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――街道
ローベルトとダニエルを加え、俺達はエルズミスを目指す。
残りは4ラン(約16km)。
四人に馬二頭という状態なので、馬に荷物を載せて人は歩きだ。
そのうえダニエルの件で時間を食ってしまったので到着は予定よりも相当遅れるだろう。
おそらく今日は途中で宿をとり、エルズミス着は明日になる。
転移呪文でも使えれば楽なんだがな。
ローベルトは習得しているはず、と思ったが、どうやらエルズミス近辺は結界が張ってあるために転移はできないそうだ。緊急時には護符が発行され、それを持つもののみが転移を許されるらしい。
セキュリティを考えたら当然か。ちなみに各国首都も同様の措置をとっているそうだ。
そして一刻ほど歩く。
段々日が傾いてきた。
だが、エルズミスまでの道は半分以上残っている。
もうしばらく行ったところの街で泊まりかな?
そう思っていると、ローベルトが「こちらです」と言って道をそれて歩き出した。
その先は、小さな薮だ。その中を突っ切る獣道のような細い道があった。
「この先に、私の知り合いが住む村があります。そこで泊まりましょう」
彼はそう言い、意味ありげに笑った。
ふむ。ローベルトの知り合いか……。どんな人物だろう? もしかしたら、勇者パーティーの誰かかな?
しばらく歩いたところで、前方に細い川が見えた。
その川には石製の橋がかかっている。やはりこの道は、人によって整備されているのだろう。
いや、これは石だけじゃないな。石と、淡灰色のザラついた何か。コンクリートっぽいというべきか……
橋をわたり、そこからまたしばらく薮のなかを歩く。
と、遠方に村らしきものが見えてきた。
あれがローベルトの言ってた村かな?
「ローベルト様、この様な場所に村はありましたっけ?」
エルリアが問う。
「新しく出来た村ですよ。ここ数年の間に」
「東方からの流入者が作った村ですか?」
リコート同様、ガンディール王国からの難民が集まっているのだろうか?
「確かにガンディール王国の遺民も多いです。しかし……」
俺の問いにローベルトは言い淀んだ。
「とにかく、村へ入ればわかりますよ」
……なんだろう。とりあえず、村へ向かおう。
その直後、地上を巨大な影が走った。
結構デカいな。ジェット機かな?
その時、
「うっ……ぐぅ……」
背後で呻きが上がった。この声は……
「ダニエル!?」
振り変えるとダニエルが頭を抱え、しゃがみ込んでいた。
「ダニエルさん! ……ローベルト様」
「……わかりました」
エルリアの声に、ローベルトが進み出る。
「大丈夫ですかな、ダニエル殿」
ダニエルの頭上にそっと手をかざす。
「ふむ? ずいぶんと体内の霊気の流れが乱れている様ですな。一体何が……」
「そうか。さっきの影のせいかもしれない。事故のトラウマでパニックを起こしてるんじゃないかな?」
「なるほど。しばらく安静にしていた方が良さそうですな。……あの樹の影が良さそうです」
ローベルトは近くの大木を指差す。
「そうだね。じゃ、いくぞダニエル」
俺は彼に肩を貸して……
「いかん! アキト殿、彼から離れるんだ!」
切迫したローベルトの声。
「な、何を……!?」
ふと見た先。
ダニエルの背から二枚の黒い翼が飛び出していた。
どこかで見たような……。そうだ、これは確かあの時……
俺は慌てて彼から離れた。
「そん、な……」
呆然とする俺の目の前で、ダニエルは変貌していく。
「グ……ガァ……」
それは、苦痛の呻きか。
骨がきしみをあげて変形し、筋肉が大きく膨張する。皮膚は硬化し鎧のごとき鱗で覆われた。そして頭部からは一対のツノが飛び出し、犬歯は牙と化した。そして鋭い鉤爪が伸び、肘や膝、踵からは鋭い刃物状突起が。
「ダニエル、お前……」
その姿はカデスに現れたあの上位悪魔。
返り血を浴びたがごとく朱に染まる巨躯。闇夜のごとき漆黒の翼。
「魔王軍配下、准魔将ヴォルザニエス!」
蒼白な顔のローベルト。
イルムザールと相打ちになった……いや、共に戦った魔族の将。
「そうか……あの戦い後、貴様も異界へと転生していたのだな」
俺の口から、俺の中にいる“誰か”の言葉が滑り出した。
「アキト様⁉︎」
「……やはり貴方は勇者イルムザール。転生されていたのですね。よく似ておられたので、まさかとは思っておりましたが」
「そう……だったのですか……」
ローベルトの言葉に、エルリアは頬を初め、俺を見る。
え?
そう思った瞬間、俺の中の“誰か”――いやイルムザールか?――の意識は霧散してしまった。
「あれ? 俺……いま、何を……」
「ロ、ローベルト様どうするんですか⁉︎ 戻っちゃったじゃないですかー!」
「わ、私のせい⁉︎」
エルリアがローベルトの肩を掴んで揺さぶっている。
あのー、そこで漫才やらんでほしいんですけどー。
というか、今のエルリアの反応はどゆこと?
そうする間にダニエル……いや、ヴォルザニエスはゆっくりと立ち上がった。
「チッ……」
戦わなきゃならんか。俺は心の整理がつかないまま剣を抜いた。
そしてヤツの咆哮が天地に轟いた。




