着いたところで、現状報告だ。

 ローベルトは弟妹を連れて別の部屋に行った。気を利かせてくれたらしい。

 俺は出された茶をすすりつつ、俺は今までの出来事を話した。

 母方の祖父の死。

 中学までは母方の祖母と暮らしていること。

 親父の実家の現状。

 親父の元勤務先の紹介で、今の高校に入ったこと。

 そして、異世界に転移してからこれまでのこと。

 二人は黙って聞いていた。



「……これまでよく頑張ったな」


 俺の話が終わると、ぽつりと親父が言う。


「……父さん達こそ。俺じゃこんな村作れないよ」


 前世はどうあれ、今の俺はただの一高校生に過ぎない。

 十数年の人生で培った経験など、ここで生きていくにはさして役には立たないだろう。先生とエルリアがいなければ、初日でのたれ死んでいたはずだ。

 二日目以降もエルリアは献身的に俺に俺に尽くしてくれた。

 俺がエヴノを殺し、その事実に押しつぶされそうになったときなどは、彼女自身も俺と同じ立場であるにもかかわらず、その身をもって俺を癒してくれた。

 それだけに、エルリアには返しきれない恩がある。

 彼女自身は、俺を殺しかけたことへの償いのつもりかもしれないが、どうせ俺は彼女がいなければ死んでいたのだ。償いなど必要ない。

 だから、必ず助ける。


「俺はエルリアを救出したら、地球へ戻るつもりだ。できれば、親父達やダニエルも連れて帰りたいんだ」


 家族みんなで暮らす。

 どれほど望んでいたことか。親父達がいなくなった後に爺さんが亡くなり、そして高校進学してからは寮暮らし。

 そういう環境には慣れていたつもりだった。

 だが、実際にまたこうして親父達を前にすると……。

 もっとも、それは困難をともなうだろう。事故から現在までのブランクを説明する必要がある。それに、妹と弟の処遇も。


「いや……気持ちはありがたいよ。でも、俺達は帰らない。この世界に深く関わりすぎたからな。それに……あの子達は地球を知らないんだ。戸籍もないしな」


 ……わかっていた答えだ。

 そりゃそうだよな。

 俺と両親は、数日後には今生の別れをすることになるわけだ。

 無論、俺がこの世界に残るという選択肢もあるだろう。

 家族、そしてエルリアとこの世界で暮らし、骨をうずめる……

 だが、それはできない。

 俺を待っている人がいる。祖父母たち、そして俺の世話をしてくれた人。友人達。


「帰ったら、みんなによろしくな。俺達に代わって親父達を看取ってくれよ」


 親父は少し寂しげに笑った。



 そして、夕食の時間だ。

 久々に食べる、母親の手料理。

 材料自体はこの世界にあるものを使っているために味付けなどは少々違うが、数日ぶりの和食だ。

 俺と両親、弟妹とローベルトはちゃぶ台を囲んで夕食を食べた。

 ……昨日までとはずいぶん雰囲気が違うな。

 なんにせよ、久々の家族団欒だ。

 ここにダニエルやエルリアがいれば、もっといいのだが……。

 言っても仕方がないことだな。

 とにかく今は、彼らを助けることを考えねば。

 ……と思っていたが、親父とローベルトにどぶろくのような酒を勧められた。


「飲んで忘れろ」


 とか、保護者や聖職者として……

 ま、いいか。この世界では十五歳で一人前扱いだということらしいからな。

 とりあえず、一杯。

 ……かなり効くな。

 いかん、酔いが回ってきた……。



 一時間ほどののち、俺はようやく解放された。


「息子と酒を酌み交わす貴重な機会だ」


 と言われてては、さすがに断りきれん。

 しかし……飲ませる→治癒魔法→飲ませる→……のループはやめて欲しかった……。



――奥座敷

 久々の風呂に入り、汗を流した俺は用意された布団に潜り込んだ。

 隣には弟と妹もいる。


「にいちゃん、チキュウのこと、教えてー」


 せがむ彼らに色々話してやる。

 多少残ったアルコールのせいで、少々ろれつが回ってなかったが。

 そしてしばしの交流を楽しんだのち、俺は眠りについた。

 できれば、彼らにも兄らしいことをしてやりたいんだがな……

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