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――のち
俺は親父やローベルトとともに村へ向かった。
親父の説明によれば、この村には異界人が多数住んでいるとのことだった。
航空機事故と同時に転移してきた親父達は、なんとかアルセス聖堂騎士団の追撃をのがれてこの地にやってきたそうだ。
ローベルトとはその時に知り合ったらしい。
彼は事故直後の現場に現れ、怪我人の救援を行った。そして生き残った者達と死者の埋葬を行い、セルキア神殿そばにある異界人の隠れ里に親父達を連れて行ったそうだ。
その際に現れた騎士団は、ローベルトの“幻惑”にまとめてかかり、おとなしく帰って行ったらしい。
暗示とかそういうモノに弱いのかな、あの騎士団は。狂信者っぽいんだけどな。いや、だからか? もしかしたら術者が強力なだけかもしれんが。
その後、騎士団の捜索やガンディール王国内の混乱を避け、比較的平穏なこの地に村を作ったそうだ。
……ああ。あのことは、聞かねばなるまい。
「そういえば、ダニエルは……」
俺の問いに、親父は無言で首を振った。
どうやらあの事故で死んでしまったということだ。全身火傷で助からなかったそうだ。遺体は親父とローベルトによって事故現場そばに葬られたという。
遺体の状態がひどかったため、流石にローベルトもあの少年がダニエルであることには気づかなかったらしい。
「そうか。でも……」
親父に先刻の出来事を伝えると、一瞬驚いたのち、悲しげな表情をした。
「あおうだったのか。誰かに無理やり甦らされたのだろうか? 出来ればきちんと火葬してやりたかったが……」
騎士団の別働隊がいたため、あの場所にとどまり続けるのは危険であったそうだ。だから、ローベルトが魔力で掘った穴に遺体を埋めただけで済ませたらしい。
「……ローベルトさん。この世界に死者を蘇生させる魔法はありますか?」
確かにゲーム中だと“復活”などの呪文があるが、それはあくまで便宜的なものだろう。イベント戦闘での死者は生き返ることはなかったしな。前世の俺とか。あくまでもそういった魔法は、“戦闘不能”からの復活と考えたほうがいいかもしれない。
「あるにはあります。が、やはり死後からの時間が経ちすぎていたり、遺体の損傷が激しい場合は不可能です。それに、異界人の場合はやはり効力が落ちてしまいますね……」
彼は肩を落とした。あの場の死者を救いきれなかったことにやるせなさを感じているのだろう。
「つまり、アイツは通常とは異なる方法で蘇った……。そうだ、ネルヴェの戦闘の後、ヴォルザニエスの遺体はどうなりました?」
「ヴォルザニエスの遺体は……そのままあの場所に。未だ魔物が多数ひしめいていたためイルムザール様の身体を持ち帰るのが精一杯でした」
「そう、か」
ネルヴェ遺跡……これもトゥランティア帝国の遺跡の一つだ。
エルズミスを護る砦の一つとして整備されたもので、魔王戦役においては魔王軍に占拠されたエルズミスを護る城塞として、魔王軍が占拠していた。その司令官として現れたのがヴァルコーネであり、勇者達はその下僕とされたイルムザール及びヴォルザニエスと戦ったのだ。
多分、この村からそう遠くはない場所にあるはずだ。
「だとすれば、ヴァルコーネがまた蘇らせたのか……。ダニエルとヴォルザニエスの遺体を一つにして」
もしかしたら今のヴォルザニエスは、そうして蘇ったゾンビ的なものなのかもしれない。
呪われたヤツを解放してやりたい。だが、俺には……
無力さに、拳を握りしめた。
――ラクア村
村は堀――環濠っていうんだっけ?――の中にあった。
堀の内側には板や土塁で壁が作られている。
ま、その辺はよくある光景だ。通過した村の中にも同じような堀と壁を作ってたところもあったしな。
しかし、その中の光景は、外とは似つかわしくないものであった。
地球っぽいというか……
昭和初期あたりの街並みっぽい。
煉瓦造りや木造が混在しており、造りも和風やら洋風が混在している。
道もアスファルトらしきもので舗装されていた。
これを作る技術者が転移してきているということか。
「あの事故の時、工事業者も一緒に巻き込まれたんだ。おかげで手作業でもここまでの工事ができた」
「へぇ……」
そうか。親父は商社マン。業者を伴って現地入りするはずだったのか。
「アスファルトやセメントはここでもすぐ手に入るしな。後はレンガや木材なんかがあれば、どうにかなるものさ」
親父が言うには、古代ローマの建造物にもコンクリートは使われていたそうだ。アスファルトも旧約聖書の時代から建築に使われていたらしい。案外、この世界でもありふれた材料ということか。
それに、この世界でも古代の遺跡にコンクリートやアスファルトが使われているそうだ。
「そういえば、アルマーナやエルズミスの地下迷宮にも使われてましたねぇ」
これはローベルトの言。
ゲーム中、ダンジョンの壁や床がグレーや黒一色のところがあったのは、手抜きじゃなく忠実に再現してたのか?
……両方かもしれんけど。
村の中央にある広場に向かうと、数人の村人が集まってきた。その格好は、地球で見慣れたものに近い。異世界という感じはしないな。
親父が言うには、村の外に出る時はこの世界の一般的な服に着替えるとのことだ。
彼らは口々に親父やローベルトに、村の外で響いた咆哮――ヴォルザニエスのものだ――について問うている。
と、その中の一人が、俺に近づいてきた。エプロンをつけた女性だ。その顔は、俺のよく知る人物に……
「彰人……?」
「かあ……さん?」
そう。俺の母親であった。




